第11話ー4
オクトの表情がぱあっと明るくなり、彼は照れくさそうに首元へ手を当てながら、ふっと笑みをこぼした。
「へへへ……。なら、よかったですが……」
彼はそれから、気持ちを切り替えるように眼鏡を直し、改めてラーナの方へ向き直った。どうやら、これでようやく、次の話に進めそうだった。
「ところで、ラーナさん。お身体がだいぶ疲れて、病気や痛みも進行していたようですが、ククルに乗って移動するのは、かなり苦しかったですか?」
「そうですね……。体勢が少しきついかもしれません。姿勢を変えられたら楽になると思うのですが……」
答えながら、ラーナは心の中で、ずっと気になっていたことを考えた。
(この世界で、私がズボンを履いて、男性のように馬にまたがってしまうのは、やっぱりよくないことなのかしら……?)
女性は長いスカートのまま横向きに乗らなければならないとはいえ、身体への負担が大きい。まして、今の自分では少し無理をするだけでも症状が悪化してしまう。旅を続けるのであれば、何よりもまず、身体に負担のかからない方法を考えなければならない。
「ラーナさんの中で、こうした方が楽になりそうだ、という考えがあるのでしたら、何でも教えてください」
オクトはそう言って、こちらの返事を待っていた。彼は、ラーナが言葉にする前から、何か思うところがあるのを察しているようだった。
「……男装をして、男性のような格好で乗ってもいいでしょうか?そうすれば、もう少し楽な姿勢で乗り続けられると思うのですが……」
ラーナが思い切って打ち明けると、オクトはすぐに納得したように頷いた。
「長距離の移動ですからね。これから先も、ラーナさんのお身体に負担がかからないことを一番に考えたいです」
「ありがとうございます」
「ただ、ほかの人に見られると、いろいろと醜聞になってしまう可能性もありますから……。男装をするのであれば、何も言わず、最初から男性だったかのように、平然としていればいいと思います」
「そうですよね。では、手持ちのスカートをいくつか、ズボンに縫い直してみます」
(日本にいたときのように、小さなハサミと針と糸だけでも家から持ってきていて、本当によかった!)
この世界では本当にモノが少ない。こういうときに役立つ、細々としたものを持っているのは、やはり心強い。
「早速、始めようと思います」
「わかりました。では、僕は一度ククルの様子を見にいって、それから村で買えるズボンなどないか、探してきますね」
「はい。お願いします」
オクトが席を立って部屋を出ていくと、ラーナはさっそく荷物の中からスカートを二着選び出し、裁縫道具を手元に広げた。生地を確かめながら、どこを切り、どう縫い直せば動きやすくなるかを考えていく。
けれど、手を動かしているうちに、先ほどの会話がふいに頭の中によみがえってしまった。
(……よく考えたら、キスがどうこうって、私たち、いったい何を話していたんだか……。恥ずかしすぎる……!!)
一方その頃、宿を出たばかりのオクトもまた、ラーナと同じように、顔から火が出そうなほど真っ赤になっていた。
(キ……キスの話ばかりしてしまった。……いや、あれは魔王の仕業であって、ラーナさんの意思ではない。そう、わかっている。わかっているんだけど……!)
二人とも、それぞれの場所で必死に平静を取り戻そうとしていたのだった。
ーーでも、その頃。二人は気づいていなかった。
宿で、怪しい影が二人のすぐそばに、ずっと長いこと潜んでいたことを。




