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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
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第二章 第四節 すべてが青に染まる

※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。

シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。

https://terradraconis.com/

「わぁ、アートなパンですこと!

ハートを紐で結んだような、変わった形ですわね

ルダ、このパンは何かしら?」


ラウムがモグモグと頬張りながら、驚きの声をあげる。


漆黒の大きな翼は、コンパクトに畳まれて

岩場に腰を下ろし、皆といっしょに円陣の中、座ってパンを食べる彼女は、邪神なのになんだか普通の女の子みたいだった。


「これは『プレッツェル』だよ〜、ラウムさん」


「プレッツェル、ですの?」


「そう、古代ケルト人のお菓子だって説もあるんだって。塩気があって、おいしいんだよ〜」


「塩気ね、いただきまーーー……」


「ちょっと待った、ラウムさああーーーーーん!!」



ズザーーーーーーーーーーッ!!

ルダが即座に、ラウムの前にスライディングしてきた!

ラウムが口を開けて、パクッと食べようとする刹那。彼女のパンを両手で掴み、ゼイゼイと息を荒げている。

な、なんだ!?


「そのままじゃダメだあああああああああ」

ラウムさん! 

表面についてる岩塩、手で落としてみて」


「岩塩?」


「そう! そのまま食べると辛いんだって〜」


「えっと、こんな感じかしら?」


ラウムは素直にうなづくと、表面にまぶしてあった岩塩を、パラパラとはらう。そうして不思議そうな表情で、カリッとひとくち頬張った。



「……おいひいでふわ」


「でしょ〜!」


「こんな、おいひいももありまひたもめえ」


「ごめん、何言ってるか分かんないけど、褒めてるんだよね?」



ラウムはコクンと頷いた。

意外にこの小悪魔系、邪神ねえさんは素直だなって思う。おいしそうに笑う彼女に、視線を奪われていると。


「ん〜アレキのパンも、食べたいですわ」


「え、俺のパン?」


「人の世のパンは久しぶりですもの!

アレキ、一口ずつシェアしましょ」


「え、あ、ごふっ! むぐっ、うまっ!」


絶賛ラウムに今、プレッツェルを口に押し込まれてまーーーす。俺すっごい謎なんだけど、邪神てこんな甘えてくるの?

邪神だよ

悪魔が崇める神だよ

こんな懐くの?

あ、パンはおいしいです。


あとなんか、近くで見ると凄いキレイ。睫毛長いし、夢のように瞳が澄んでる。漆黒ロングの髪はサラサラで、雪華のような肌には、透明感があった。

……美人て見惚れるな。


美人は三日で飽きるとか言うけど、あれ絶対ウソだよね。俺、飽きた事ないもん。


「アレキ。ひとくち、下さいな」


「え、あ、うん」


「ん〜おいしいですわ」



ーーーーーーーーまて、かわいいぞ。

邪神なのにな。

なんでこの子、人間じゃないんだろな。そんな事をしみじみ思う。ルダの記憶が消えてしまった、ダリウス。


そんな事件があった直後だから、余計に

なんだか、ほっこりと癒されてしまった。


ふと隣を見ると、ルダが持ってきた水筒で、ゴクゴクと水を流し込み、ひと息ついた所で、ラウムに話しかけた。


「ラウムさん、僕いつか『魔法食堂』つくるのが夢なんですよ〜!」


「魔法食堂?」


「そうなんです!

魔法食堂ですよ〜!

そこには、神も悪魔も人もなくて。

エルフだろーがヴァンパイアだろうが、みんな一緒に、おいしいゴハンを食べるんですよ〜!!


俺がこの腕と魔法でつくる、極上の料理です!

めーーーーーっちゃおいしいパン、焼きますから

ラウムさんもオープンしたら

食べに来てくださいね〜!」


「うふふ、もちろん伺いますわね」


「食べましょう〜!!」



ーーーーーそれ。なんか素敵かもな。


天空に空いた穴から、ユラユラと海の底みたいな、光の筋が差し込んでいた。俺は、すべてが青に染まる洞窟の中で、おいしそうにパンを頬張る皆の姿が


「ちょっといいな」って思ったんだ。



ルダがいつか、魔法食堂を始めたら

このメンバーで、また食べたいな。


なんてことない日常の中で

無邪気にいっぱい笑って

おいしいパンを一緒に……食べたいなって思った。



「消えちゃった記憶は、仕方ないからさ。

こうやって、なんでもない大事な時を

いっぱい重ねていこうよ」



ルダが、パンを口に運びながら

小さく呟くのが、聞こえた。


「そうだな……、俺もそう思う」


それしか、言えなかった。


かける言葉とか、みつからなくて

こういう時、スラスラと流麗な言葉が浮かべばいいのになって、強く思う。


「さーーー! もう帰ろっか。

アレキとダリウスのじっちゃんもさ、待ってると思うし。は〜おいしかったあーお腹ぽんぽこぽんだよ〜」



ルダは、元気だった。

その仕草からは、どこか哀しい匂いがした。


ラウムが艶っぽく「ん〜」と伸びをすると、立ち上がって黒レースのスカートを翻した。


「ご馳走さま、おいしかったわ」


「ラウムってさ、人の食べ物も口に合うんだな」


「もちろんですわ。

昔ねガラテアも、私のために作ってくれたんですの」


「ガラテアって人の、手料理?」


「ええ。ガラテアはね、パンを焼くのが上手でしたの

よく朝から『食べたいんですの〜!』って

甘えておねだりしましたわ


だって、この世で一等、大好きな味でしたから」



そうして彼女は、天空を仰ぎ見る。

そこにはただ、ブルーの淡き光が揺れているだけなのに。



ーーーーガラテアって、一体

どんな人だったんだろう?



「ラウム。ガラテアって人さ

その……人間だったのか?」


「ええ、ガラテアは人ですわ。

ですから、寿命も短かったんですの。

人は……儚いものね

脆くて弱くて、すぐに散ってしまうもの」


「この世にはもう、いない人なのか?」


「ええ」


「そっか」


それ以上聞いちゃいけない気がして、俺は言葉を飲み込んだ。するとラウムは静かに立ち上がり、涼やかな笑みを向ける。


「命が終わっても

ずっとずっと、忘れられない人でしたの」


「え?」


「アレキは、生まれ変わり?」


何言ってるんだ……?

そんな訳、ないだろう。

俺は誰とも似ていない。双子のダリウスですら、俺とは似てもにつかないと思うのに。



「違うよ、たぶん」


「違うの?」


「わかんないけど、俺は誰とも似ていない

俺は、俺だからさ」


「そう……」


視線をスッとそらすと、ラウムは少し俯いた。

……まさか本当に、俺が誰かの生まれ変わりだと思ってたのかな?


そんな事、ある筈がないのに。


でも、だけど、何て言ったらいいんだろう?

だって嘘はいえない。

嘘は言えないんだけど、ラウムが哀しいのは嫌なんだ。どうしたら良かったんだろう?



「反魂の術を作ったのは、ガラテアですわ」



「……今、なんて」


ラウムの突然の言葉に、俺は真っ白になる。


「ガラテアは、全てを知っていましたの。

アレキとよく似ていたわ

その声も、その唇も。どこか懐かしく想えましたの」


「俺は……っ!」


「カノンの中に還りますわね、アレキ」



俺の頬にそっと、彼女の白い指先が触れた。


それはとてもキレイで、儚く優しい瞳をしてた。その指がゆっくり離れると、彼女はまた水滴のように透明になって、カノンの姿へとメタモルフォーゼする。


カノンの奥へと眠るのか……

すこし、離れがたいと思ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は切ないですね。。。 胸がきゅーーんとしました。 ルダの記憶がなくなってしまったぶんは、また想い出を重ねていけばいいーーうん。その通り。でもなんか切ない。。。 ラウムが生まれ変わ…
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