第二章 第三節 時の記憶、いのちの代償
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第二章 第三節 時の記憶、いのちの代償
「ーーーそういえば昔、父さんが言ってた
反魂の術には、副作用があるんだって」
静寂の洞窟で、俺はポツリと呟いた。
俺が、死んでいる間に
一体何があったんだろうーーーーーーー
マンティコアとの死闘が終わり
カノンが、ラウムに食べられて
ダリウスの記憶から、ルダが消えていた。
「もう、ワケわかんねーよ……っ!」
なにげなく右に視線を走らせると、シュウシュウと禍々しい黒煙が上がっていた。
立ち昇る煙の下にいたのはーーーー
「マ、マンティコア!?」
それは、先刻まで荒ぶっていた魔獣だった。下半身は沸騰するように、ボコボコと泡立ちながら瘴気を放っている。
上半身は、もう煙の彼方へと消えていた。
マンティコアの屍の下から、鈍色の血液が広がり、それもフツフツと煮え立っていた。
こわ……。
こんなの絶対、人間の仕業じゃないよな……。
「……ラウムが、やったのかな?」
「アレキ。そうだよ、俺たちは見ていたさ」
「ダリウス。そういう記憶は……あるんだ」
「当たり前だろ?
俺が分析するに。カノンを吸収したことで、ラウムの力が増幅したんだろうな。
マンティコアだって、フォルネウスを吸収した後、パワーアップしてたからな」
「そっか。そうだな」
「ああ、ラウムは強かったさ。彼女は邪神だ。
カノンを食べた後の彼女には、マンティコアなんて敵じゃなかった」
「そんな強いのか!
「ああ、強い。でも倒した後は、スッと可憐に座ってたぞ、お前の横で」
「は、俺の!?」
「そう、アレキの隣。心配そうに見てたぞ
そういう時は、ただの女の子みたいに可憐に感じた。お前、案外モテ期きたかもなー」
「お、おおおう……」
なんて言ったらいいのか、わからんっっ!!
絶賛、モテ期なんて来たことないから!!!
初、モテ期だからっっ
「くっ……」
突然。ダリウスが、額を押さえてうずくまった。
「大丈夫か!?」
「ああ、先刻から頭痛がするんだ。痛みがジンジンと疼く……くっ」
俺が心配して所在無く立っていたら、膝をついて頭を抑えるダリウスの前に、カノンがペタンと座り込んだ。
白いスカートの裾がフワっと広がって、ゆっくりと地面にレースの円が描かれる。
「ね、ダリウス。本当に覚えてないの?ルダのこと」
「ああ……わからない」
「あたしのことは、覚えてる?」
「何言ってんだよ!
何年、隣に住んでると思ってるんだよ」
ダリウスが当たり前だろ、という風に屈託なく笑った。その光景を見てたら、なんでだろ……。何故だか、俺の胸がチクリと痛んだーーーーー
カノンは俯いて、哀しげな視線を膝に落とす。銀髪がサラリと揺らめいて、澄んだ声で、こう言ったんだ。
「……ルダもね、同じ村で……
同じだけ一緒にいたんだよ」
「ーーーーーえ?」
ダリウスの顔から笑顔が消えた。
その言葉で、現実を知ったみたいに見えた。
そう、これはリアルな事なんだーーーーーー
「忘れちゃったかもしれないけど、ルダは私の兄弟で。お母さんが離婚してからず〜っと、ダリウスの家の隣に、住んでるんだよ」
「そう……」
「ダリウス、本当に欠けてしまったの?
ルダの記憶……」
「なんでかな、思い出せない……」
ダリウスがしん……と、地面に視線を落とす。
それは演技とかじゃなくて、冗談でもなくて。
ただ、失ってしまったんだろう……ルダと一緒にいた記憶を。
「一緒にいたのに。ルダの焼いたパンの味、食べたら思い出さないかな?
ね〜、ルダさ、パン持ってるよね」
「あ……あるよ」
当のルダは、まだ呆然としたままで、理解できてない感じだった。そのルダが斜めにかけた鞄の中を、カノンが必死で探す。
「あった〜」
中から大切そうに布に包まれた、パンが現れた。
ふんわりと焼けた狐色。おいしそうだ。ああ、ルダの焼いたパンだなって思った。
「ダリウス好きだったよ〜、フッカフカのパン!
『焼きたてのルダのパンは、一番のご馳走だな』
ってさ、いつも言ってたから」
カノンがダリウスの手を取って、そのパンを掌に乗せた。じっと祈るような瞳で、ダリウスに想いを告げる。
「ね、食べてみて?」
「ああ……」
ダリウスはそのパンをちぎり、欠片を口へと運ぶ。それはいつになくピンと、緊張した空気を感じる所作だった。
「おいしい……」
「でしょ!? ね、何か思い出さない?」
「ごめん……」
「……嘘、だよね……?」
「何も……覚えてなくて……」
「そんなっ……!」
俺は、何か胸にグッとこみ上げるモノを感じて、二人の間に割って入った。
「カノン、もういいよ。ダリウスは悪くないから」
「そう、だよね……ごめん……」
「少し落ち着こうよ、俺もさ〜ルダのパン食べよっかな」
俺はなんだか哀しくて、あえて明るく振る舞った。
だって、誰も悪くない。
誰も、悪くなんかないんだ。
ダリウスは命を懸けて、反魂の術を使ったんだと思う。そこには、何か代償が必要だったんだ。
命の重さとは、引き換えにならないかも、しれない……
でも生きるって、記憶だから
想い出が人を、創っていくから
大切な人との記憶が消去されるのは
あまりにも大きな代償だったーーーーーー
「アレキ、ごめんね。限界みたい……
少し……ラウムに戻るね」
カノンは儚げに微笑むと、また透明な物質に変化して、ラウムへとメタモルフォーゼしていった。
その姿が銀色から、漆黒へと変わる。
足元まである大きな翼がバサリと生えて、瞬く間にラウムになっていた。
わ〜なんていうか、本当に……カノンであり、ラウムなんだなって痛感する。
彼女は、俺が死んでる間に食べられて
ラウムの半神になったんだ。
ああ、リアルに「そうなんだな」って
不思議と胸に、ストンと落ちた。
「ふう〜!
大変ですのね、反魂使いっていうのも。
カノンって子の気持ちね
私にも……少しはわかりますわ」
長い睫毛をゆっくり開くと、ラウムが小悪魔めいた上目遣いで、俺を見つめた。そうして、ふっ……と優しい口調で目を逸らした。
「カノンは優しい子ですのね。
ダリウスになんとか、思い出して欲しかったんだと思いますわ」
「ラウム……」
「彼女の奥で眠ってる時に、じんと痛いほど伝わってきましたの。カノンの想いが……」
「え!? ラウムさ、カノンになってる時の記憶があるのか?」
「もちろんですわ。
おそらくですけど、私の奥で眠っているカノンて子も、今この私が見てる記憶を、共有してると思いますわ?」
「記憶をシェアしてるのか……すごいな、半神って」
「そうですわ。それが、神という存在ですの」
その時、ダリウスがパンを全部食べきって、パンパンと地面の砂を払い、ルダの正面に立っていた。
それは凄く、まっすぐな瞳で。
「全然覚えてないけどさ
今、ここにいる俺も『一番のご馳走だな』って思ったよ、君のパン」
「ありがとう。ルダ、だよ」
「ルダか……」
スッと掌を差し出すと、ルダにこう言った。
「初めまして、ルダ」
「ーーーーーーーーっ」
ーーーーールダは言葉がでなかったみたいで、無言のまま、でも強く強くその掌を握りしめた。
俺はなんだか、胸がじんじんと痛くて
どうする事もできないけど
この光景を、絶対に
覚えておこうと思ったんだ。
いつの間にか、ラウムが俺の隣に立っていて
澄んだ声で、言の葉を告げた。
「ーーーそういえば、ガラテアが言ってましたわ。
反魂の術を使う者は
その代償として、大切な記憶が欠けていくのだと。
……すでに失ってしまいましたのね」
「ラウム。……ガラテアって、誰?」
「私の、大切なひとですわ」
「大切なひと?」
「深淵の書には、謎がたくさんありますの、ガラテアは全て知っていましたわ。だから、私はここに来ましたのよ」
「ディストピアの門から現れたのには
理由があったんだ」
ラウムが寂しげに目を細めると、天を仰いだ。
「もちろんですわ。
だいぶ、ここに来るまでに沢山の事
失くしてしまったけれど……
ガラテアの事
いつか……アレキにも、話してあげますわね」
ルダが刹那、俺の背中をバーーーーン!
と、ぶっ叩いた。
「いってっっっっ!!!」
「さーーー、もう帰ろう!
皆死なずにすんだんだからさ、ヨシとしようよ!」
「背中がジンジン痛いんですけどっ!」
「あ、ごめんね〜〜〜〜!」
「まあ、あんな魔獣マンティコアと戦って、全員生き残ったんだから、まいっか〜」
ダリウスが急に、俺の肩にのしかかってきた
てか、重っっっ!
「生き残ったんじゃなくて
お・れ・が、生き返らせたの!」
「わかってるよ、ダリウス〜
今度、なんか奢るわ!」
「命の重さ、軽すぎだろっ」
「まあ、俺の命なんで!」
何故だか、皆で爆笑して
ルダが持って来たパンを、青の洞窟でもりもり食べた。何故だか分からないけど、いつもより温かい味がして……胸に沁みた。
命懸けで戦ってホッとしたのかな
お腹がペコペコだったのもあって、すっごくおいしく感じたんだ。
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