第二章 第五節 すみれ色の闇と告白
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。
https://terradraconis.com/
「ただいま、アレキ」
「カノン……!」
銀髪のロングストレート。澄み切った蒼の瞳、白磁の肌に、エルフの耳。ふわふわ広がる雪のように白いワンピ。
ラウムの姿からメタモルフォーゼして、そこに降り立つ彼女は、紛れもなくカノンだった。
「ラウムの胸の奥でね、ずっと聞いてたよ」
「そっか」
「でも、アレキが生きて返って……よかった」
カノンの声が震えてた。
その瞳には、じんわりと涙が浮かんでいたんだ。
きっと俺が思うより、いろんな事があったんだろう。
俺が死んだ瞬間も見ただろうし、言葉にはできないような想いが、胸をよぎったんだと思う。
「うん、よかったよ」
俺はカタカタと小さく震える彼女の肩に、そっと手を伸ばした。その声は、同時に聞こえたんだーーーーー
「カノン!」
声の主は、ダリウスだった。
はじかれたように振り向くと、颯爽とカノンの前に立つダリウスの姿があった。端正なその顔は、青みがかった光に縁取られて、いつもより凛々しく映った。
……無駄にカッコイイな、おい。
双子なのに見惚れてると。カノンの頭をポンポンと、優しく撫ぜたんだ。自然すぎてボーッと見てしまった。
なにそれ、自然!
めっちゃ真似したい!
「ありがとう、カノン
この鉱石のお守りが、皆の命を守ってくれた」
「ダリウス、ほんと?」
「うん。アレキもさ、カノンがくれた守りの石で、きっと助かったんだと思う」
「なんか、うれし。ありがとねーダリウス」
えへへと照れるカノン。
うーーん、嫉妬してるっぽいな。……俺が。
「ラウムの奥で眠ってた時ね
ちゃんと聞こえてたんだ、ルダの記憶が消えたことも」
カノンは、ダリウスの胸に煌めく水晶にそっと触れる。華奢な指先で鉱石をくるむと、儚げにフッ……と眼を細めた。
「ダリウスの記憶も、守ってあげたかったな」
「それは、ごめんな。俺、覚えてなくて」
「ダリウスが悪いんじゃないよ。
命を呼び戻すってさ、きっとね
運命を変えちゃうくらいに
すごい力を使うんだと思うの。
だから、ダリウスは悪くないよ」
「うん」
「アレキを生き返らせてくれて
ありがとう、ダリウス」
不思議と、ぐっと胸に込み上げるモノを感じた。
カノンは、ダリウスの胸に揺れる水晶をみつめると、クルリと半回転して、俺の方を向いた。
「帰ろっか、ティリア村へ!」
夢のように、かわいい笑み。
ああ、カノンだ……!
俺の家の隣に住んでいて、いつも柔らかな声で俺の名を呼ぶ。
サラサラの銀髪が風を孕むと、エルフらしいとんがり耳に髪をかけた。
「アレキ、皆で帰ろ。
パンの残り、急いで食べちゃおうよ」
「ああ、そうだな」
俺たちはパンを食べ終えると、遺跡を出て、ティリア村へと急いだ。夕暮れの色と、すみれ色の闇。うつくしいグラデーションを描いた空がキレイだった。
家路に着くと、じっちゃんが玄関の前に立っていたんだ。その表情には、不安げな色が浮かんでいた。
「じ、じっちゃん……!
待っててくれたんだーーーー!」
「当たり前じゃ!
アレキ、ダリウス。ケガはないか?」
じっちゃんの声が、震えてた。
そりゃそうだよな、きっと滅茶滅茶に心配かけたよな。俺は胸を張って、元気に答えた!
「うん、俺は大丈夫!!!」
そこでダリウスから、クールな突っ込みが入る。
「一度死んだくせに、何言ってんだよアレキ」
「あ、そうだったな!
じっちゃん、ごめん!
俺、一度死んじゃってさ〜」
「お前、選ばれなかったのか」
そこで、時が凍った。
誰もが口をつぐんで、静まり返った空気がジンジン胸に痛かった。
「……ああ、そうなんだ。
俺、アッサリ魔獣に殺されちゃって。深淵の書が選んだのは、ダリウスだったから……」
「深淵の書は、俺を選んだよ」
ダリウスがスッ……と、前へ歩み出る
深紅に彩られた表紙、『深淵の書』。
それはまるで彼に相応しいかの如く、ダリウスの手の中にあった。空は、オレンジきらめく夕映えの頃。
ダリウスの精悍な顔は、選ばれし者にふさわしく、凛として美しかった。
ーーーーだから、何故だか胸に痛かった。
「アレキと頑張って、フォルネウスって魔獣と戦ったんだ。なんとか魔法陣を書いたら、間違ってマンティコアとラウムって邪神を召喚しちゃったんだけどね」
「それで、どうなったんじゃ」
じっちゃんの視線が、ダリウスに注がれる。いつになく真剣な表情だ。
「無事、魔獣たちを倒したよ。邪神ラウムのことは、後でゆっくり話すから」
「ダリウス、フォルネウスは……どうなった!?」
じっちゃんが、ダリウスの肩をガッと掴む。どうしたんだろう? こんな風に、ダリウスに熱っぽく語るじっちゃんの姿を、俺はあまり知らない。
「じっちゃん、落ち着いて!
フォルネウスは、死んだよ」
「死んだ……」
「ああ。魔獣マンティコアが、ディストピアから現れて、合体したんだ。魔獣に吸収されて、それっきり消滅したよ」
「消滅……そうか……そうじゃよな……」
じっちゃんは膝からガクッと力が抜けて、地面に腰を落とした。そうして想いを噛み殺すように、泣いた。
俺は思わずビックリして、じっちゃんの横へと駆け寄ったんだ。
「じっちゃん……?」
「いや、これでいい……
そうでなくては、深淵の書を継ぐことはできんのじゃ。これで……よかったんじゃよ……!」
溢れて止まらぬ涙。
こんな風に泣き崩れるじっちゃんの姿を、俺は知らなかった。俺はどうしようもなくて、じっちゃんの丸い背中をポンポンと撫ぜた。
「あのさ、アレキ。また明日ね」
カノンが空気を察してか、ヒラヒラと手を振って、隣の家へと帰っていった。ルダも無言で、でも笑顔で。トンと、俺の背中を叩くと隣の家へと消えていった。
この日の記憶は、いつまでも鮮やかに刻まれた。
じっちゃんの涙の意味は、ずいぶんと後になって知ったんだ。
カノンが『ラウムの過去』を見たのは、この翌日。
澄んだ瑠璃色の空の下
カノンは夢の話をしたんだーーーー
ブックマーク、評価、していただけますと
とても励みになります。
(最新話のページの下部に評価を入力する場所があります)
よろしくお願いいたします。




