第18話ー3
「ううう……ラーナさん!!!」
彼は震える指先や、胸元に触れる彼女の柔らかな感触を振り払うようにして、最後の白魔術を一気に放った。
「ハルウィロー!!!!!」
いつも以上に大きな光の粒が、ものすごい勢いで集まり、ラーナの手足へと吸い寄せられていった。花びらのような光が彼女の肌に張りつき、ぎゅっと絞り込むように黒い炎と煙を包み込んでいく。黒いものはみるみるうちに封じ込められ、部屋の中に漂っていた冷気も少しずつ薄れていった。
「ぎゃああああああ!!!!」
魔王の断末魔といはいえ四度目にもなると、オクトももはや聞き慣れていた。彼は即座にラーナの手足を確かめ、腫れや赤みがかなり引いていることを確認すると、ようやく大きく息を吐いた。脈拍にも異常はなかった。
(よかった……! 先に口づけをしているように見せかけながら、薬草をしっかり塗り込んで、ツボへの刺激も丁寧にできた!! 魔王が俺を陥れようと夢中になっている間に、治療を進められて本当によかった……!!)
ほっと胸を撫で下ろし、ベッドから立ち上がったオクトは、部屋の奥にある棚の脇へ目を向けた。そこではミルコが、両手で耳を塞いだまま、しゃがみ込んでいた。
「麻酔魔法をかけてくれてもよかったのに」
「あれは近距離じゃないとできないんだ」
「まあ、ラーナさんの身体に、そんなものをかけてほしくはないけれど……」
「つーか、お前……。あんなことをされて、あれだけ密着して、あんな激しい関係で……よく昼間は普通の顔をしていられるな……」
「いいか? 俺は手にキスをしているように見せかけて、実際には強い薬草を塗り込みながら、手足のツボを丁寧に刺激していたんだよ?魔王が夢中になっている隙に、治療を進めていたんだよ!」
「あまりにも官能的すぎるよ!!!」
「うるさいな!!!」
「しかも相手は、お前が惚れている女だろ?」
「ちょっと!! 何を言って……?!患者だって!!!」
「悪い悪い。でも、よく耐えているなと思ってさ」
「耐えるとか、そういう問題じゃない。ラーナさんは苦しんでいるんです」
慌てふためくオクトを見て、ミルコは感心したように息を吐き、にやりと笑った。
「ははは! 分かってるよ。だから、お前が手を出さないのも分かってる」
そう言って笑っていたミルコだったが、ふと表情を和らげ、少しだけ真面目な顔になった。
「……でも、お前だって男だ。つらくないのか?」
「…………そりゃあ、つらくないと言ったら、嘘になるけど」
「はははは!!だよなぁ……。あんたのこと、見直したよ」
「……?それより、あんたには黒い炎や煙が見えなかったのか?」
「ええ?なんだって?ははは」
暗闇の中で、ミルコとオクトが大きな声で笑いながら立ち話をしていた、そのときだった。
ふっと、部屋の空気が変わった。
二人は笑うのをやめ、ハッとして、同時に棚の方へ振り向いた。その暗がりには、いつの間にか見知らぬ女性が、耳を押さえて座り込んでいた。
女性は二人の顔を見上げ、困惑したように口を開いた。
「お取り込み中、失礼しますが……今のは一体?」
「「!!!!!!?」」




