第13話ー2
(……まったく。こんな愛らしいお願いを断れるはずがないことくらい、この人も分かっているくせに)
オクトはそんなことを思いながらも、すぐに返事をせず、困ったように首を振った。ひとまず荷物を抱え直し、ラーナのマントをそっと引いて、まずは宿の中へと連れていった。
そして宿の店主に荷物だけを預けると、入り口の影で先にラーナの手足へと白魔術を施し、丁寧にツボを押し、指圧を行ってから薬草を巻き直した。ラーナはその間、ずっと黙ったままオクトの顔色を伺っている。
「五、四、三、二、一」
オクトが数え終わる頃、ラーナはまだ両手を組んで真っ直ぐな眼差しを向けていた。
「あのう……オクト様……?」
「はああああ……」
オクトは思い切り、大きなため息をついた。
「いいですか?僕たちには大きな任務がありますし、ここまでの旅で疲れもたまっています。それに、あなたに何かあったら大変なんですよ?」
「それは、そうなのですが……私も、何かお手伝いしたくて……」
今にも立ち上がって動き出しそうなラーナを見て、オクトは右手を出し、どうにか座っているように制した。
「まったく……。わかってますよ。僕が行きます。行けばいいんでしょ?でも、せめてラーナさんはここに座っていてください。宿で食事をとって、ここで待っていてくださいね。絶対に動いちゃダメですよ!」
「わあっ!! 嬉しい!!」
その返事を聞いた途端、ラーナは本当に嬉しそうな笑顔になり、オクトの両手を取った。
「さすがです! 私を救ってくださったオクト様ですわ!」
そう言って、まるで子どものように喜び、跳ねる彼女を見ながら、オクトは心の中で小さく呟いた。
(でも、ラーナさん以外に効いた試しはないんだけどね……とほほほ)
そんなことを思いながらも、オクトは店主に、清潔な温泉水を汲める場所を尋ねた。教えられた水場へ向かうと、水の透明度や周囲の状態を確認し、問題がないことを確かめてから、たらいにたっぷりと汲んだ。それを抱えてミルコのいる診察場所へ戻り、人だかりの一番奥まで進んでいくと、ミルコはオクトの姿を認めた途端、何かを確信したように小さく頷いた。
「オクト神官!来てくださったんですね。では、こちらの方をお願いします」
「はい。失礼します」
オクトが診察に取りかかろうとした、そのときだった。
「あ、その前に少しだけ」
ミルコは周囲の人々に聞こえないよう、オクトの耳元まで顔を寄せ、小さな声で囁いた。
「急死した二人は、そこのぬかるみを歩いていたときに、錆びた釘が足に刺さったらしい」
その一言を聞いただけで、オクトにも状況が見えてきた。
(やっぱり……)
その一言だけで、オクトの頭の中で全ての線が繋がった。 オクトの推測通り、亡くなった患者たちはもともと皮膚炎を抱えていただけだ。傷口へ釘が深く刺さったことで菌が密封状態で侵入し、恐ろしい破傷風を引き起こしたのに違いない。村人たちは二つの病を混同してパニックになっているだけだろう。




