第17話ー2
(……だからと言って、僕個人としては絶対についてきてほしくないけれど…… でも。ラーナさんのお身体や夜のことを考えたら、他にも優秀な医師の目があった方がいいのだろうか……?)
オクトが頭の中で必死に一人会議を繰り広げていると、ミルコがそっと彼の肩を叩いた。
「大丈夫だ。そこまで考え込まなくてもいい。彼女が美人だから心配してるだろうが、お前と彼女の邪魔はしない」
その、柔らかく、さらりと核心をついた言葉に、オクトはびくっと肩を震わせ、顔を真っ赤にして彼を睨みつけた。
「う、うるさいッ! 勝手にしろっ!!」
思わず吐き捨てるように叫ぶと、オクトは逃げるように彼女の眠る部屋へと駆け戻った。
◇ ◇ ◇
部屋へ戻り、静かにドアを開け、ラーナのベッドへ近づいて手足の具合を確認しようとすると——彼女がそっと目を開けた。
「……起こしてしまって、ごめんなさい」
「もう出発なさいますか?」
「はい……。少し急いだ方が良さそうです」
「分かりました。では、すぐに……」
「一度、お手足を見せてくださいね」
手足を念入りに確認すると、幸いなことに昨夜のような酷い腫れや変形は見られず、状態は落ち着いていた。安堵した二人は、それぞれ手早く旅の支度を整えた。
(……昨夜のことや、ミルコとの会話のことは後で話そう。きっと彼女も断片的な記憶があるはずだし、何かを感じ取っているかもしれないけれど……)
宿の他の客たちが起き出す前に、ラーナは手早く男装を整えて荷物を手に持っていた。女将から朝食用のパンを買い、二人で厩へ向かうと、そこにはすでに、茶色の美しい毛並みの馬を連れたミルコが待っていた。
「……いたのか……」
オクトが思わず呟くと、ミルコは何でもないことのように笑った。
「どうして貴方が……?」
ラーナは驚いた様子でミルコを見つめた。すると、彼は説明しようと、一歩前へ進み出た。
「俺もこれから首都へ向かう。ずっと進む方向は同じだし、どうせこの先も何度か顔を合わせることになるでしょう?せっかくだから、お二人と一緒に旅をさせてもらえないかと思って」
突然の申し出に、ラーナは驚いたように目を見開き、それからそっとオクトの顔色をうかがった。
「旅は道連れと言うでしょう?」
ミルコは、まるで二人の返事を待つまでもないとでも言うように、積極的に話を進めてくる。
ラーナはオクトの方を覗き込んだまま、何も答えなかった。オクトもまた、すぐには返事をせず、無言で厩の方へ向かうと、ククルを連れて戻ってきた。
「オクト様は、どう思いますか?」
ラーナはククルの鼻先にそっと手を寄せながら、オクトのそばへ近づいて尋ねた。
「彼は医師としての責務を果たすために首都へ向かうようですが……どうやら、あなたの容態にも気づいてしまったようです」
「ええ?」
ラーナは驚き、どうしたらいいのかわからないという顔でオクトを見つめた。オクトは小さく頷くと、彼女の耳元へ顔を寄せ、声をひそめて囁いた。
「きっと、こちらが何も言わなくても、ついてきてしまいそうですし……いっそのこと、同行を受け入れてしまおうかと思っています。ラーナさんは、どう思いますか?」
オクトの提案に、ラーナは戸惑ったように眉を寄せた。
「私はオクト様に従います……」
「では、一旦受け入れて、後で二人の時にきちんとお話しましょうか?」
「ええ?」
「昨日も、あれが出ましたし……」
「ううう……」
ラーナは何かを思い出したように、困った顔で小さく唸った。二人はほんの一瞬だけ内緒話を交わすと、そろってミルコの方へ向き直り、ゆっくりと頷いた。
「一緒に向かいましょう。よろしくお願いします」
オクトがそう告げると、ミルコは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「よかった。これからどうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ラーナも笑顔で挨拶し、丁寧に頭を下げた。するとミルコは、胸に手を当て、どこか誇らしげに一礼した。
「ご一緒できて光栄です」
こうして、オクトとラーナにミルコが加わり、三人はそれぞれの馬に跨って、首都へ向けて出発した。




