第16話:追いつく影と消えた姿(オクト視点)
そのままーー決して綿密な計画を立てたわけではないけれど、オクトはミルコとラーナを鉢合わせさせないよう、早朝一番で村を旅立つことに決めていた。ラーナへは一応、「令嬢の姿で動き回っておられたので、男装姿を村の人々に見られないよう、まだ暗いうちに出発しましょう」と筋の通った理由を説明しておいた。
旅立ちの朝。
二人は手早く支度を終えて厩舎へと向かった。大掛かりな道路工事の現場は作業途中のまま静まり返り、人影もまだない。ラーナは作業現場を見つめ、どこか不安げな表情を浮かべていた。
「大丈夫ですよ。きっと、職人さんたちが最後まで完璧に仕上げてくださいます」
オクトから声をかけると、彼女は振り返って優しく微笑んだ。
「はい。村の道路工事の進捗についてですが、一応、ミネル家の使いに依頼して、最後まで問題なく完成するか見届けるようにと、弟へ手紙を出しましたので……きっと大丈夫だと思います」
「さすがですね。もうそこまで手配されていたとは……」
二人は朝靄に包まれるワイマー村と工事現場を静かに見下ろすと、再び巨馬ククルの背へと跨がり、次なる町を目指して街道を急いだ。
◇ ◇ ◇
そこから先は幾つもの村や街がすぐに連なっているかと思いきや、本格的な宿場町の連なりが始まるのは、さらに次の町からだということが地図で判明した。二人でもう一度ルートを精査し、目的の町を目指して走り続けたものの、到着する頃にはやはりすっかり夜の闇に包まれていた。
その日の夜。二人はデイシアという巨大な町へ到着した。 久しぶりの長距離移動で疲弊しているラーナを気遣い、オクトは一刻も早く彼女をベッドで休ませてあげたいと焦っていたが、肝心の宿探しが難航していた。
このデイシアは、首都へと続く街道の最終拠点であり、広大な大森林へと踏み出す最後の砦。地方と首都を結ぶ格安の乗り合い馬車の終着点でもあった。ここから徒歩や個人馬車に切り替える旅人が非常に多く、厩舎も街の通りも、とにかく多くの人々でごった返していた。
(どうしよう……早くラーナさんを休ませなければ……っ!)
オクトはどうにかククルを厩に預けたものの、最初に訪れた宿では断られ、二つ目の宿でも門前払いを受けてしまった。仕方なく、ラーナを一度、広場の階段に座らせ、そこで待っていてもらうことにした。「大丈夫です」と微笑む彼女を一人残すのは不安だったが、オクトは大急ぎで三軒目、四軒目の宿を回った。
そしてついに、裏通りの小さな宿で一室を確保することに成功した。 安堵して大急ぎで広場へと駆け戻ったオクトの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
なんと——彼女のすぐ隣に、あのミルコが立っていたのだ。
(……!!? どうして……)
「どうして……あなたがここにいるのですか!?」




