SCENE4
・教室 授業中
黒板に書かれた複雑な英文。
湊、ノートに書き写そうとするが、ペンが止まる。
黒板とノートを何度も往復する視線。短期記憶が保てず、単語を書き写すことさえ困難になっている。
焦る湊。
スッ、と横からノートが差し出される。
隣の席の大石。
自分のノートに、猛烈なスピードで板書をコピーしている。字は汚いが、必死だ。
大石、ウインクをして小声で囁く。
大石「俺の字、読めるか? 暗号みたいやけど」
湊(安堵して微笑み)「……ふふ。読めるよ、ありがとう」
・屋上 昼休み
パンを食べている二人。
湊が、遠くの空を見ながら話している。
湊「ねえ大石。子供の頃、あの雲に乗れると思ってたんだ」
大石「あー、あるあるやな」
数秒後。湊がパンを一口かじり、また同じ空を見る。
湊「ねえ大石。子供の頃、あの雲に乗れると思ってたんだ」
全く同じトーン、全く同じ言葉。
大石の手がピタリと止まる。
湊は、自分がさっき言ったことを覚えていない。
大石は一瞬切なそうな顔をするが、すぐに明るく笑い飛ばす。
大石「ほんまか! 俺は綿菓子やと思ってたわ!」
大石は指摘しない。何度でも、初めて聞いたように答える。
それが彼の決めたルールだから。
・通学路 河川敷(夕方)
大石がスマホを構え、湊を動画で撮りながら歩いている。
大石「ほら湊! こっち向いてピース!」
湊「もう、近すぎだって。撮ってどうするのさ」
大石「記録や記録! お前が忘れても、このスマホが覚えとる!」
湊、照れくさそうにカメラから顔を背けるが、大石がしつこく追いかける。
大石「笑え笑え~! 男前が台無しやぞ~!」
湊「ふふ、うるさいなぁ陽向は」
湊が不意にレンズに向かって笑いかける。
夕日が逆光になり、湊の笑顔が神々しいほど輝く。
・湊の部屋
勉強机の周り。
壁やコルクボードに、無数のポストイット(付箋)が増えている。
『教科書は鞄へ』『明日は体育』『財布の場所』
記憶を補うためのメモの数々。
その中に、異質な一枚が混ざっている。
大石の汚い字で、
『大石はイケメン』
と書かれたメモ。
湊がそれを見つけ、呆れて剥がそうとするが、思い直して笑い、一番目立つ場所に貼り直す。
・自転車置き場~坂道
二人乗り禁止だが、大石が自転車を漕ぎ、湊が後ろの荷台に立ち乗りしている。
風を切って進む二人。
大石「しっかり捕まっとけよ! 落っこちても知らんで!」
湊「大丈夫だよ! ……風が気持ちいい!」
湊が両手を広げる。
一瞬、病気のことなど忘れたような、17歳らしい無敵の表情。
大石も、ペダルを漕ぐ足に力を込める。
この時間が永遠に続けばいいと願うように。




