第3章 第3節 残留思念を詠みし者〜サイコメトリスト〜
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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「これが、深淵の書かーーーー」
その人は確かに、そう言った
まるで初めから『深淵の書』を知ってるように。
俺の名はアレキ・クローヴィス
深淵の書の守り人を目指し
深淵の書の守り人に、なれなかった男だ。
この本が選んだのは、双子のダリウスだったから。
今、邪神ラウムのために旅をしている。目指す場所はドーン・ゲート。そしてここは、カルラ・オアシスの酒場『クライネヒュッテ』だ。
なんか俺は、ただただ『ドーンゲートの情報』を仕入れたいだけだったのに。ダリウスを中心に大乱闘になったんだ。獣人だの、亜人だのも楽しげにケンカに加担してて、マジで今、心臓の動悸がヤバイことになってるから!!
とりあえず、喧嘩の元凶となった鳥人族のオカメインコっぽい奴(目つき悪っ)は、通りすがりの『ギルフィ』と名乗る男が、ボコボコにしてくれた。
でも何だろう?
落ちた深淵の書を、ギルフィって奴が拾うと、意味深なセリフを呟いたんだ。なんで、知ってるんだよ……?
「深淵の書は、禁忌の書。
ギルフィっていったっけ
あのさ、何故この本をのこと、知ってるんだ?」
誰かの灯した煙草の煙が、龍の形をえがく
その白くぼやけた紫煙の向こうに、その人は立っていた。
「さあ、なんでだろうな
少年、君こそ禁忌の書をなぜ知っている?」
「俺は……反魂使いの一族だからさ」
「反魂使い」
「ああ、そこにいるダリウスが、その本の持ち主だ。俺たち一族は、反魂使いとして、その本を命がけで守ってるんだ」
「そうか。大切な一冊なのだな」
「ああ」
「俺は、『残留思念を詠む者』だ。
だから、視えた」
「残留思念て?」
「別名、サイコメトリストだ
あらゆる物質には、歴史が記録されている
その歴史のビジュアルが、俺には視えるのさ」
「そんなこと……できるのか!」
だから、深淵の書がどんなモノか、わかったっていうのか? 何も説明してないのに……!
そんな事って!
「断片的な絵しか、読めねえけどな
この本には、そうさな……『深淵の書』とか
『禁忌の書』とか。
そういう記憶が浮かんでくる。
物質に宿った『過去の欠片』が
ビジュアルになって、俺には視えるんだよ」
「すっげーーーーーな、狼さんてば」
「ギルフィだ! ほら、これ」
ギルフィは大切そうに、俺の胸へと深淵の書を渡してくれた。ズシリとその重さが、俺の右腕へと響く。
「あ、ありがとう」
「壮大な歴史を秘めてるぞ、その本
大切にするんだな」
フッと目を細めると、片手をあげてクルリと背を向けた。漆黒の毛並み。狼らしく、逞しい背中だなって思ったんだ。
「もう、やめて下さいっっ!!」
カノンの声!?
その危機感を孕んだ声にはじかれて、周りを見渡す。ギルフィが立ち去ろうとした方向に、カノンがいた。
牛頭の傭兵が、カノンに抱きつこうとしていた。明らかに酒気を帯びている、あれはミノタウロスか!
「な、何してんだよっ」
嫌がってポカポカと甲冑を殴るカノンに、ミノタウロスがベタベタ触ろうとしている。抗うカノンの瞳からは、恐怖からか涙が滲んでいた。
え、ちょっ……!
何してんだ、あのミノタウロス!!!!
「おい! てっめえええええええええええええ!!」
「カノンに触れるな」
それは同時だった。
俺は、右のストレートを
ダリウスは、左のストレートを
「おっしゃあああああああああああああああああ!」
牛頭の腹に、ぶち決めた!!
バッッキイイイイイイイイイイ!!
「おい坊主……命が惜しくねえってか……」
割といいパンチ決めたと思ったんだけど……
この牛頭、手練れなのかもしれない。
抑えた怒りの中に、迫力というか。胸の奥底から沸き立つような、憤怒の篝火が……見えたような気がしたんだ。
ズズズズズズズズズズズズズズ……
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくりと
ミノタウロスは、足を引きずりながら、立ち上がっていく。右手には、巨大な斧。
それを両手でギッチリ握り直すと、スローモーションのように振り下ろした。
「アレキ、逃げてーーーーーーー!」
カノンの叫び。
それよりも先に。ダリウスと俺は、反対方向に飛び退いた! 海が割れた真ん中をスパンと斬るように、斧は俺たちのセンターに、振り下ろされたんだ!!
「俺様を、怒らせやがったなあああああああああ」
それが、戦いの合図だった。
またしても、酒場は大混乱!!
しかも先刻、助けてくれたギルフィがもういなかった。最悪だ、どうなってんだよっ!
目の端に、机の下でガタガタ震えてるルダの姿を、発見する。顔色は青ざめ、胸にはパンを抱えて、どうする事もできずに隠れていた。
ーーーーーーあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、だよな。
ここでファイヤーフォール使うわけに、いかないもんな。酒場、丸焼けになるもんな。
わかる! わかった! 死ぬな!
ルダ、それでよし!!
俺は無性に『うんうん』と納得すると、キリリと気持ちを引き締め直し、戦場と化した部屋をぐるっと見渡した。
「カノン、カノンを助けなきゃ……! どこだ?」
乱闘の端に、気になる二人がいた。
それは酒場の壁ぎわ、仄暗い灯りに浮かび上がる男女の姿。ただいま絶賛、壁ドンされてる女の子を発見する。ドンしてる側は、ミノタウロスだ。
壁を背に、迫られていたのはーーーー
「ラウム……!!」
殴り殴られの混雑のさなか、カノンがいつの間にか、ラウムへと変化していた事に気付いた。
マジかよ、ちょっ、いつの間に!?
「……私に触れていいのは、私の愛しい人だけですわ」
ラウムの頬に触れようとする、ミノタウロスの腕。それをスッと片手で制した。
「なっ……!」
「ダメよ。私、そう言いましたのに……」
彼女が、艶やかな髪をかきあげる。そうして……百花の女王のごとくに、微笑んだ。
「ダメだ、ラウム!
この場所じゃ、いけない!!」
刹那、メタモルフォーゼがはじまった。
漆黒の羽がはらはらと、幻想のように舞い降りる。
ラウムは、見る間に巨大な鴉の姿へと
変化していったんだーーーー
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