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ミスリルをゆんへ



 ガキンッ!


「くぅ……かってえー」


 賢者の家の草原で、ゲンちゃんがくれたミスリルの岩を目の前に、雷光の刃先を確認する。雷光ならイケるかもと試しに切ってみたが、岩に少し傷が入ったくらいだった。刃こぼれしなくて良かった。


「キュイ」


 肩にいたマシロが岩に飛び移る。


「航平、魔鉄は雷光でも切れませんピ。強度は同じくらい、魔力を流してミスリルと並ぶ感じですピ」


 肩に止まったPちゃんがやれやれというように首を振った。


「Pさん、そういうことはやる前に言いなさいよ。じゃあ魔力を流して……」


「止める前に雷光を振るったのは航平ですピ。雷光は雷属性、ミスリルを成形する前に魔力を流すと、ミスリルの属性が雷に親和する可能性がありますピ」


「親和? どういう事?」


「ミスリルは魔力伝導に優れた金属で、例えば魔法の攻撃力が100として、ミスリルを通すと同じ魔力量で攻撃力120になりますピ。装備や装飾、魔法使いの杖にも使われていましたピ。そこに物理攻撃も加わる事から、武器に加工される事の方が多かったようですピ。それだけ親和性が高いということですピ」


 肩からマシロの隣に飛んで行き、岩にちょこんと着地した。


「ただそれはあくまで加工した後の話で、加工前のミスリルに魔力を介した属性を持つモノを通し続けると親和し、加工後もミスリルがその属性を120、他の属性は60から80と下げてしまうということですピ」


「はあ……ちょっと何言ってるか分かりませんけど」


「白いキャンパスが黄色になると、いくら塗って消せる絵の具を使っても、絵の具本来の色は出ないということですピ」


「なるほど……じゃあ、どうすればいいのさ?」


「属性を持つ道具以外で削って下さいピ」

「キュイー」


 Pちゃんが片方の羽根を上げると、マシロも真似して片手を上げた。


「……頑張ります」



「どうだPちゃん! やったぞ」


 風魔法5のトルネードを小さく密集させた『ドリル』で削る事2時間、魔鉄の中から現れたのは、銀色に輝くバスケットボール大のミスリル塊だった。


「……こんなに大きいとは、驚きですピ」


 Pちゃんの反応から察するに、含有40%にしては小さいと思っていたが、辺りに散らばった花崗岩や魔鉄の中にキラキラと光る細かいミスリルが散らばっているので、この大きさでも十分なんだろう。取り敢えず散らばっている魔鉄と、細かいミスリルも空間庫にしまっておく。


「重さは3キロって所だな。取り敢えず家に戻って、ゆんに送る準備をしようか」



 賢者の家に来てから30分くらいしか経っていなかったが、部屋に戻ると作業員の昼休憩は終わったらしく工事がすでに始まっていた。


「後はこれをスーパーからダンボールをもらってきて詰めれば……、ひとつじゃ送れないか」


 ミスリルに加え、魔力回復ポーションの小瓶も30本くらい入れる予定だった。


「ミスリル3キロ、40mlのポーションが1本100グラム、それを30本で3キロ、全部で6キロ。ミスリルと一緒にポーションは入れられないか。割れたら元も子もないし。うん、段ボールは2つだな」


 早速近所のスーパーに行き、丈夫そうなダンボールを2枚もらってくる。ミスリルは中で動かないよう、タオルで包んで入れた。ポーションも新聞紙で包みたい所だが、新聞はないのでこれもタオルで仕切りながら詰めたら結構なスペースを取ってしまった。


「後はこれを、コンビニで送ってと。Pちゃん、マシロも行くぞー」


 バッグを腰につけ、ダンボールを積んで抱えると、ガガガッとうるさいとアパートを後にし、ちょっと寂れたコンビニへ向かった。コンビニは高いから、来たのは数カ月ぶりだ。


「新潟県宛ね」


 コンビニの、母さんくらいの歳の女性がダンボールのサイズを測る。


「2982円になります」


 え?


「あの、ひとつだと……」


「こっちが2542円、こっちは2982円、両方で2982円で送れますよ」


 ミスリルが入った方が安かった。


「なるほど……また来ます」


 荷物を返してもらい、そそくさとコンビニを後にする。


(航平、どうしましたピ?)


(もっと安いかと思ってたんだよ。財布の中はいざって時用の1000円しかない……。7月10日のボーナスが振り込まれるまで、口座にも1000円ちょっと。空間庫の食材で食べ物は余裕でもつけど……現金がないんだ)


 ダンジョン出現まで21日、なるべく早く送りたかったが、こればっかりは仕方がない。


(転移にはお金がかかる……どの世界も同じですピ)


「転移……そうか!」


 思わず声を出して、慌てて口を閉じる。裏道に入り、誰もいないのを確認して段ボールを空間庫にしまった。


「マシロがいるじゃないか」


 小声でバッグの中のふたりに話しかける。


「マシロの転移を使うんですピ?」

「キュイ?」


「ああ、今までダンジョン内の階層、賢者の家からダンジョン内と転移出来たんだ。ダンジョン外で出来てもおかしくないだろ?」


「ピ、確かにダンジョン外では常にマシロの魔力は減っていますが、転移はスキルですピ。転移出来る可能性は十分ありますピ」

「キュイー?」


「マシロ、新潟県のー」


 ゆんから送られた住所を読み上げる。


「キュイ……キュ!」


 任せて! と言うように、丸窓から顔を出していたマシロが手を振って引っ込んだ。


「おおー、マジか……頼んだぞ! マシロ!」


 これは最高の移動手段なんじゃないか!? 混雑することも無く、いつでもどこにでも一瞬で行ける。まさに、どこでも○ア。


「キュキュキュー」


 何より金がかからない!


「キーキュイッ!」


 バッグの丸窓が光り、胃が浮くあの浮遊感が……来た!



 つぶっていた目を開けると、豪華な調度品、きらびやかなシャンデリアが目に飛び込んで来た。ここは疑うまでもなく……。


「なんだ、航平君じゃないか」


 扉が開き、驚いている先輩と目が合った。ここは、千駄木家のダイニングルームだ。


「……こんにちは、先輩」


「どうした急に? ボクに会いに来たのかい? クククッフゴッ!」


「すいません、ちょっと間違えまして。マシロ、ご飯じゃない。行きたいのは荷物を送る先の新潟県ー」


「キュイ? キュキュキュー」


「先輩! お邪魔しました」


「おいっ、航平君ー」


「キーキュイッ!」


 再びバッグの窓が光り、俺たちは転移した。



「……いらっしゃいませ……お荷物ですか?」


 俺が立っていると、あれ? いたっけ……と首を一度傾げ、カウンターにいたさっきの女性が声をかけてきた。中の客も不思議そうに俺を見ている。


「……いえ、また来ます」


 そう言って俺は、コンビニを後にした。


(航平……マシロはダンジョン外では一度行った場所以外転移出来ないみたいですピ)


(……うん、そうだね)


「キュイ」


 窓からマシロが、どう? すごい? と言うように俺を見上げている。


「ああ、ありがとな。マシロ」


 そんなマシロの頭をなで、俺は決心した。マシロだけにスキルを使わせちゃ駄目だろ。


「Pちゃん、ゆんの家までここから356キロだ! 俺は走るぞ!」


「駿足ですピ?」


「いや、瞬間移動だ! 大回復と魔力回復ポーションで1時間もかからない」


 俺はスマートフォンで地図を確認すると、体を傾けた。


「ピ! 航平! 行くなら夜、人間や車にぶつかったら大変ですピ」


 Pちゃんの声に反応して、急に傾きを止めたので、中途半端な移動をしてしまった。丁度開いたドアの隙間から入り込む。危ない危ない、建物を突き破るところだった。


「……いらっしゃいませ…お、お荷物?」


 手動のドアがゆっくり閉まり、背後に俺の気配を感じたのか、振り向きながら女性店員が呟いた。さっきもいた客が小さな悲鳴を上げる。確かに走り込んで来たら驚くよね……。


「……いえ、また来ます」


 Pちゃんの言う通り、夜の移動の方が良さそうだ。それから俺たちは賢者の家でたっぷり睡眠を取り、新潟のゆんの家に向かった。


 

 のちにあの寂れたコンビニに、お客が増え、活気づいていた。なんでも荷物を送りたそうな幽霊が出るから見に来ているらしい。


 ヤダ怖い。



 



 

読んでくれてありがとうm(_ _)m 次回ゆんのじいちゃん登場く(`・ω・´)待たされ過ぎてボケるかと思ったと言われました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミスリルってぼくものにもあったなぁ。 【衝撃】ゆん爺は麦作と話す能力がある事が判明【速報】 俺氏→麦作→ユン爺→ゆん→こう→美波 の伝言ゲームが出来るぞ! 麦作!「美波に、『猫を譲渡してあ…
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