第3章 第5節 この身に眠る、闇の篝火
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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「ごめんなさい、私が……!
殺めてしまいましたのっ……!」
ラウムが俺の胸の中にふわり、飛び込んできた!
彼女の瞳から零れる涙が、俺のシャツにじんわりと雫の模様を描いていく。なんかさ……、こうしてると。まるで雷に怯える少女みたいだ。
ほんの少し前まで
『神々の怒りを纏う姫君』みたいだったのに。
「アレキ。私ね……時折、たぎるような怒りを抑えられませんの」
「怒りを?」
「ええ。理性という名の鎖が千切れるほどに、わななく怒りに襲われますの。気づけば、ミノタウロスは血の海でっ……!」
「落ち着けよ、ラウムっっっ!!!」
俺は、彼女の肩をガッツリと両手で掴んだ!
両の瞳がまっすぐに見据えて、語りかける
ちゃんと話を聞いてほしい。
きっと、伝わる筈だから!!
「俺、ちゃんと聞くから!!」
彼女の肩には、返り血がついていた
ぬるりと滑る感触。鮮血の香り。
それが急にリアルな死を想起させる。
事実、みどりの野原に横たわるミノタウロスの屍は、俺達が佇む場所から、ほんの数メートル先にあった。血溜まりは、ゆるやかに大きくなって。その体も、静かに凝固し始めているんだろう。
これは現実だ
彼女は、ミノタウロスをその手で殺めて
どうしようもなくて、泣きじゃくる。
でも泣いたってダメだ
誰も、助けてなんかくれない!
そんな悲痛な現実を、俺はイヤってほど理解してる
だから絶対に、離さないし
だから絶対に、このままになんか、しない!!
「アレキ……?」
「俺も、一緒に考えるからっっ!!
だから、キチンと考えよーぜ。この状況しっかり見極めて、対処しよーぜ。ミノタウロスを、ラウムが殺めたのなら尚更だっ
俺たちはもう、ただの他人じゃないから、大切だから!!
一緒に考えなきゃいけない!」
「ーーーーーたい……せ……つ?」
「そうだ、大切な人だ!!
お前は邪神で、俺と、ダリウスと、ルダの仲間だ!
カノンの半身であるのなら、尚更
俺には、放っておけない!!!」
「ーーーーーー気づけば、切り裂いていた
ただ、それだけ」
ずっと呆然と虚無の表情だったラウムが、顔を上げた。そうしてキッパリとその言葉を告げると、目を逸らした。その横顔には、哀しみの色が浮かぶ。
「ラウム……?」
「あの時も、そうでしたもの……
私はときおり自分の怒りの篝火に、この身を焦がす時がある。止めようとしても、止まりませんの……っ
だって私は……っ、あの時も……!」
「ラウム?」
「……あの時だって、そうでしたものっ……っ!!」
ラウムには、何か語りたくない過去があるのかな?
俺の腕の中でちいさく震え、しがみついて泣いたままだ。漆黒の艶やかな髪が、嗚咽するたびに波を打つ。
なんて華奢な肩のラインだろう。
邪神のくせに頼りなくて、儚げで
なんだか、どうしようもなくて胸がギュッとする。
俺には彼女の言う『あの時』なんて、全くわからないけど
過去に何か……、今日の事件につながる『過去の瑕』があったって事だけは、伝わってきたんだ。
「ラウム、その命。俺が戻そう」
「ダリウス?」
右手に、深淵の書をたずさえて
ダリウスが凛と立っていた。
その紫水晶の瞳から、決意の熱が感じられたんだ……!!
「俺が、死の運命。変えてみせるから」
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