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第15話ー2

 太陽が天頂へと差し掛かり、日差しが眩しさを増す頃。

オクトとミルコの前に並んでいた患者たちの姿がひとまず途切れた。


オクトがラーナの姿を探して広場を見回すと、石を運び、テキパキと路面に敷き詰めている石工職人たちのすぐ傍らに彼女の姿があった。 ラーナは大きな水桶を抱え、カゴいっぱいに盛られた焼きたてのパンや瑞々しい果物を手に取り、汗を流す職人たち一人一人へ笑顔で配っていた。


(まさか、あそこまで手伝っているのか……!)


驚いて今すぐ止めに行こうと立ち上がろうとしたオクトに、隣のミルコが制するような声をかけた。

「あのお嬢さん、確か侯爵家の令嬢と言っていなかったか? あんなに多くの平民や職人たちのために泥まみれで働いて……一体どうなっているんだ? 貴族なんてものは働くこと自体を蔑むのに……」


「……あの人は、いつだって自分のことより他人のことを先に考える人なので」

出会ってすぐの頃から、激痛に耐えながらも「私のことより、他の患者様や村の方々は大丈夫ですか?」と自分を気遣っていた彼女の姿が、オクトの脳裏をよぎる。



「なるほどな。確かに。見知らぬ村人のためにあそこまで尽力できるなんて、本当に恐れ入るよ」

ミルコの言葉を聞いているのかいないのか、オクトはやはり居ても立ってもいられず立ち上がった。


「……ちょっと、止めに行ってきます!」

「おいおい……」

ミルコがオクトの袖を引いて引き留めようとした瞬間、こちらの動きに気づいたラーナが、カゴと水桶を抱えたまま、パッと花が咲くような笑顔でこちらへと歩み寄ってきた。 その姿を見たオクトは、急いで彼女を迎えに駆け出すと、結局二人で荷物を分け合い、ミルコの待つ木陰へと戻ってきた。


「どうしました?」

ミルコの問いかけに、ラーナは汗を拭いながら爽やかに微笑んだ。

「お二人とも、そろそろお腹が空いた頃でしょう? 村の方々や患者さんたちには、少し時間を空けてからまたお越しいただくようお願いしてありますので、今のうちにどうぞ召し上がってください」


結局、オクトも彼女の滑らかな誘導に従って、差し出された水で手をきれいに洗い流し、パンを口へと運んだ。ミルコもまた、オクトと同じようにラーナの手際よすぎる流れに沿って、おとなしく手を洗ってパンを頬張り始めた。


ラーナは並んで座る二人のすぐ横に別の木箱を持ってくると、果物や追加のパンを丁寧に並べ、「では、私はまたあちらのお手伝いへ行ってまいりますね!」と風のように去っていった。


その背中を愛おしそうに呆然と見送るオクトに対し、隣のミルコが可笑しそうに声をかけた。

「……止めなくて良かったのか? あれほど心配だと言っていたのに」

「止めましたし、部屋で座っているように何度も言いました……けれど、全然聞く耳を持ってくれないんです……」


ぶっきらぼうに吐き出すオクトの声に、ミルコはまた口元を緩めた。

「あのお嬢さんも、相当な頑固者だな」

「ええ……手足が痛んで歩くことすらやっとだった時に、家族に告げもせず一人で一ヶ月も旅をして、僕のいる修道院までやってきたくらいですから……」

「……すごい精神の強さだな」

「……ところでミルコ医師は、一体どこで彼女と出会ったのですか?」


オクトの声に応えようとミルコが振り返ったその瞬間、彼の目に入ってきたのは驚くべき光景だった。

「ごめん、その話は後だ! ラーナさん、井戸の冷たい水を汲みながら手を押さえているぞ……!? 冷えたら傷むんだろ? あの方も天風の病だ……」


その言葉を聞くや否や、オクトは立ち上がって水場へと一直線に駆け出した。そして大慌てで彼女を清潔な木箱に座らせると、すさまず手足の治癒と温めを開始した。


「こんな冷たい水に何度も直接触れていたら、急激に冷えて激しく痛みますよ! お願いですから、水汲みは別の人に代わってもらってください!」

「他に人手が見つからず……。では、私が直接水に触れないよう注意しますね!」


「いいえ! 水は昨日のように僕が全部運びますから、ラーナさんは一切気にしないでください! いいですね!?」

「はい……」


そう素直に返事をするや否や、彼女は急にやってきた村人に挨拶を交わすと、診察の受付対応をしようとすぐさまオクトの傍らを離れていってしまった。オクトはため息をつきつつも、急いで自分で水を汲み上げる動きへと切り替えた。


(やれやれ……それにしても、まだ休まずに動き回っている……)

オクトが肩を落として呟く横で、ミルコが二人のやり取りをじっと見つめていた。

「ラーナさん……本当に優しくて行動力のある方なんだな。そもそも、道路工事まで実現させてしまったんだから、この村にとっては、医者よりも医者らしい人かもしれない。正直、尊敬するよ」


ミルコの偽りのない素直な感嘆を聞きながら、オクトはどこかぼんやりとしていた。

(ラーナさんが『悪女』なんて呼ばれて誤解されるのは本当に嫌だったけれど……それ以上に、胸の奥からモヤモヤするのは、一体何なんだろう……?)

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