SCENE5
祭囃子の音、人々のざわめき。
提灯の明かりが、浴衣姿の二人を照らしている。
**大石(17)**がスマホを構え、**湊(17)**を撮影している。
大石「おい湊! こっち向いてピース! ……あー、顔が硬い! 笑え笑え!」
湊「もう、近すぎだって。……撮ってどうするのさ」
大石「記録や記録! お前が忘れても、このスマホが覚えとる!」
湊、照れくさそうにカメラから顔を背けるが、大石がしつこく追いかける。
背景は神社の少し暗い木陰。
湊「ふふ、うるさいなぁ陽向は」
湊が不意にレンズに向かって笑いかける。
最高に幸せそうな笑顔。
大石、満足そうに録画を止める。
大石「よっしゃ、ええの撮れた。……喉渇いたな。ジュース買うてくるわ! 待っとき!」
湊「うん。いってらっしゃい」
大石が人混みの中へ走っていく。
湊は一人、境内の端で待っている。
……数分が経過する。
周囲の喧騒。笑い声。太鼓の音。
突然、湊の耳にそれらが「不快なノイズ」として響き始める。
キーン……という耳鳴り。
湊の主観映像(POV)。
視界が歪む。提灯の光が引き伸ばされたように滲む。
行き交う人々の顔が、のっぺらぼうのように見えたり、歪んで見えたりする。
見当識障害の発作。
湊「……あれ?」
湊、辺りを見回す。
ここがどこか分からない。
なぜ自分が浴衣を着ているのか分からない。
自分が誰を待っているのかも、分からない。
湊「……ここ、どこ? ……僕、なんで……」
恐怖が押し寄せる。
通行人が湊の肩にぶつかる。
通行人「っと、邪魔だよ兄ちゃん」
その言葉が、罵声のように響く。
湊、パニックになり、後ずさる。呼吸が荒くなる。
湊「ごめんなさい……ごめんなさい……」
しゃがみ込み、頭を抱える湊。世界が回転する。
そこへ、大石がジュースとりんご飴を持って戻ってくる。
人混みの隙間から、うずくまる湊を見つける。
大石「……湊?」
大石、瞬時に異変を察知する。
持っていたジュースとりんご飴をその場に放り出し、駆け寄る。
地面に落ちるりんご飴。
大石「湊! おい! どないしたんや!」
大石が湊の肩を掴む。
湊がビクッとして顔を上げる。
その瞳は、焦点が合わず、怯えきっている。
湊「……いやっ! 触らないで!」
大石「……っ!?」
湊「誰ですか……あなた、誰ですか……!」
拒絶。
大石の表情が凍りつく。
しかし、大石はすぐに覚悟を決める。
湊の両頬を両手で挟み、無理やり視線を合わせる。
大石「見ろ! 俺の顔を見ろ!」
湊「怖い、怖いよぉ……」
大石「怖ない! 俺や! 大石や! ……隣の席の、陽向や!」
大石の必死な大声。そして、掌から伝わる熱。
湊の瞳が泳ぐのをやめ、大石の顔で止まる。
数秒の静寂。
湊「……ひ、なた……?」
大石「せや。お前の連れや。たこ焼き食いに来たんや」
湊の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
認識が戻った安堵と、発作を起こした自己嫌悪で崩れ落ちそうになる。
大石は湊を強く抱きしめる。
大石「大丈夫や。俺がここにおる。どこにも行かへん」
(時間経過)
人混みを離れた、神社の裏手。
石段に座る二人。
遠くから祭囃子が聞こえるが、ここは静かだ。
大石がコンビニ袋から線香花火を取り出し、火をつける。
パチパチ……という儚い音と光。
二人の顔をオレンジ色に照らす。
湊「……ごめんね、大石。せっかくの祭りなのに、台無しにしちゃって」
大石「何言うてんねん。スリルあっておもろかったわ」
大石は笑おうとするが、その目は真剣に湊を見ている。
湊「……最近、増えてきたんだ。世界が急に、知らない場所に変わる感覚が」
「自分が消えていくみたいで……怖いんだ」
湊、消え入りそうな火花を見つめる。
湊「ねえ、大石」
大石「ん?」
湊「この景色、覚えておいてくれる?」
「僕が忘れても……今日、二人でここに来たこと」
火玉が落ち、線香花火が消える。
暗闇に戻る直前、大石が強い口調で答える。
大石「当たり前やろ。俺の脳みそに刻んだわ」
「お前が忘れたら、俺が何万回でも話したる。『あの夏祭り、お前めっちゃビビってたで~』ってな」
湊、ふっと笑う。
湊「……意地悪だなぁ」
大石「愛や、愛」
大石、新しい花火を湊に渡す。
二人の手の中で、また新しい光が灯る。




