第二章 第六節 記憶の底のガラテア
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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「あの日、あなたの他に何も
ただの一つもいらないと、思いましたの
たとえこの世が
地獄の業火に焼かれたとしても
私には、貴方がいればいい。
この恋の他には、何もいらない。
なのにガラテア。あの日、私はーーーーーーーー」
夢を見た。
灼熱の炎が、大地を焦がす夢を。
街も、木々も燃えていて
黒煙とともに、真紅の炎が揺らめく
「あたしはカノンなのに
輪郭がぼやけているみたい。
夢の中だからかな?」
そう、呟いてみる。
「あれ……黒い」
サラリと揺れた髪が今、鮮やかな闇の色をしてた。
腰まである艶やかなロングヘアに
地面に届きそうなほどの
大きな漆黒の翼ーーーーーー
「あ、これは多分……ラウムの夢……?」
大地が、真紅に燃えていた……
たくさんの兵士が、私を見上げてる
あたしの腕は、縄で縛られて
グンと引っ張ってみても、ほどけない。
「あ、磔にされてるんだ」
十字架の木に、あたしの体は磔にされていて、どんなに動いてもビクともしない。
「だ、誰か助けて!!」
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
兵士の下卑た笑い。
声をあげてみたけど、嘲笑があがるばかりで、誰も助けてなんかくれない。
指をさす者。あざけり笑う者。群衆は、期待に満ちた瞳で「十字架の私へ」と、熱を秘めた視線を向ける。
「怖い……!
これ、十字架の刑っていうゲームなんだ……」
あたしは、心臓がヒクつくくらいの恐怖を感じて、睫毛を伏せる。死ぬかもしれない、このまま火あぶりにされるのかもしれない……!
理由はわからないけど、恐らくこれはラウムの過去で、忌まわしい思い出の夢を、あたしは見てるんだと思う。
コワイ、コワイよ……!!
アレキやダリウスがいるなら、助けてほしい!
このまま、十字架に磔にされたまま、紅蓮の炎に焼かれちゃうのかな?
魔女狩りにでもされるのかな?
「その人を、解き放て」
時を破るように
澄んだ声が響いたーーーー
「ガラテア様! しかし……!」
兵士の一人が、馬に乗って駆けつけた美麗な男の人の傍へと急ぐ。
「私の名は、ガラテア。
かような乙女を、磔に処す事など許さぬ。これは誰に許可を得ての、処罰か」
ガラテアって、誰ーーーーーー
群衆の中にいても、そこだけ光を浴びたような風雅な顔立ち。なんか、キレイな男の人……!
絵画の中の、王子様みたい……。
ガラテアって人が、あんまり綺麗で
男の人なのに、あたしは息を呑んだ。
長い波打つような紅の髪に、紅蓮の瞳。白磁の肌に、筋の通った鼻。ダリウスもカッコイイけど、また違うタイプ。
「貴族」って感じのオーラを、纏ってるなって思う
白銀の鎧をその身につけた、騎士様だ。
「ガラテア様、この者は邪神にございます!」
「そうです、騙されてはなりませぬぞ!」
「そうだ! そうだ!」
兵士たちの怒号
スラリと剣を抜くと、静かに言い放った。
「かの美しき人は、このガラテアが連れ帰ろうぞ」
「は?」
長いヒゲをたくわえた兵士の一人が、腰を抜かして地面にドシャっと崩れ落ちた。
「じい、何を驚いているか。
美しい……私が、邪神の姫君を連れ帰るというのも
面白くはないか?」
ははははっと、軽快に笑顔を浮かべながら、馬上から、あたしの縄を剣でザックリと、切った。
「え、ちょっ……!」
縄を切られたあたしは、ガラテアって人の馬上に倒れこんだ。え、どうなってるのーーーーーっっ!?
何この流れ!?
「美しい……漆黒の美女よ……
今宵、我が城へと帰らん。
その名を、教えてくれないか?」
え、やん。顎クイされてます、あたしっ!
体は勝手に動いて、パアンという激しい音がした
ガラテアって人の頬を、あたしが平手打ちしてたのだ。
「無礼な。人の身でありながら、無礼千万ですわっ!」
今、ラウムの体になってるあたしは、黒き翼を羽ばたかせると、馬からスルリと降りた。
「待ってくれ、漆黒の美女よ」
「らーーーうーーーむーーーですわっ!
貴方のお世話になんて、絶対なりませんからっっっ!!」
ヒリヒリと、手首が痛みに滲む。
解かれた縄の跡が、肌を仄かに赤く染めていたの。
あたしはすっごく不思議なんだけど、この時。ぷりぷりと怒りながら、心臓はドックンドックンと大きく高鳴っていたんだ。
「ラウムというのか、貴方は」
「そうですけど、まだ何か用がありまして?」
ガラテアが、走り去ろうとするあたしの後を追いかけてきた。どよめく兵士たちも、白い馬も、置いてけぼりなんだけど。
あれって、いいのかなあ?と思いながら。
「捕まえたぞ、漆黒の姫君。ラウム」
「え?」
その瞬間
ラウムである、あたしの手首は捕まえられていた。
「離してっ」
「離しはしない。気の強い女は、好みだから」
「ガラテアと言ったかしら
貴方、そーとー変わった人ね」
「尖った唇も美しい
漆黒の姫君、ラウムよ
今宵あなたを、私の妻に……」
ガラテアは、優しく手の甲にキスをしたのーーー
えええええええええええええええええ
何してるの!?
出会ったばかりだよっ!?
こ、こ、告白とかっっっ
一目惚れってことっっっっ!?
「な、なにを仰いますの!?
私は邪神、貴方は人間!
人と神は、けっして交わる事はないわ
まして、愛し合うことなどっ……」
「このガラテアならば、人と神との境も越えよう」
「なに言って……」
「我が儘な姫君よ。さあ、攫って逃げようか」
「我が儘は、貴方だと思いますけどっ
きゃっ!」
ふわり。
気づくと、あたしはお姫様抱っこ、されていた。
え、何この流れ
え、何この流れ!?
ガラテアはあたしを軽々と抱えると、白馬に乗せた。その優美な仕草は、「ちょっと、アレキにしてもらえたらなあ」って思うくらい、自然な流れだったの。
「ガラテア……」
そこで、目が醒めたの。
確かに、あたしはラウムだった。
あたしって夢の中だと
ラウムの記憶をシェアできるんだーーーーー
「じゃあ、ひょっとして逆に
あたしの記憶を、ラウムも見ることができるのかな」
刹那、はらはらと
瞳から雫が、零れおちた。
「なにこれ、あたし……涙……?」
どうしてなのか、わからない
理由なんか、知らない。
懐かしさとか、愛おしさとか
会いたかったとか
彼の作ったパンが、おいしかったとか
何度も何度も、攫ってほしかったとか
何度も何度も、何度でも
時を巻き戻せたらと、願った事とか
どうしようもない想いが瞬間、ブワッと胸をよぎる。
「ああ、好きだったんだね……」
そしてきっと、もう二度と会えないんだ……
あんな風に……当たり前に
笑ってはくれないんだなって。
あたしは、あたしの記憶じゃないのに
あふれる想いを、止める事ができなかったのーーーー
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