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異世界転生した俺が本物の戦士に脳を焼かれる話  作者: 廃くじら


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第21話~決断~

『とう、さん……?』

『マド……にげ、ろ……っ』


父との別れに関しては正直記憶が曖昧だ。


あの日、家に帰ると父が作業場の床に倒れて苦しんでいて、その傍らにローブを纏った女が立っていた。


その女が自分の母親だと気づいたのは暫く後になってからのこと。父の遺品に母の絵姿を見つけて、それでようやくその女が母親だったのだと理解した。


我ながら間の抜けた話だが、それも仕方がないと思う。だって物心ついてから母親に会ったことなど一度もなかったし、何より──


『……混じり物か』


こんな風に自分に冷たく無関心な目を向ける女が、血の繋がった母親だなんてどうして想像できる?


『…………』

『まて……えかて……りぃ……』


何が起きているか理解できず固まる自分と、腕を伸ばして追いすがろうとする父を無視してその女は悠然と家を後にした。


女を制止すべきだったのかもしれないが、正体不明の恐怖と目の前で苦しむ父の存在に気をとられて動けなかった。


『ぐぁ……っ!?』

『父さん!?』


目の前で父の肉体が肥大化し、青白く色を変えていく。


漠然と、何か良くないことが起きていることだけは理解できた。


『ま、ど……おレ、を……ころ、しテ……』

『…………』


けれど理解は出来てもそれだけで、人ならざる者へと姿を変えていく父を前に、マードレッドの身体はどうしても動いてはくれなかった。




──そして二年が経ち、あの時の負債が今マードレッドの目の前にある。


「キレイなもんだろう? こいつには才能がなかったから、他の連中みたくお前に砕かれてたらどうしようもなかったんだが……お前自分の父親だけは始末するのを躊躇したな? 大きな損傷がなかったお陰で、こうして再利用することができた」

「あ……ぁぁ……」


目の前には青白い屍人と化し、腐敗しながらも未だ原型を保っている父の姿。


動揺し動けないマードレッドを見て、ガンドルフォは皮肉気に嗤う。


「正直、拾ってはみたものの利用価値があるとは思ってなかったんだが──なんでも取っておくもんだな。まさか無慈悲に俺たちを砕いて回ったお前が、身内の前じゃこんなにも脆いとは思いもしなかったぜ」

「…………」


ガンドルフォの嘲りが耳を素通りしていく。


「…………ひっ」


自分へと手を伸ばす父の遺体を前にマードレッドの心は限界に達し、その意識を暗転させた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


マドさんは自分たちより半日以上早く町を出発した。向かった大まかな方角が分かっているとはいえ追いつくのは容易いことではない。


だが私たちにはマドさんを追う上で二つ、有利な点があった。


一つは移動手段。金を持ち出した形跡はないのでマドさんは徒歩で移動している筈。対して私たちは馬をレンタル。あまり良い馬は借りれなかったが、それでも徒歩と比べれば倍近いペースで彼女を追うことができる。


もう一つは些か怪しくはあるもののディネルースの存在。


「こっちよ」

「……っ」


指図するなと言う言葉を飲み込んで、私は先導するディネルースの後を追って慣れない馬を操る。


アンデッドの集団に向かったであろうマドさんを追うというこのシチュエーションに限って言えばディネルースは極めて有能な案内役だった。彼女は僅かなアンデッドの痕跡と周辺の地形から的確に私を先導し、日付が変わる前に街道を外れた荒野を東へと移動するアンデッドの群れを発見してみせた。


私たちは敵に見つからないよう距離をとったまま林に身を潜めて様子を窺う。


遠目には分かりづらいが屍人中心のアンデッドの群れ。ゴーストやスケルトンは見当たらず、どの個体も肉を保持しているように見えた。数は……この位置からだとよく分からない。一〇〇よりは多そうだが五〇〇には届かないように見えた。


群れは知性がないとは思えない整然とした足取りで夜の荒野を東へ向かって移動している。


さて、あの規模のアンデッドの群れがいくつもあるとは思えない。あれが噂になっていた件の群れであり、マドさんがアレを追っていたことは間違いないだろう。問題は──


「マドちゃんは、もう群れと接触した後みたいね」


同じように群れを観察していたディネルースが淡々とした声音で推測を口にする。私は焦燥を呑み込み努めて冷静に疑問を投げた。


「……根拠は? 知らない内に私たちが追い越して、まだマドさんは群れに接触してない可能性もあるでしょう」

「分かり切ったことを聞くのは良くないわよ」


ディネルースはチラと私に視線を向け、探るように首を傾けて続けた。


「──それとも本気で聞いてる?」

「…………」


まるで見たくない現実から目を逸らしていると言われている気がして、私は思わず顔を背ける。


「……まぁ、いいわ。根拠はあの群れが東に向かっていることよ。最初の目撃情報からすると、あの群れはこれまで何か目的をもって少しずつ西へと移動していた。まるで探しものでもしているようにね。その動きが変わったということは、順当に考えて目的を達したか問題が起きたかの二択。そしてあの群れが持っていた意味ありげな木片と、それを見て顔色を変えて姿を消したマドちゃん、このタイミング──答えは一つしかないでしょう」

「あり得ない」


私は反射的に言い返していた。


「何でマドさんが狙われてるなんて話になるんです? あんな町一つ落とせそうな群れが、わざわざマドさん一人を狙って動いてた? いくらなんでもそんな──」

「じゃあどんな理由なら納得できるの?」

「どんな、って……」


問い返されて言葉に詰まる。町一つ落とせる規模のアンデッドの群れ自体が既に普通ではないのだ。そんな戦力を集めて動く合理的な理由など、私には想像がつかなかった。


「現実だけを見なさい。死んでも生きようなんて狂った連中の行動に納得いく理由を求めようなんて考えがそもそも間違ってるのよ。確かなことは、マドちゃんと連中の間には何か繋がりがあって、それに気づいたマドちゃんは姿を消し、タイミングを合わせるように連中は動きを変えた。目的を達したと考えるべきだわ」

「目的を……達した」


呆然と、その言葉をオウム返しする。


それはつまり──


「殺されたか捕まったか」

「っ!」


目を逸らそうとしていた可能性をディネルースに指摘され、思わず息を呑む。


いくらマドさんであってもあの数の敵にぶつかれば勝ち目は薄い──いや、無い。わざわざ私たちを置いて一人で向かったのだ。敵が多いからと言って退くようなことは無かっただろうし、策を弄するタイプでもない。既にあの群れと接触していたなら、十中八九敗北しているだろう。


「…………」

「敵もこれだけの手間をかけて探してたわけだし、ただ殺して終わりってことはないでしょう。だけど捕まえるにしても生かしたままである必要があるかは微妙なところね。敵の狙い次第ではとっくにあの群れに取り込まれてるでしょう」


ディネルースの言葉は合理的で否定しようがなく正しい。そして何より容赦がなかった。


「それで、どうするの?」

「……どうする? どうするってそんなの──」


──どうするんだ?


問われて、呆然とする。当然、助けたいがマドさんが無事かどうかも分からない。そもそもあの数相手に私とディネルースの二人だけで何が出来るのか。どうしろと言うのか。


「…………」


私が言葉をなくして俯いていると、ディネルースは嘆息を一つ。


「決められないなら私は町に帰るわよ? 最低限の目的は達成したから、あの群れの情報を神殿に報告して手を引かせてもらうわ」

「……目的?」


意味が分からず問い返すと、彼女は頷いて自分の目的を説明した。


「ええ。一番心配だったのはあの群れが町を襲撃することだから。あの様子ならもう差し迫った危険はないでしょう」


つまりディネルースにとっての最悪の事態は、マドさんを狙ってあのアンデッドの群れが町を襲撃することで──


「まさかっ! まさかあんた、全部分かっててワザとマドさんにあの木片を見せたんじゃ──!?」

「そんなわけないでしょう」


思わず掴みかかろうとした私の手をアッサリと払いのけ、彼女は素っ気なく続けた。


「最初から全部分かってたならあんな回りくどい真似はしない──というか、仮にそうだとしても非難される覚えはないわね」

「~~~~っ」


それはその通りだ。どんな理由があれ町が襲撃され危険にさらされるような事態は避けねばならないし、そんなことはマドさん自身も望むまい。それは重々分かっているのだが──


「…………はぁ」


何も言えずただ身体を震わせる私を見て、ディネルースは溜め息を吐く。


「──白状すれば、こういう状況をまるで想定してなかったというと嘘になるわ」

「!?」


驚いて顔を上げるとディネルースは、ほんの少しだけ後ろめたさを感じさせる表情で続けた。


「あの日、太陽神神殿で私が貴方たちに声をかけたこと、偶然にしては出来過ぎてると思わなかった?」

「それは──」


正直思った。こんな都合の良い人材は向こうから声をかけて来るなんて、と。だが、その偶然を否定する要素も見当たらなかったのでその時は特に気にしていなかった。


「私はあの日、神託オラクルを受けてあそこにいたの──『大いなる危機を回避するため、太陽神の神殿を訪れる者に手を貸せ』ってね」

「…………」

「正直、貴方たちは才能はあっても全然未熟で、何で貴方たちに手を貸すことが大いなる危機を回避することに繋がるのかちっとも分からなかった。だけどマドちゃんがいなくなった時、何となく分かったの。神様はきっとマドちゃんを町から離したかったんだって」


つまり、もしディネルースがあの木片をマドさんに見せていなければ、あのアンデッドの群れがマドさんを狙って宿場町を襲っていた可能性があったということか。


それを避けるために放浪神がディネルースを動かしたのだとすれば、彼女を非難することなどできよう筈がない。


「…………」


呆然とする私を見かねて、更にディネルースは続けた。


「……一緒に町に戻りましょう。このまま無策で突っ込んでどうにかなる状況じゃない。流石にあの規模の群れであれば騎士団や神殿が動いてくれる。早く討伐すればマドちゃんも助かるかもしれない」

「…………」


その言葉は正しい。ある事実を考慮しなければどうしようもなく正しい。正しい、のだけれど──

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