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一瞬の永遠 -君が明日を忘れても-  作者: 住良木薫
一筋の光

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3/27

SCENE3

夕日が窓から斜めに差し込み、埃が舞っているのが見える。

放課後の部活の掛け声や、吹奏楽部の楽器の音が遠くに聞こえる。

しかし、この踊り場だけは静寂に包まれている。

   

**湊(17)**が、一番上の段に座り込んでいる。

膝を抱え、震える手でスマートフォンの画面を凝視している。

   

【スマホの画面(検索結果)】

『若年性アルツハイマー病 予後』

『進行速度 急速』

『発症からの平均余命 約10年』

   

湊の瞳孔が開く。

10年。

27歳。そこで自分の人生が終わる。いや、その前に「自分」は消えてなくなる。


湊「……嘘だろ」

   

恐怖で呼吸が浅くなる。

スマホを持つ手が力無く垂れ下がり、床にコツンと当たる。

   

その時。

下階から、ドタドタドタッ! と慌ただしい足音が駆け上がってくる。


大石「おーい! ここにおったんか福田!」

  

**大石(17)**が、息を切らして現れる。

手には掃除用の箒を持っている。


大石「探したで! 掃除当番サボりやがって~、真田ちゃん(先生)が鬼の形相で……」

   

大石、湊の異様な雰囲気に気づき、足を止める。

湊は慌ててスマホを隠そうとするが、焦りで手から滑り落ちる。

スマホが床を滑り、大石の足元で止まる。画面はついたままだ。


大石「ん?」

大石、スマホを拾い上げる。

画面の文字が目に入る。

『平均余命 10年』


大石「……なんやこれ」


湊「返して!」

   

湊、立ち上がり、大石からスマホを引ったくる。

逃げるように階段を下りようとする湊の腕を、大石がとっさに掴む。


大石「待てや! おい!」


湊「離してよ! 大石には関係ないだろ!」


大石「関係あるわ! 見てもうたんやから!」

 

大石、強い力で湊を引き戻し、壁際に追い込む。

普段のヘラヘラした表情はない。真剣な眼差し。


大石「病気なんか? ……10年って、どういうことや。お前、死ぬんか?」

   

「死ぬ」という言葉に、湊の張り詰めていた糸が切れる。


湊「……そうだよ! 死ぬんだよ!」

   

湊の叫び声が、踊り場に反響する。


湊「勉強したことも、友達の顔も、自分が誰かも……全部消えてなくなるんだ。何も残らないんだよ!」

「僕は壊れていくんだ。……そんな欠陥品に構っても、時間の無駄だろ!? 放っておいてくれよ!」

   

湊、その場に崩れ落ち、膝に顔を埋めて泣き出す。

誰にも言えなかった恐怖。それを初めて他人にぶつけた瞬間だった。


静まり返る階段。

遠くの部活の掛け声だけが聞こえる。

大石は、泣いている湊を見下ろしている。

困ったように頭を掻き、そして、ゆっくりと湊の前にしゃがみ込む。


大石「……もったいな」


湊「……え?」

   

大石、湊の顔を覗き込む。


大石「10年もあるやん」


湊「は……?」


大石「あと10年も遊べるやんけ。何が時間の無駄やねん」

   

大石はニッと笑い、自分の胸をドンと叩く。


大石「ほな、俺が覚えたる」


湊「……なに?」


大石「お前が忘れる分、俺が全部覚えといたる。今日何食ったか、何のテレビ見たか、俺がどないなアホなこと言うたか。全部俺が覚えとく」

   

大石の瞳には、迷いがない。


大石「今日から俺がお前の『記憶係』や。外部ハードディスクみたいなもんやと思え。容量無制限やで」


湊「……なにそれ」


大石「せやから、一人で怖がらんでええ」

   

夕日に照らされた大石の顔。

その言葉は、あまりに無責任で、あまりに強引で、

そして、今の湊が一番欲しかった言葉だった。

湊の瞳から、再び涙が溢れる。

今度は絶望の涙ではなく、安堵の涙だった。


湊「……バカじゃないの」


大石「アホでええねん。……ほら、帰るで! 真田ちゃんに見つかったら殺される!」

   

大石、湊の手を引き、強引に立たせる。

その手は熱いほど温かかった。

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