表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-  作者: 住良木薫
思い出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/27

SCENE5

祭囃子の音、人々のざわめき。

提灯の明かりが、浴衣姿の二人を照らしている。

**大石(17)**がスマホを構え、**湊(17)**を撮影している。


大石「おい湊! こっち向いてピース! ……あー、顔が硬い! 笑え笑え!」


湊「もう、近すぎだって。……撮ってどうするのさ」


大石「記録や記録! お前が忘れても、このスマホが覚えとる!」

   

湊、照れくさそうにカメラから顔を背けるが、大石がしつこく追いかける。

背景は神社の少し暗い木陰。


湊「ふふ、うるさいなぁ陽向は」

   

湊が不意にレンズに向かって笑いかける。

最高に幸せそうな笑顔。

大石、満足そうに録画を止める。


大石「よっしゃ、ええの撮れた。……喉渇いたな。ジュース買うてくるわ! 待っとき!」


湊「うん。いってらっしゃい」


大石が人混みの中へ走っていく。

湊は一人、境内の端で待っている。

   

……数分が経過する。

周囲の喧騒。笑い声。太鼓の音。

突然、湊の耳にそれらが「不快なノイズ」として響き始める。

キーン……という耳鳴り。


湊の主観映像(POV)。

視界が歪む。提灯の光が引き伸ばされたように滲む。

行き交う人々の顔が、のっぺらぼうのように見えたり、歪んで見えたりする。

見当識障害の発作。


湊「……あれ?」

   

湊、辺りを見回す。

ここがどこか分からない。

なぜ自分が浴衣を着ているのか分からない。

自分が誰を待っているのかも、分からない。


湊「……ここ、どこ? ……僕、なんで……」

   

恐怖が押し寄せる。

通行人が湊の肩にぶつかる。


通行人「っと、邪魔だよ兄ちゃん」

   

その言葉が、罵声のように響く。

湊、パニックになり、後ずさる。呼吸が荒くなる。


湊「ごめんなさい……ごめんなさい……」


しゃがみ込み、頭を抱える湊。世界が回転する。

そこへ、大石がジュースとりんご飴を持って戻ってくる。

人混みの隙間から、うずくまる湊を見つける。


大石「……湊?」


大石、瞬時に異変を察知する。

持っていたジュースとりんご飴をその場に放り出し、駆け寄る。

地面に落ちるりんご飴。


大石「湊! おい! どないしたんや!」

   

大石が湊の肩を掴む。

湊がビクッとして顔を上げる。

その瞳は、焦点が合わず、怯えきっている。


湊「……いやっ! 触らないで!」


大石「……っ!?」

湊「誰ですか……あなた、誰ですか……!」

   

拒絶。

大石の表情が凍りつく。

しかし、大石はすぐに覚悟を決める。

湊の両頬を両手で挟み、無理やり視線を合わせる。


大石「見ろ! 俺の顔を見ろ!」


湊「怖い、怖いよぉ……」


大石「怖ない! 俺や! 大石や! ……隣の席の、陽向や!」

   

大石の必死な大声。そして、掌から伝わる熱。

湊の瞳が泳ぐのをやめ、大石の顔で止まる。


数秒の静寂。


湊「……ひ、なた……?」


大石「せや。お前の連れや。たこ焼き食いに来たんや」

   

湊の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

認識が戻った安堵と、発作を起こした自己嫌悪で崩れ落ちそうになる。

大石は湊を強く抱きしめる。


大石「大丈夫や。俺がここにおる。どこにも行かへん」

   

(時間経過)

   

人混みを離れた、神社の裏手。

石段に座る二人。

遠くから祭囃子が聞こえるが、ここは静かだ。

大石がコンビニ袋から線香花火を取り出し、火をつける。

パチパチ……という儚い音と光。

二人の顔をオレンジ色に照らす。


湊「……ごめんね、大石。せっかくの祭りなのに、台無しにしちゃって」

大石「何言うてんねん。スリルあっておもろかったわ」

   

大石は笑おうとするが、その目は真剣に湊を見ている。


湊「……最近、増えてきたんだ。世界が急に、知らない場所に変わる感覚が」

「自分が消えていくみたいで……怖いんだ」

   

湊、消え入りそうな火花を見つめる。


湊「ねえ、大石」


大石「ん?」


湊「この景色、覚えておいてくれる?」

「僕が忘れても……今日、二人でここに来たこと」

   

火玉が落ち、線香花火が消える。

暗闇に戻る直前、大石が強い口調で答える。


大石「当たり前やろ。俺の脳みそに刻んだわ」

「お前が忘れたら、俺が何万回でも話したる。『あの夏祭り、お前めっちゃビビってたで~』ってな」

   

湊、ふっと笑う。


湊「……意地悪だなぁ」


大石「愛や、愛」

   

大石、新しい花火を湊に渡す。

二人の手の中で、また新しい光が灯る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ