第14話ー2
(手を掴んでくれれば、うまく歩けるだろうのに……! 何でもかんでも自分で解決しようとするんだから……っ!)
「ところで……あなたは、先ほどのミルコ・ホジッチ先生ですね。どうしてこちらに?」
ラーナは、隣にいるミルコに気づいて不思議そうに尋ねた。ミルコは軽く会釈をしてから、少し探るような口調で答えた。
「……あの男爵は、今日の昼に真っ先に俺の診療所を訪ねてきた方なのです。お薬をお渡しするふりをして、あなたを探そうかと……」
「ミルコ先生まで付き合わせてしまうなんて……すみませんでした」
「いいえ……」
ミルコとラーナのやり取りにどこかモヤモヤする気持ちを覚えながらも、オクトの頭の中は、ヘドロの道を大変そうに歩くラーナのことで一杯だった。
どうにか手を貸そうとするオクトの頑なな(そして過保護な)リードを避け、ラーナが比較的舗装された安全な裏道を回って遠回りしたせいで、宿へ辿り着いた頃には、すっかり遅い時間になっていた。
けれど、ようやく宿の前までたどり着いた三人を待ち受けていたのは、思いもよらない出来事だった。
「……お尋ねしますが、ミネル侯爵家ご令嬢の、ラーナ・ミネル様でいらっしゃいますよね?」
暗がりの中から、屈強な男性が三人、ラーナの姿を見つけるなり、足早に近づいてきたのである。
「はい」
ラーナの方へ一歩、また一歩と距離を詰めてくる男たち。その切迫した様子に、オクトとミルコは瞬時に危険を察知し、鋭い殺気を纏いながらラーナの前に大きく身を乗り出したのだった——。
「先に名を名乗れ!」
いつになく強い口調で告げたオクトに、ラーナは驚いて彼の横顔を見上げた。しかし、三人の男性たちは怯むことなく、頭を下げたまま丁寧に自己紹介を始めた。
「失礼いたしました。先ほど、ラーナ様が石工場にいらした際に、ご挨拶させていただきました、この村の石工職人の弟子、イヴァンと申します」
「同じく、ダニエルと申します」
「ミハイルです」
三人は無骨な風貌に似合わず、礼儀正しく、深々と頭を下げていた。
「先ほどは、工事の手配について、主人たちとお話をまとめてくださり、本当にありがとうございました」
「ご令嬢が明日から始まる工事の手配をしてくださったと聞き、現場の下見と共に……どうしても一言、御礼を申し上げたくて参りました」
その予想外の報告に、オクトとミルコは目を見開いてラーナを振り返った。
「!!!?」
「道路の整備については、ラーナ様がお越しになるずっと前から、村人たちの間でも何度も話し合ってきました。ですが、どれほどお願いしても、男爵様はまったく聞き入れてくださらなかったのです」
「それを一体どのように説得してくださったのか、私たちには見当もつきません。ただ、この地域の衛生や病気の問題を改善するために、これほど大きな一歩を踏み出せたこと、本当に感謝してもしきれません」
「本当にありがとうございます!このご恩は決して忘れません」
「いつか必ずや、令嬢様のために何か恩返しを……!」
涙ぐみながら頭を下げ続ける職人たちを制するように、ラーナは柔らかく微笑んで語りかけた。
「こちらこそ、本当にありがとうございます。お気持ちだけで十分ですから、どうか明日の工事に備えて、今日はゆっくり休んでくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
ラーナは一歩前に出ると、三人それぞれと固く握手を交わした。そして、彼らの顔を見渡しながら、まるで心から応援するように、明るい笑顔を向けた。
「皆様こそが、この村を救う真のヒーローです!!明日から、どうぞ頑張ってください」
「ラーナ様……!」
三人の弟子たちは、感激したように再び頭を下げ、それから名残惜しそうに宿を後にしていった。
その様子を見送っていたオクトは、ふと、あることに気づいて自分の目を疑った。
(大変だ!なんか変だと思ってたんだ!!!)
ラーナの首元に、いつもひっそりと身につけられていたはずの首飾りが見当たらないのだ。今日の昼間も、彼女の胸元には確かにアメジストの宝石が揺れていた。ところが今は、チェーンさえ見えなくなっている。
弟子たちの姿が遠ざかるのを見届けると、オクトは思わず声を張り上げた。
「まさか!!……ラーナさんがいつも身につけていた、あの大粒のアメジストを担保にしたんじゃないでしょうね?」
「いいえ」
「では、どこへやったんですか?なくすようなものではないでしょう?毎日身につけていましたよね?」
「ちょっと、いらなくなりまして……」
「えええええ??!もうっ!あなたが何をしでかすのか、心配で仕方がないです!!!」
(絶対に、あの宝石を使って男爵たちと交渉したに違いない!担保どころか、そのまま譲り渡してきたとか言うんじゃ……!)
湯気を吹き出しそうな勢いで問い詰めるオクトを見かね、ミルコはラーナを庇うように片腕をサッと前に出してオクトを制した。そして、彼女へ向けて感心したような笑みを向けた。
「ラーナ・ミネル嬢が、こんなに素晴らしい方だったとは!まさか、この短時間で道路工事のための交渉までされていたなんて……!!」
「いえ、大したことは何も……」




