第3章 第9節 銀の反魂使い
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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反魂使いのダークファンタジーです。
「い、い、命を呼び戻す事はできないけどさ
傷を治すことなら、できるんだあ」
褐ミノは、パラリと鈍色の書をひらいた。
分厚い本の真ん中に、深い海の色をした栞が目に飛び込んできた。
ひらいたその頁には魔法陣が描かれてあって、ゆっくりと魔法陣の円をなぞり、褐ミノが歌うように文字を読みあげていく。
「ち、ち、血を穿て」
刹那、鈍色の書が発光するーーーーーーーーーーーーー
闇夜に発火したかの如くに、鮮やかな光を放ち、キラキラと明滅する。褐ミノは、右手で輝く書を持ち、左手を俺の傷口にそっ……と添えた。
「あれ? なんかあったかい……」
右手の甲にあった傷が、なんとなく柔らかな熱を持っている気がしたんだ。不思議なんだけど、暖炉の前であったまってるみたいな感覚で。じんわりと傷口に、優しく響いた。
「闇より出でし羽衣よ
血脈の言の葉に添えて
花の如くに その芽を閉じよ
いざ、裂けし帳をこの世に降ろさんーーーーーーーーー」
詠唱のあと、褐ミノの掌がカッ!! っと燐光を放った。
「むっちゃ眩しっっっ!!!」
目つぶし!!
って感じの、鮮烈な閃光。
俺の右手の甲にガンガン当たってるーーーーーー!!
「あれ?」
血が滲んでいた傷口から、血がジンジンと消えていく……!
赤い一本の線みたいな傷が、みるみる塞がっていくと、やがて何もなかったように、ツルンと傷のない手の甲になった。
「うっそだろ!? 治ってる!!」
「う、う、嘘じゃねえよっ!
これが、鈍色の反魂使いの力だ」
「傷を治す力……これがお前の……」
「あ、あ、ああ。俺には、命の蘇生はできねえ
でも、傷を治すことだけは、できるんだ。
この鈍色の書さえあればーーー」
深淵の書とソックリな、鈍色の書。
父さんから受け継いだ「反魂の力」とは、全然ちがう力じゃないか!? 一体どういう事なんだろう……。
もっと他にも、ちがう色の反魂使いが存在するのかな?
てか、反魂使いって知らないだけで、たくさんいるとか?
うーーーーーん、全然わかんねーな。聞いた事もないし、なんだか謎がいっぱいだ。
「なあ。俺の血族は、何色の反魂使いなんだ?」
すると離れて見ていたギルフィが、俺たちの方に近づいてきた。漆黒の狼だけに、艶やかな毛並みが風にたなびく。その瞳は、深淵の書の表紙、ダークローズの色を映していた。
「お前の血族は、おそらく『銀の反魂使い』だ」
「銀の……反魂使い……?」
「そうだ。本の残留思念にハッキリと映る。たくさんの血と魂を込めて、その本は生まれたんだろうさ。おそらくは、最古の血脈」
「最古って……」
「お前の血を辿ればきっと、その答えがわかるんだろう」
「俺たちの血と、この本に……反魂使いの答えがあるのか」
ダークローズの表面を、俺はゆっくりと撫ぜる。
父さんも、その父さんも、ずっと昔のご先祖様も、この本を大切に守ってきたんだろう。……俺は継げなかったけれど、銀の反魂使いの何たるかを、知りたいような気がした。
「ギルフィ、貴方に聞きたい。もしも他にも、残留思念から読み取れる記憶があれば、俺も聞きた……!」
「ダリウス!?」
ギルフィに話しかけていたダリウスが、突如倒れた!!
え、え、なんで急に……っ?
その顔は真っ青で、陶器のような肌が、人形みたいに白く見える。さっきミノタウロスを詠唱で蘇生させた時は、あんなに元気だったのに、どうして……!?
「大丈夫かよ、ダリウス!!」
「ぐっ、なんだか頭が……痛くて」
ダリウスが倒れたまま、頭を押さえて『ぐっ』と呻いている。苦しそうな吐息が漏れていて、どうしたらいいのか全然わかんないっっ。
「アレキ、反魂の術の副作用かしら?」
「まさか」
「だって前も、ルダの記憶が消えましたわ」
「そっか、そうだよな」
どうしたらいいんだろう。
そう思いあぐねていると、ギルフィがスッとダリウスを抱き上げた。漆黒の狼だけに背も高いし、力もあるんだろう。軽々とした仕草で。それはあまりに流麗だったから、俺は普通にビックリしたよ!!
「お節介で悪いな。アレキといったっけ?
何かの縁を感じた。俺が宿まで運ぼう」
「え、ちょっ!?
なんでギルフィが、そんな事すんのさーー!!」
「リザ、お前も手伝ってくれ」
「なんでだよっ!!
いつも、そんなキャラじゃないじゃんかっっ」
「そうだな」
「らしくねーよ!!
ギルフィはいつだって『関係ねー奴に深入りすんなよ』とか、説教するくせにっっ!!」
「この人は特別なんだ」
「と、特別うっ!?」
「そうだ。気になる事があってな
共に旅をしようと思う」
「はあああああああああああああああああああああああ!?」
「だからリザ。お前も、一緒に来てほしい」
「ーーーーーーーーっっ」
リザって少年が、地面をにらみ黙ってしまった。
その指が、わなわなと震えている。この二人、どういう関係なんだろうか? 兄弟かな、とか思ってたけど、どうも違うように感じた。
わななく指をギュッと握ると、リザが唇を噛み締めて、静かに言葉を紡ぎだしたんだ。
「ーーーギルフィの特別ってさ、そんな簡単なモノ?」
「リザ?」
「俺が、俺だけが……
ギルフィの特別なんだと思ってた」
「おい、それはさ……」
「俺にはギルフィだけが特別だ……っ
世界には他に、なんにもいらない」
ギンと眼光を、ギルフィに向ける。
翡翠の瞳は真剣で、殺気すら感じるほどに真っ直ぐだった。
風が、若草をサヤサヤと揺らす。黒髪に一筋だけ、炎のように紅い髪。それが燃え立つ焔の揺らぎのようで、リザって少年に合ってるように感じた。
「リザ、俺の話を聞けよ」
「聞かないっっ!!」
「お前っっ!」
「だってギルフィは言った、俺は特別なんだってっ!!
特別は『たった一人』だ
そんな、何人もいてたまるかよーーーーーーーーっっっ」
リザは咆哮すると、ギルフィに背を向けて走りだした。
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