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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
22/33

第3章 第2節 その青色は、天空の破片

※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。

シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。

https://terradraconis.com/


この世でいちばん優しい瑕、のお話です。

「贄を捧げぬ錬金術師かーーーーー

……好きだったんだよね、ずっと」



目が覚めた

そこはカルラ・オアシスの宿屋だったの。


見慣れないアンティークな家具、白いシーツに白い枕。ベッドの右隣には大きな窓があって、朝の陽光がキラキラと部屋をいっぱいに満たす。


カーテンの向こうにざわめく、見慣れない街の喧騒を感じながら、あたしはボンヤリと虚空に想ったの。



「ラウムの記憶の欠片か……

これって夢で、何回も見ていくうちに

ラウムの『過去』が鮮やかになっていくの……かな?」


あたしの知らない、あたしの半身。

邪神、ラウムーーーーー


「半神なのに、あたし何にも知らないや」


ディストピアから現れて、恐らくは……人間と恋に堕ちた彼女。ガラテアとは、その後どうなったんだろう。


ガラテアは、死んじゃったのかな?

ガラテアとは、別れたのかな?

どうして今、一緒にいないの?

どうして、アレキに重ねてるのかな?

この恋に、終わりがあったのかなーーーー



「命が終わっても

ずっとずっと、忘れられない人でしたの」



ラウムは確かに、そう言ってた。

体の奥で眠りながら、その台詞を耳にした気がするもの。



コンコンコン


「誰?」


木製のドアを、誰かがノックした。

あたしはベッドを降りて、レトロな鍵をひねり、静かに扉を開けてみたの。


「ダリウス」


そこには見慣れた顔があった。

サラサラの黒髪、バイオレットの瞳には優しい色が浮か ぶ。ふと見ると、ダリウスの右手には洋皮紙があった。


「カノン、あのさ。久しぶりに

絵のモデルになってくれないか?」


「いいよ〜。あ、寝起きな顔してるけど大丈夫?」


「ああ。自然な感じするから、俺は好き」


「そ、そっか」


ダリウスは時折、ドキッとする言葉を吐く。

あたしは頬が赤く染まるのが恥ずかしくて、下を向いてしまった。ダリウスは部屋にはいると、ベッドの横に佇む椅子にすわったの。


そこで羊皮紙をひろげ、布に包んだ木炭を取りだした。スルスルと魔法みたいに、伸びやかな線がスーーッと描かれていく。


思えば、ダリウスと出会ってから、時折こうやって絵を描いてもらうのが、あたしの日常になってたの。


旅先で描いてもらうのは初めてだけど、こうしてると落ち着くな……って思った。


「そういえばさ、カノンは朝食まだじゃない?」


「うん、まだ食べてないよー」


「だと思ってさ、はい!」


ダリウスが後ろに隠していたプレッツェルを、サッとあたしの前に差し出した。それはまるで、サプライズのプレゼントみたいで、ちょっとうれしく思う。


「すっごい我儘なお願いなんだけど」


「え、なーに?」


「これを食べてるシーンを、俺は描きたい!!」


「ええええええええええええええええええええええ」




そんなわけであたしは今、絶賛モグモグしています。


ダリウスは椅子に腰掛けて、ベッドの上でパンを食べてるあたしを、真剣にデッサンしてる。うう、なんか恥ずかしいよ……。でも頑張るよっ。


だって、ダリウスの絵って

本当にキレイだから。


羊皮紙の上を滑るように、木炭で描いた線が形を成していく。サラサラと描いてるけど、ああ……上手いなって思うの。髪の毛一本に至るまで、瑞々しい生命感があるんだよね。


「ね。ダリウスはさ、将来何になりたいの?」


「俺は、絵描きになりたかったよ」


「そうなんだ!

ダリウスの絵ってさ、本当に美しいと思うよ〜!

なんか生きてるみたいなんだよね

この髪の描き方とか、瞳の光とか。すっごい好き」


「ありがとう。……でも、反魂使いに選ばれたから

俺は、立派な反魂使いになるよ」


「選ばれた、から……?」



「ああ……なりたかった。

一番なりたかったのは、絵描きだったよ」



それきり、ダリウスは口をつぐんだ。

静寂が流れる部屋に、ただカサカサと木炭を走らせる音だけが響いていたの。


「カノンはさ

ラピスラズリの青って、知ってる?」


「ラピスラズリって、あの鉱石の」


「そう。あの青い鉱石は絵の具になるんだよ。ラピスラズリを砂みたく砕いて、溶かしたワックスと油、松ヤニに混ぜるんだ」


「そうすると、絵の具になるの?

わ〜どんな美しいブルーなんだろう」


「『海を超えた色』とか、『星のきらめく天空の破片』なんて、称されてるよ」


「星のきらめく天空の破片……って、どんな青なの」


そのブルーは、想像を絶する。

夜空を切り取ったような、ブルーなんだろうか?

どんな色なのか見たことはないけど、どこかミステリアスなダリウスには、似合う青な気がしたの。



「でも高いんだ、ラピスラズリは。宝石の一種だから

画家でも、金持ちしか絵の具にはできない」


「え、そんな高い絵の具なんだ!」


「高いよ、世界一高価な絵の具だ。

あの煌めく鉱石のブルーで描きたくて、たくさんの画家が貧乏絵師になったとか」


「こわいよ〜! それは魔性の絵の具だね

ラピスラズリの青じゃないと、ダメって思うくらいに

きっと綺麗なんだ」


「ああ、いつか幻の青の絵の具で描いてみたいな」


それは素敵な夢だと思った。

この世のどこかにある、ラピスラズリという鉱石。それを砕いて絵の具にしたら、どんなに美しい絵画になるんだろう。


「いいなあ……ダリウスに描いてほしいな

ラピスラズリの青で!」


刹那、ダリウスの筆が止まった。

そうしてゆっくりと、あたしの方へと視線を移したの。




「俺は、夜空の色を知らないから」


「え……?」


「夜空が、どんな色をしてるのか知らないから

憧れてるけど、きっと使いこなせない。

俺には世界が

この木炭みたく、漆黒の色に見えるから」


忘れてたーーーーーーー

ダリウスは一見、普通の人に見えるから

忘れてたんだ。



「そっか、ダリウスは生まれつき

色が……分からないんだっけ」


「そう。空も、花も、血の色も、全部おなじ

モノクロの世界」


「アレキは双子なのに、色は分かるんだよね」


「何故なんだろうな

色のある世界に、俺だっていきたかったよ」


「ダリウス……」


言葉に詰まってしまう。

あたしは、プレッツェルをベッドの横にあるお皿に置く。そうしてダリウスの前にペタンと正座して、こう告げたの。



「あたし、ダリウスの絵が好きだよ!!」



「カノン……?」


「それで、なんか元気になるといいなって思うんだけど、えっと、うんと……っ!!

とにかく、ダリウスの絵があたしは好きなのっ

その、なんていうの……っっ」


う〜……上手く言えないよっ……!!

こんなとき語彙力、ほしい!!


何か、元気になってほしくて言葉を探すうち、自分の顔がポポポポポポっと赤く染まっていくのがわかる。火照ってる。


色のない世界に生まれたダリウスに、あたしが今、かけてあげられる言葉って何だろう?



コンコンコン

誰かがドアを叩く。その音にはじかれて、あたしはドアの方へと駆け寄った。


「だ、誰!?」


「俺だよ、アレキ」


ガチャリ

鍵を開けると、すこし驚いた顔のアレキがいた。

金色の髪色は、光に透けて天使みたいに美しい。瞳は紅蓮の炎みたいな紅で、ダークレッドのシャツに、黒の革パンを身につけている。


アレキもスタイルがいいから、細身の革パンとか凄く似合うんだよね。ダリウスとアレキ、ちょっと目立つ双子の美形男子ーーー


実はティリア村の女の子の中で、こっそり人気だってこと、あたしは知ってるの。

本人には、教えてあげないけど。


「あ、あれ? ダリウスと一緒にいたんだ」


「うん。あたしの絵、描いてもらってたの」


「そう……か」



今気づいた。アレキの右手に、おいしそうなプレッツェルが握られてる。え、優し……!


「ね。そのプレッツェルって」


「ああ、ルダにもらってさ。カノンにあげようと思って、はい」


「ありがと」


アレキが笑う。

まるで、子犬みたいな優しい笑みで。

本日2個目のプレッツェルを花束のように抱いて、あたしもつられて微笑んだ。


「アレキ、俺もさっきプレッツェルをプレゼントしたんだ」


言いながら、ダリウスが羊皮紙をクルクルと丸めていく。描いていた木炭もサクサクと片付けながら、流麗な動作で椅子から立ち上がったの。


「カノンが喜ぶかなって思ってさ

やっぱ、双子って同じこと考えるのな」


「そ、そうか」


「で、何か用があったんじゃねーの? アレキ」


「おうよ!」


アレキはダリウスの肩をガッツリ! 掴むと、二マッと悪戯っぽく口の端をあげて、こう言ったの。


「折角カルラ・オアシスに来たんだし

皆で、酒場に行かねーーーか?」


「さ、酒場」


「おう! 酒場!!

そこでドーンゲートへの行き方とか聞いてみようぜ!」


そんな感じのノリで、あたし達は酒場にいく事になったの。ちょっとドキドキするけど「酒場」って大人の響き。長閑なティリア村にはない、ドキドキする刺激とかありそう!!


夕陽が落ちた頃、宿屋をでて皆で酒場に行くことになったの。あたしは『白のワンピだと子供っぽいかなあ』って思ったから、上はピンク×黒のミニスカを着ることにしたの。


ロングブーツと合わせてみたから

ちょっとは大人っぽい……かな?


いっしょに歩くアレキ、ダリウス、ルダは上機嫌みたい。足取りも軽く、ワクワクしているのが伝わってきたの。なんだかちょっと、楽しみだな。




「ここか……カルラ・オアシスの酒場か……!」


アレキは樽をあしらった、吊り下げタイプの木製看板を見上げ、ゴクリと唾を飲み込んだ。


酒場のアンティークなドアを開くと、そこはお酒の薫り漂う、別世界だったの。

わあ、ダークな照明が酒場って感じだよ……!



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

酒、夜の香り、異国っぽい人たち!!

エルフにドワーフ、亜人に、鳥人族か〜〜!

すっげーーーーーーーーな!!


これが大人の楽園、カルラ・オアシスの酒場

『クライネヒュッテ』かーーーー!!!」


アレキが感極まってるんですけど。

えっと、もう酔っ払ってないよね?



「すみません。深淵の書を、知っていますか?」


「ダリウス……?」


ふとお店の奥の方で、ダリウスの声を聞いたの

視線を走らせると、彼は鳥人族に『何か』を話しかけていた。

仄暗い照明の下、丸テーブルで一人飲みしてる鳥さんは、酔っ払っているのかな? 足元が少しふらついてるように見える。なんか……大丈夫かな。


「あ〜知らねえな、なんだそれ本か?」


「本です。父の形見なんですが、あまりにも謎が多くて」


「は〜ん」


「少しでも、深淵の書のことを知っていたら

情報が欲しいんです

教えてくれませんか?」


鳥人族と見られる男は、ずいぶん酔っ払ってるみたい。血のように紅いお酒をゴクゴクと飲み干すと、ダリウスの持っていた深淵の書を、ひったくるようにして奪った。え、ちょっと! 


「これかあ〜? 深淵のナントカってのは」


「何するんですか!?」


「ああ〜ん?

おめーが勝手に、近づいてきたんだろうがっ!」


バキャッ!!

即座、ダリウスが殴られた……!!

反対側のテーブルにぶっ飛ばされて、ダリウスは机と酒瓶ごとガラガラガラと、音を立てて倒れていったの。


「ダリウス!!」


アレキが、彼の元へと駆け寄る。

ダリウスの唇から、ひとすじ。血の雫が流れた。


「し、深淵の書を……返せよ……!」


「おい、おっさん!

その本は、俺たちの父さんの形見なんだ

返してくれないか!!」


アレキが、鳥人族の男の肩をガッ! と掴んだ。

その男の体は2メートルくらいかな、けっこう巨大に見える。深淵の書を右手に抱えると、こう告げたの。


「知らねえな、この本は俺がもらったんだよっ!」



「きゃあああああああああああああああ」



悲鳴と怒号、酒場はもう大混乱だ!

鳥人族の男がアレキを殴ったのをキッカケに、ダリウス、アレキ、島人族の男。あとなんか、その場にいた暴れたかった大人たち。


取っ組み合いの喧嘩になっちゃって、もう手に負えない……!


「返せ、深淵の書は

父さんが、生きた証なんだああああああああああ!」


アレキが絶叫する。

刹那。あたしの背中で、凛々しく

低いトーンの声が響いた。



「深淵の書と言ったか、少年

このギルフィ。その願い、譲り受けようじゃねえか!」


あたしの背後からスッと現れたその人は、顔が漆黒の狼、体は人間だった。黒の革の上下に身を包み、ダークブルーのマントを翻すと、ヒュンと跳躍した……!!



バッキイイイイイイイイイイイイイイイイ!



刺すような飛び蹴りが、鳥人族の頬を打った……!!

ガシャーーーーーーーン!


派手な音をあげて、テーブルや酒瓶の群れに突っ込んでいく。あたしもアレキもダリウスも、呆然とその光景をみつめてた……。


一人、二人、三人、四人、五人、六人……


荒れ狂う人々を、たった一人のギルフィが、バサバサと素手で薙ぎはらっていく。残像がみえそうなほどのスピードで、急所を殴り、足を蹴っていく。


酒場の中に、暴れる人物はもういない。


ギルフィを名乗る人物が、一人残らず

殴り倒してしまったからーーーーーー



「す、すごい……こんな事って…」


震える唇から、声が漏れていた。

耳がシン……と痛みそうなほどに、静まり返った室内に、コツコツコツ、という靴音が響く。



「聞こえてたろう。

大切な本なんだってさ

あんたも男なら、少年の声くらい聞いてやるんだな」



ギルフィと名乗ったその人は、白目を剥いて倒れた鳥人族の隣に片膝をつくと、落ちていた深淵の書をスッと拾った。


「これが、深淵の書かーーーー」



それが、ギルフィとあたし達

初めての出会いだったのーーーーーー

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダリウスの秘密。。。彼は夜空の色を知らない。 この、「夜空の色を知らない」という表現が哀しいのだけれど、美しくて心惹かれます。 ラピスラズリの絵の具。。。おぉ凄い!! この絵の具は実…
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