SCENE2
総合病院・脳神経内科・診察室
シャウカステンに映し出された、脳のMRI断層写真。
黒い背景に、青白く浮かび上がる脳の輪郭。
海馬のあたりが、わずかに萎縮して隙間が空いているのが見て取れる。
医師(50代)が、電子カルテに目を落としたまま淡々と説明している。
医師「……画像診断の結果ですが、海馬および頭頂葉に、明らかな萎縮が見られます」
医師がペンでモニターの一点を指し示す。
医師「認知機能テストの結果とも併せて判断しますと……『若年性アルツハイマー型認知症』。そう診断せざるを得ません」
部屋の空気が凍りつく。
空調の「ゴーッ」という低い音だけが響く。
母・佐和子(48)。
膝の上で握りしめたハンカチが震えている。
顔面は蒼白で、理解が追いついていない。
佐和子「……先生。あの、アルツハイマーって……お年寄りがなる病気ですよね?」
「この子はまだ高校生なんです。……ただの、受験のストレスとか、そういう一時的なものでは……」
医師「稀なケースではありますが、10代での発症例もあります。進行速度には個人差がありますが……」
「若年性の場合、高齢者に比べて進行が早い傾向にあります」
「進行が早い」。その言葉が、重い鉛のように部屋に落ちる。
父・健一(50)。
必死に冷静さを保とうとしているが、その目は赤く充血している。
医師の言葉を一語一句聞き漏らすまいと、前傾姿勢になっている。
健一「……治療法は。治る見込みは、あるんですか」
医師「現在の医学では、根治させる薬はありません。進行を遅らせる薬を投与し、生活環境を整えていくことが中心になります」
佐和子、小さく息を呑み、口元を手で覆う。
目から涙が溢れ出し、嗚咽を必死に噛み殺す音が漏れる。
健一が、無言で佐和子の肩に手を置き、強く掴む。支えているのか、自分を支えているのか分からないほど強く。
湊(17)。
両親の間に座り、会話を聞いている。
しかし、その表情はどこか空虚だ。
まるでテレビのニュースを見ているような、リアリティのなさ。
湊は、ふと自分の手のひらをじっと見つめる。
生命線、頭脳線。
昨日と変わらない皮膚。昨日と変わらない体温。
なのに、中身だけが腐っていくと宣告されている。
湊「……先生」
静かな声。医師が湊を見る。
湊「僕、まだ17歳ですよ?」
医師「……」
湊「来年、受験なんです。……大学に行って、サークルに入って、就職して……」
「そういうの、全部なくなるってことですか?」
医師は言葉に詰まり、目を伏せる。
その沈黙が、何より残酷な「肯定」だった。
佐和子が「湊ッ……!」と叫び、湊に抱きつく。
母親の温かい体温と、涙の湿り気。
それらに包まれながらも、湊の心は冷え切ったまま、窓の外の灰色の空を見ていた。




