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異世界転生した俺が本物の戦士に脳を焼かれる話  作者: 廃くじら


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20/23

第20話~屍者~

『ガンドルフォはどうしてこの町にいるんだ?』


何故そんな質問をしたのかはよく覚えていない。ただ子供の不躾な質問に父の友人が困ったように顔を歪めたことだけは何となく覚えている。


『あん? 藪から棒にどうした、マド?』

『父さんが言ってた。ガンドルフォは騎士にならないかって誘われたこともある凄い戦士で、本当ならこんな田舎で衛士なんてやってる人間じゃないんだぞ、って。品がないから騎士は流石に盛り過ぎだとしても──』

『おいこら』

『この間も傭兵団に誘われてたし、冒険者でも何でも戦士としては引く手数多じゃないか。何でこんな田舎町に留まってるんだ?』


子供の問いかけにガンドルフォは口元を歪めはぐらかすように苦笑した。


『何だ? 俺に町から出ていって欲しいのか?』

『そんなことはない!! ただ……』

『ただ?』

『……この町はドワーフが多くてヒューマンにはあまり居心地が良くないだろう? だから、何でなのかなって……』


その頃自分はちょうどヒューマンの血を自覚するようになり、同世代のドワーフの子供たちとの違いに悩んでいた。


『……はぁ。別に大した理由はねぇよ。元々俺は英雄になるんだ、って故郷を飛び出して冒険者になった口なんだが、残念なことに俺の才能は英雄になれるほどのもんじゃあなくてな。他に出世の道がないわけじゃなかったが、騎士だの人を使ったりってのはどうも性に合わねぇ。エカテリーナが妊娠したタイミングでパーティーが解散して、俺は何となく流れでオルドリックとこの町に来て、お前さんが生まれて……うん、本当ただの成り行きだな』

『?』

『まぁ、あれだ。いつでも出ていけるのにそうしないってことは、何だかんだ居心地がいいってことなんだろうさ』


ほろ苦く笑うガンドルフォのその言葉の意味を、きっとその時自分は半分も理解できていなかった。


『それよりお前こそ、毎日俺のとこ来て剣振ってないで他の娘っ子みたいに細工や料理の一つも覚えたらどうなんだ?』

『……ああいうチマチマした作業は苦手だ』

『ああ、力入れ過ぎて銀細工の見本を壊しちまったんだっけ?』

『うるさいな! 俺は父さんみたいな刀鍛冶になりたいんだ! だけど父さんが「お前にはまだ早い」っていうから……』

『それならせめて武器を使う側の気持ちを知りたいって? 真面目なこった』

『…………』


揶揄うようなガンドルフォの口調に、ついムッとした表情になる。


『まぁ、あんまり今から自分を枠にはめ過ぎないこった。オルドリックがお前さんに鍛冶を教えないのもその辺りが理由だろ』

『?』


意味が分からず首を傾げるマードレッドの頭をくしゃくしゃとかき混ぜて、ガンドルフォは快活に笑った。


『未来の可能性は無限に広がってるってことさ。お前さんはエカテリーナに似て器量良しだからな。オルドリックとしちゃいいとこに嫁入りでもして欲しいんだろうさ』

『ふんっ! そんなの興味ない!!』

『グハハッ!』




『ガンドル、フォ……?』


かつての快活さが見る影もない、青白い顔をした師の姿。


『マド……カ? ダス、ケ……イダイ、ア、ヅィ……グラァ──』


助けを求めて伸ばされる手に、ただただ恐怖を感じてマードレッドは剣を振りかぶる。


『う、うわぁぁぁぁぁっ!!!』


──グシャッ


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


マードレッドが町を飛び出したその日の夜。当てもなく無我夢中で東へと歩を進め、彷徨う屍人を追い道を外れて辿り着いた野原に男はいた。


「あん時はヤバかったな~。お前に身体をぐちゃぐちゃに砕かれて、とっくに痛みなんてない筈なのに恐怖で気が狂って死ぬかと思った──ああいや、実際とっくに死んでたんだけどな?」

「…………」


肩を竦めて笑うその男は、間違いなくマードレッドの記憶にあるガンドルフォのものだった。


父の友人で、自分の剣の師で──二年前に母の手によりアンデッドへと変えられ、この手で止めを刺した男。


「っ!」


マードレッドは背中の鞘に収めた大剣の柄に手をかけ、鋭く男を睨みつける。


「お前は……誰だ?」

「おいおい。その歳でもうボケたかマードレッド? さっき自分でも言っただろう。ガンドル──」

「ガンドルフォは! ガンドルフォは……二年前、俺が殺した……っ!」


マードレッドは血を吐くような声で男の言葉を遮る。


「亡者となっていたあの人を! 俺は──俺がこの剣で、二度と彷徨い出ぬよう破壊したんだ!! 確実に殺した!! 生きている筈がない!!」


支離滅裂なことを言っているという自覚はあった。大剣を握る手はガタガタと小刻みに震えている。目の前に立つ男の存在は今でも現実とは思えない。


「──クハッ」

「っ」


男が嗤う。ただそれだけのことで、マードレッドは一歩後退っていた、


「そう怯えるな、マードレッド」

「俺は怯えてなど──」

「自分に都合の悪い現実から目を逸らし否定する──それが怯えでなくて何だ? お前に剣を教えた時、最初に伝えた筈だぞ。その剣は、お前に都合の悪いものを否定するためにあるわけじゃない、と」

「──っ!」


その言葉は間違いなくガンドルフォのものであり、自分と彼しか知り得ぬ筈の内容だった。


男は両手を大きく広げるように肩を竦めて続ける。


「何、別に大した話じゃあない。あの時、確かにお前は俺の身体をバラバラに砕いていたし、あそこから復活することは並の屍人じゃ不可能だっただろうさ」

「なら──!?」


そこでマードレッドは、ガンドルフォの口元に伸びる牙に気づいて絶句する。


「気づいたか? そう、もしもあの時屍人のままだったなら、俺はあのまま朽ち果てるしかなかった。だからこいつはある意味お前のお陰かもな。お前の一撃が、消滅の恐怖が、死の底で俺を覚醒させた」

吸血鬼ヴァンパイア……」


夜の貴族。特殊な魔術を用いた転生か、ヴァンパイアに血を吸われた屍人からごく稀に発生するとされているアンデッドの上位種。それがガンドルフォの正体。


ヴァンパイアに通常の武器攻撃は通じない。であれば確かに、粉々に砕かれた状態から蘇生したとしてもおかしなことはなかった。だが──


「あり得ない!! あの時、集落の人たちは殺されて屍人に変えられただけだった!! ヴァンパイアなんて──」

「おいおい。まさかエカテリーナ──お前の母親が、ただ意味もなく村人を屍人に変えて回ったとでも思ってたのか?」

「!?」


ガンドルフォの目には紛れもない嘲笑が浮かんでいた。


「あれは彼女の祝福だったのさ」

「祝福、だと……?」

「ああそうだ。エカテリーナはあの日、ただ屍人を作っていたわけじゃない。その祝福を俺たちに分け与え、自分に仕えるに足る存在を選別しようとしていたのさ」

「────」


その言葉の理解を拒みそうになる脳を意志の力でねじ伏せ、マードレッドは震える声で問い質した。


「そんなことで? そんな理由で……あの女は集落の皆を──父さんを殺したって言うのか……?」

「そんなこと? 彼女に仕えるチャンスを与えられたんだ。これ以上ない光栄だろう?」

「っ! お前はっ! そんな化け物になり果てて、選ばれたとでも言いたいのかっ!?」

「ああ──そしてお前の父親は選ばれなかった」

「────」


その言葉にマードレッドの頭が真っ白になる。


ガンドルフォはそんな彼女の様子を気にした様子もなく、ただ哀れむように続けた。


「せっかく彼女がチャンスを恵んでくれたのに、奴はその愛に応えられなかった──愛が足りなかったのさ」

「────」


感情が飽和し、逆に頭から血の気が引いていくのが分かった。


「──そうか。よく分かった」

「…………」

「やはりガンドルフォは死んだ。あの日私がこの手で殺した。ここにいるのはその皮を被った紛い物だ──もう一度、冥府に叩きこんでやる」


体勢を低くし、いつでも大剣を抜けるようにして突撃姿勢をとる。


ヴァンパイアには通常攻撃が通じない──が、幸いにもマードレッドの大剣はヨシュアの手配で銀メッキ加工がされたばかりだ。この剣であれば、ヴァンパイアにも有効打を与えることができる。


静かに戦意と覚悟を固めるマードレッドを、しかしガンドルフォは歯牙にもかけず嗤った。


「話はまだ終わってないぜ」

「俺はもう話すことはない」

「いや、まだだ。お前にはまだ知るべきことがある」


普段のマードレッドであれば、こんなやり取りなど無視して切りかかっていたかもしれない。だが彼が旧知の存在ということもあり、無視することもできず耳を傾けてしまう。


ガンドルフォは懐から木片を取り出し、マードレッドの前に投げ捨てる。ディネルースが持ち帰ったものと同じ、アンデッドたちが所持していたそれと同一の紋様が刻まれていた。


「お前、そいつを見てここにやってきたんだろう?」

「…………」

「そいつはエカテリーナの実家の家紋だ。昔、お前にはエカテリーナのことを教えてやった時に見せてやったことがあったよなぁ? そいつを見て、エカテリーナが関わってると思って居ても立ってもいられず一人でこんなところまで来たんだろう?」

「……俺を誘ったということか」

「そういうことだ。ここにエカテリーナはいねぇよ」


騙された。誘い出された。そのことを聞いても今更マードレッドに動揺はない。


だが一つ疑問はある──何故、今更自分を誘き寄せた?


そのマードレッドの疑問に答えるようにガンドルフォは続けた。


「今彼女は少し困ったことになっててな。少しお前さんに役に立ってもらいたいことがあるんだ。捨て置かれた混じり物であれ、彼女の血縁であることに変わりはない。それなりに利用価値はある」

「っ! 俺が『はいそうですか』とそれに頷くとでも?」

「思わんよ。だが、下手に暴れられて傷がつくと利用価値が落ちる──だから、こうすることにした」


怒りを滾らせるマードレッドを無視してガンドルフォは指を鳴らす──それに合わせて、人影が一つ背後の暗闇から現れた。


「…………え? とう、さん……?」

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