第3章 第10節 灰色の空とアーモンドの花
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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反魂使いのダークファンタジーです。
俺が、二度めの反魂の術を使った日
淡くて不思議な夢を見た。
気怠さとズンとくる激しい頭痛に襲われて、混沌としたまま眠りの淵に落ちたのに、おかしな話だよな。
咲き誇るは、「アメジスト色」と謳われるライラック
はらはらと花びらが雪のように舞い降る、4月の庭だ。
「ダリウスは、キレイな絵を書くのね」
「ありがとうー!
母さん、ライラックだよ。母さんの一等すきな花」
「あら、母さんはね
本当は、アーモンドの花が一等好きなのよ」
「アーモンドの花?」
「そう。淡いローズ色の花でね。
春には小さい雪のような花を、
いっぱいに咲かせるの。
いつか庭に、アーモンドの花を植えたいわ」
「そんなにキレイなんだ」
「そうよ、花が散れば
アーモンドの実が食べられるわ。
いつか植えたら、アーモンドの花の絵を描いてね
ダリウス?」
「わかったーー!!」
ああ、少年の頃の夢かな
あの頃はまだ、母さんがいた。
真っ白な日傘が、ブルーなはずの空に映える
もちろん俺の瞳には、灰色にしか映らないんだけど。
「それにしても、お父さんたら遅いわよね。
もういい加減、帰ってきてもいいと思うんだけど」
母さんがクルクルと日傘を回す。
モノクロの世界の中で、白いワンピースを身に纏う母さんは、そこだけクリアに浮き上がって見えた。
「あれ、ねえ! 父さんじゃないかな?」
庭の向こうにある歩道から、父さんが帰ってくる姿が見えた。やったーーー! 父さんだ!! 帰ってきたら、また反魂の術の話をたくさん聞かせてもらっちゃおう!!
「まあ、父さんたら。お土産かしら?
おっきな荷物ね〜」
何故だろう
父さんは右手に、「巨大なナニカ」を抱えているみたいだ。
「ただいま」
「おかえりーーーーーーー!!
あれ? 父さん、その右手どうしたの?」
父さんの右手には、布がグルグルと巻き付けられていた。
「ああ、これか。その……、ケガをしてな。この有様だ」
まって、違和感がすごい。
まるで右手に巨大なハサミでも持ったまま、包帯で包んだみたいだ。肥大化した手は、ヒジの辺りから急激にボコッと膨らんでいる。ケガをしたというよりは、奇形化したみたいだよ。
冗談だとしても、なんだか笑うに笑えない。
「え、ちょっ!
父さんの手、ハサミになっちゃったとか?」
「そんなんじゃないさ。医者にこのままでいろと言われてな」
「あなた、どうしましたの?
大変なケガでもしましたの!?」
母さんは日傘をさしたまま、父さんの元へと駆け寄った。巨大なハサミをくるんだみたいな右手。その包帯に触れると、瞬間バラリ。
包帯がほどけたんだ。
「え?」
「触れるなっっ!!」
咄嗟のさけび
あの物静かな父さんが、わななくように怒鳴った。ハラリと解けた包帯のすき間からは、灰色の腕が見えたんだ。
「父さん、その腕……なに?」
人の肌の色じゃない、と思った
モノクロの世界でも、そのくらいは敏感にわかる。
「なんでもない!!
しばらくは俺の部屋に入らないでくれ!!」
父さんはギッと睨むと、玄関の方へ逃げるように駆けていった。
あの日、ライラックの花びらは、どこまでもキレイだった
呆然と立ちすくむ母の、空に透けた日傘
描きかけの花のスケッチ
羊皮紙の上に降りつもる、花びら
涼やかで、あまい薫り
父さんの、灰色の肌ーーーーーーーーーーーーーー
あの日を境に、父さんは変わった。
おだやかで、よくしゃべる人だったのに
不思議なほど寡黙になった。
ライラックの花が散り、秋の月が昇るころ、父さんは忽然と消えたんだ。失踪するまでの毎日、巨大なハサミみたいな腕を隠すように、いつも包帯でグルグル巻きにしてたっけ。
ぜんぶ、春の幻想だったらいいのに
想い出はいつも、残酷で美しい。
幻想の花びらが、深海に降りつもっていくみたいだ
甘い薫りと、ライラックの花のベッドに
俺はゆっくり、沈んでいったーーーーーーーーーーー
「なにか、大切な夢を見ていた気がする」
目が醒めて、ふと思った。
『大切なナニカ』って、なんだっけ?
ふわふわした雪のようなナニカ。
天井には、うねるようなキャラメル色の木目があった
日差しがキラキラとシーツに反射して眩しい。そうだっだ。ここは、カルラオアシスの宿屋だったな。
頭痛は、不思議なほどなくなっていた。
よかった、よく眠れたのかもしれないな。妙にスッキリとしてクリアな気分だ。俺はベッドから降りようとして、グーーーンと伸びをする。そこで、左手の違和感に気付いた。
「ん、なんだこの腕?」
灰色の腕。
手がなんだか倍くらいに腫れていて、指の先からヒジのあたりまで、グレーに染まっていた。不思議と、なにも怖くはなかった。俺は、急激に巨大化した肌の表面に、そっと触れてみる。
ザラザラと、そこだけがトカゲの肌みたいに尖っていた。
なんだろう? 目をこらすと、爬虫類みたいなウロコがある。まるで人間の腕じゃないみたいだな。
でも……
「この灰色、どこか懐かしいな」
何故だろう?
なんて、俺は思っていたーーーーーーーーーーー
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