第6話:夢のような朝と魔術誓約 (オクト目線)
キラキラと朝の柔らかい光が差し込んできた。
ぼんやりとした視界の向こうに、少しずつ輪郭が浮かび上がってくると、ラーナがこちらを見て笑っていた。
「見てください!また手足が軽くなったんですよ!全然痛くないんです!」
嬉しそうに両腕を上げて、妖精のようにクルクルと可憐に舞っている。その姿からは、あれほど苦しんでいたことなど、まるで嘘のようだった。
(ああ、ラーナさん、夢の中ではこんなに軽やかに動けるんだ……)
美しい夢の中で、ラーナは花が咲いたような満面の笑みを浮かべていた。
オクトは残酷な現実を想うと、胸が締め付けられるような切なさを覚えていた。
「ほら、手の腫れも赤みもなくなっています……私の指、本当は細いんですよ」
淡い生成り色のワンピースに、朝日を透かす明るい髪。窓の外では新緑が風に揺れ、世界そのものが彼女の回復を祝福しているかのようだった。
彼女はふわりと、オクトが突っ伏していたベッドの端に腰掛けた。オクトは、すぐ目の前に差し出された、彼女の手を取った。
柔らかい。
驚いたことに、右手の手首も指先も、赤みもむくみもどこにも見当たらない。
(今日はだいぶ痛みがひいている)
「オクト様」
ラーナが、にっこりと微笑む。
「私、オクト様の患者になります」
その瞬間だった。
オクトの掌から、光の花びらが大空へと舞い上がる。
パァンッ!!!
――と大きな祝福の音が弾けた。
白銀の光が二人の小指へと集まり、きらきらと輝きながら、指輪の形を描いていった。
誓約魔術。それは、白魔術師と患者を結ぶ、契約の証だった。
「ああ……」
夢の中のオクトは泣きそうなほど嬉しかった。
(初めての、患者さんとの契約だ……)
「ラーナさん……僕のことを信じてくれる人は、この世であなただけです」
重なった手から、温もりが伝わってくる。まるで、二人の体温がひとつに溶け合っていくようだった。
――そのとき。
(――あれっ!?)
あまりにも生々しい感触に、オクトは勢いよく目を開けた。
目の前には、夢の中と寸分違わぬ光景が広がっていた。
「ラーナさん!?」
「はい。これからよろしくお願いします、オクト先生」
「それは流石に、病院じゃないんで、やめてください!!」
「ふふふ、ではオクト様で!」
にこにこと笑うラーナ。
そして気づく。
オクトは彼女の顔を見つめ、それから、自分の手元へ視線を落とした。
……握手したままだ。
夢の中と同じように、彼女の手を握っている。
その事実を認識した途端、急激に、動悸が激しくなる。
「え……?」
頭が真っ白だった。
「あれ?今のって、夢なのでは……?」
「はい?」
「あれ?今、何ておっしゃいました!?」
「オクト様の患者になります、とお伝えしたのですが」
「わああああ!?ちょっと待ってください!!」
オクトは真っ青な顔で飛び起きた。頭は寝癖がついて、ぐしゃぐしゃだった。
ラーナが目をぱちくりさせる。
「え?どうされました?」
「『患者になります』なんて軽々しく言わないでください!」
思った以上の剣幕に、ラーナの肩がぴくりと震えた。
「す、すみません……」
「それに僕は神官じゃなくて、ほとんど神官見習いみたいなものなんです!」
「え?」
「いや、そういう問題でもないんですけど!!」
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……! 夢だと思っていたのに! どうして現実になってるんだ!?)




