第二章 第二節 ラウムの半神、ダリウスの瑕
※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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どうやら俺は、死んだらしい
貫かれたはずの心臓は、傷跡もなくふさがっていた。
うっわ、なんか……すごいな。
ダリウスの反魂の術、ほんとに成功したんだ……!
ラウムがにっこりと、優美な笑みを浮かべる。
「カノンは、もういないわ。彼女は、私が食べたから」
「は? 何言ってんだよ……?」
「彼女は、私がバリバリと食べて。
そして、私の半神になったの」
「半神……?」
「そうよ。一つの命を分かつ存在となったわ。ここにいる私は、ラウムであり、カノンなのよ」
「え、ちょっと意味わかんないんだけど」
隣に視線を移すと、ダリウスもルダも意味がわかんないみたいに感じた。それぞれに離れた場所で、呆然とした表情のまま、ラウムの話を聞いていた。
そりゃそうだよな。カノンが忽然と消えて「ラウムの半神となった」なんて説明されても、なんか意味わかんないよ。
「カノンはね、半分『神』となったのよ」
「半分、神……?」
「ええ。彼女はこの世で存在するための、わたしの依代となり、この世界に顕現するための肉体となったの。
私は神でありながら、人となった。ラウムであり、カノンなのよ」
「えっと、言ってる意味がわかんねーんだけど」
「私は今ラウムだけど、自分の意思でカノンの姿に変化して、カノンの魂にこの身を譲ることも出来るってことよ」
「それってどういう……。カノンの姿になってる時は、ラウムはどこに行っちゃうんだ!?」
「ここよ、心の奥で眠るの」
ラウムは、自分の心臓に右手を添えた。
あ、キレイだな……。
洞窟は海の底みたいに、淡いブルーの光で満たされていて。胸に手をあてて瞳を閉じる彼女は、漆黒の人魚みたいにもみえる。こんなに美しいのに、人じゃなくて「邪神」なんだよな……。
「ん、どうしたの。じっと見つめて」
「あ、いやラウムさ、キレイだな〜と思って。洞窟の仄かな蒼の光に照らされてると、邪神っていう事忘れるな」
ラウムはプクッと唇をとがらせて、俺の肩にひとさし指でツンツンしてくる。うおっっ、なんぞっっ!?
「邪神って言うのは、人間が勝手につけた呼び名ですのっ。私は高貴な神なのですわよっ! だからカノンも、半分神なのですわーーーーーっっ」
「怒るポイントわっかんねーよ!! と、とにかく、邪のつかない神なんだなっっ?」
「そうですわよっっ! もう、折角カノンと再会させてあげようと思いましたのにっ。もうもうもうですわ〜」
ぷくぷくっと膨れながら、ラウムが拗ねた。
ーーーーあれ?
ちょっと、かわいいぞ。普通の女の子みたいだ。
神なのに、邪神なのに。俺はそのギャップになんだか戸惑う。そして今、カノンと再会とか言ったよな?
「あ、あのさラウム。もう一度カノンに、会えるのか?」
「会えるわよ。会いたいの?」
「もちろん!! だって俺が死ぬ前さ、カノン泣いてたし」
「ふーん。じゃあ、少しだけカノンに体を譲ってあげましょうか」
「え、少しだけって……?」
「こうするのよ、見ててね」
そういうと、ラウムが急にフッ……と俺の耳元に顔を寄せた。えっと、近いですラウムさん。
「ねえ、アレキ。ラウムの体、透けてるよお……!!」
ルダの声が、震えてる。
なんだ……これ!
先刻、ファルネウスを取り込んだ時の、マンティコアみたいだ。ラウムの体がだんだんと透明になっていく……!!
「あれ、縮んでくよ……」
そう、ルダの言う通り。ラウムの身長が少しづつ少しづつ、小さくなっていく……!
ラウムの体は水のように透けていて、体の向こうにある、洞窟の岩場が見える。ブルーの光を孕んでいて、夢のように煌めいていた。
「カノン……!」
思わず、驚嘆の声が漏れる……
だって、形がだんだんとカノンの姿を成していくから。すげーーー! 奇跡を見てるみたいだ。
本当に……これがカノンなのか?
こんな風に変化しても、人のままって言えるのかな
小さい頃から一緒に過ごしてきた、ほんわり癒し系のカノンなんだろうか。
なんかちょっと不安になってきたぞ……!
けど、眼前で変化していく「カノンらしき彼女」は、透明で海洋生物みたいな風貌から、肌色みを帯びて、人間ぽくなっていく。
「…………あ、アレ……キ…」
「カノン、本物……なのか?」
サラサラの銀髪、とんがり耳のエルフ。
それはもうずっと前から知っている、懐かしきその瞳、その顔だった。カノン……!
そんな、やった……!! 本物だ……!!
「カノン、なんだな……?」
「うん。アレキは……幽霊じゃないよね」
「俺は、幽霊じゃないよ」
「ほんとだよね、生きてる……よね?」
カノンがおずおずと、俺の頬に手を伸ばす。
両手でそっと俺の頬をくるむと、その唇がフルッと細かく震える。儚げでなんかさ、守ってあげたくなるよ。
「あったかいね……アレキが……生きて……っ」
彼女のアイスブルーの瞳から
つーー……と、落ちていく涙の雫。
「あたしね、もう……
もうこの世では、会えないかと思ったの……!
だってアレキの心臓に刺さってたの、あたし見たもん
だからね、もうこの世では……っ」
カノンがそう言って、俺の胸にトン…と飛び込んできた。
え、ちょっ……こんな事、初めてなんだけど!
泣きじゃくる彼女の細い肩を、ぎゅっとしてあげたくなる。俺はふんわりと彼女を包むように、手を伸ばして……。
「カノン。本当に、カノンなんだな!?」
「だ、ダリウス?」
瞬間、抱きしめようとした腕の中がスカッと、虚無になる。なんでじゃーーーーーーーーーーー!!
見ると、俺の腕の中にいたカノンを、なぜかダリウスがサラリと抱き寄せていた。どんな早業だよっっっ!!
「心配したんだぞ、カノン。ラウムの依代として吸収されて、もう消滅したのかと」
「ごめんね、なんかもう夢中だったの。でもね、もうこーんなに元気だよ〜」
まだ涙が滲む目尻に、花のような笑み。
ああ、カノンだ……!
なぜか、ダリウスの腕の中なのが気に入らんけどさ、無事で生きてて、笑ってるから。
なんかもう、夢のように嬉しくなるよ!!
「うっ……、くっ……!」
「どうした、ダリウス!」
急にダリウスの顔が蒼白になり、膝をガクッと落として地面にフラリ……、座り込んだ。
「なんかさ、急に頭痛がして……いって……!」
「大丈夫かよ、ダリウス!」
「ああ、なんか何か……大事なこと忘れてる気がする……」
「なんだろな? 見たところ洞窟に渦巻いてた、ディストピアの門も閉じたのか、見当たらないし。大丈夫だと思うけど」
「そ、そっか……」
ダリウスの端正な顔が、いつもより仄かに白い。人形めいた顔立ちに、苦悶の汗がじんわり滲んでいた。
大丈夫、かな?
「アレキ、俺さ……何も変わってないよな?」
「変わってないと思うけど」
ルダも心配なのか、駆け寄ってきた。水筒をダリウスにスッと差し出すと、俺の反対側に座って、背中をさすっている。
「これ水、ダリウス飲んで! 薬もさ〜カバンにあるからね、ちょっと待ってて!」
ガサゴソと肩から斜めにかけた、キャラメル色の鞄の中身を一生懸命に探しているルダ。
その光景を、まるで珍しいモノでも見るように、じーーーーっと、目を見開いてみつめるダリウスの姿があった。
なんだろ、様子がおかしいぞ。
「ダリウス、どうした?」
「誰、ですか?」
ルダをまっすぐに指差して、ダリウスが告げた。
「あなたは、誰……ですか?」
一瞬、時が凍る。
カノンが、ルダが、そして俺が。ありえない言葉の先、ダリウスの顔に、焦点を当てていた。
「何いってんだよ、おい。……冗談だろ? ダリウス」
「冗談なんかじゃない、俺はこの人を、知らない」
凛とした声で、キッパリと言い放つ。
「俺はこの人を、知らない」
「は?」
「初めて会いますよね」
「……ダリウス。何言ってんだよ、ルダだぞ。ずっと、幼なじみだろ!? 何年一緒にいると思ってんだよっっっ」
「お前こそ、何言ってるんだよ、アレキ。
そんな記憶、あるわけないだろ」
ーーーーーーー頭の中で、ノスタルジックな声が響く。
それは初めて俺が、反魂の術を使った日
父さんは、確かにこう言ったんだ。
「反魂の術。副作用があるかもしれんな」
そう、確か……12歳の頃だ
しばらくしたある日、俺は気になって「副作用」について聞いた覚えがあった。
「いいか、アレキ。
反魂使いは、地獄より魂を呼び戻す者、この世の理を破るには、それ相応の『代償』が必要となるのだーーーー」
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