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ディストピアの反魂使い  作者: 柊アキラ
19/33

第二章 第七節 もう、この世にはない約束を。

※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。

シェアワールド『テラドラコニス』のリンクはこちらです。

https://terradraconis.com/

「昨日、夢の中であたし、ラウムだったの

彼女の過去とか想いが、駆け抜けていったよ


ガラテアって人、とても懐かしかったの」


陽光を浴びて、カノンの銀髪が煌めく

彼女は、遥かどこかの時を想うように、目を細めた。


なんかカノンなのに、あんま見たことない表情だよなあ。ふと、そんな想いがよぎる。


紫色のライラックが、満開の朝

はらりはらり、青空に花びらが乱舞する。


ふと耳の横を、さわやかな甘い香りの風が、吹き抜けていった。


ーーーそういえば貴族の間では、ライラックの雫を集めて、香水にするんだって聞いたことがあったな。涼やかな優しい匂いは、どこかカノンを彷彿させるなって思う。


「ん〜いい香り。そういえば、夢の中って香りはないんだよね。不思議な気がするよね」


「そうだな」


ライラックの大樹を見上げながら

降るような、薄紫の花びらを

雨のように受けとめる。


今日は、横顔に切なさの憂いを感じる。

なんでかな……

いつもより少しだけ、大人びた表情に感じたんだ。


「あのさカノン。ちょっと気になるんだけど」


「なにかな、アレキ」


「その……ガラテアって人、イケメンか?」


「イケメンだったよ」



即答!!

そっか。

うーん、そうかそうか。そんな気はしたんだよな。あの激烈スーパー小悪魔美人が惚れた男って事は、すっごいイケメンなんじゃないかって。


「でも、アレキには似てなかったよ」


「え?」


「ラウムは『似てるわ』って話してたけど、全然、欠片も似てなかったよ」


「なんか傷つくけど。そっか」


「そ、そういう意味じゃなくてっ

アレキはアレキだからさ……。

誰にも、代わりになんかならないよ

この世の誰一人、似てる人なんか……いないんだから」


頬を紅く染めて、カノンは目を逸らす。

その言葉と仕草がかわいくて、なぜだか俺も俯いてしまった。


「そ、そっか」


「ああ、でも……声」


カノンは舞い散るライラックの花びらを目で追いながら、空へと視線を向けた。


「声が少し、似てた気がするの

顔も性格も、全然まったく似てないのにね

不思議だったよ」


「声か……」


俺の知らないガラテアと、俺の声が似てる……?

なんていうか少し、胸の奥がカタン……と揺れた。



「昔、ママがいってたんだけど

人ってさ、声、顔、思い出の順番に忘れていくんだって」


「人は、声から忘れていくんだ」


「そう。でもね、アレキ

ガラテアの記憶は、声までが鮮やかだったの

ひょっとして邪神って、人とは違って

記憶が色褪せていかない、生き物なのかもしれないね」


「それじゃあ、いつまでも鮮明なまま

忘れられないじゃないか」


「そうだよね。それってさ、消したい傷があった時

大変だよね

忘却するから生きていける事って、あるじゃない?」


「うん」


「忘れたい人がいても、会いたい人がいても

ずっと焦がれたままなんて

たぎる炎に焼かれ続けてるのと、一緒じゃない?

あたしだったら、耐えられないかも」


「そうだな、でもーーー」



でも俺、ある日突然消えてしまった父さんの事は忘れたくない。痛い記憶でも、かまわないから。


ずっと鮮明なまま

胸に刻んでいたいかもしれない。


「俺は、鮮明なまま、忘れたくない記憶もあるけどな」


「そっか、そうだねアレキ

覚えていたい大切な記憶のときは、それでいいのかも」


カノンは降り注ぐライラックの花びらを、片手で受けめた。髪にもひとひら、花びらの欠片がくっついていて、俺はそれを指先でつまんだ。


「カノン、花びら」


「あ、ありがと」


……あれ。

なんだか久しぶりに、カノンの顔をまっすぐに見た気がしたんだ。昨日も会ってたのにな。


「パン、焼いてみたよおおおおおおおおおおおお」



眼前に、突然のパン。

ちょっ、ビックリした!!

ルダが長いパンを剣のように持って、俺の眼前に突きつけたから。『食べ物で遊ぶんじゃねえ〜!!』っていう、じっちゃんの声が連想されてしまった。



「ルダかよっ!」


「ルダだよ〜!

見てこのスーパーロングソードみたいなパン! カッコイイでしょ〜

焼いてみたんだ、皆で食べない?」


満面の笑みのルダが、勇者の剣を天空にかざすが如く、パンを青空に向かって高々とかかげる。

なんだろうか、このノリ!



「じゃあ、いただこうか」


そのパンをスッと、横から奪い取るとダリウスがパンの端をワシャっともぎとった。


「あ、ダリウス〜っっ!」


「うまいな。どこか、懐かしい味がする」


「このパンさ、ダリウス昔から大好物だったよ

覚えてないだろうけど」


「うん、覚えてない」


「だよね……」


ルダは反対側のパンをもぎとると、静かにそっと俯いて食べはじめた。俺はルダの肩にドーーーン! と体当たりする。


「このパン、俺もめっさ食べる!」


「肩いったっっ!

アレキ、どっか行くの?」


「え」


ルダは案外、鋭いな。

実はこれから川のほとりに行って、一人の時間を作ろうと思ってたんだ。


「なんで分かったんだよ、ルダ」


「なんとなく。昔からアレキは、どっか行く時にその革の鞄持ってくだろ?」


「あ……」


そうだった。

キャラメル色の擦り切れた革の鞄。おおきな本が入るほどのサイズで、使いやすいから重宝してる。父さんが使ってた、愛用品だ。


いつの頃からだろう

父さんが消えてからどこか行く時には、必ずこの鞄を持っていくようになった。


ザラついた革の表面は、もうけっこう傷がついてるけど、父さんの匂いが残ってる気がして、安心するんだ。


「ルダは、けっこう人見てんだな」


「そりゃ、それくらい分かるよ〜。昔から見てるもん」


「そっか、だよな」


納得がいく。

俺って自分が思うより、わかりやすく生きてるのかもしれないな。


「アレキ、はいパン」



カノンが、ルダが持っていたパンを、少しだけ千切る。そうして掌にそっと……渡してくれた。サラサラの銀髪を右耳にかけると、やわらかく微笑む。


ーーーーーやっぱ、かわいいなあ。


「ありがとう、カノン」


ちぎったパンを片手に持ちながら、俺はトン……と弾みをつけて地面を蹴った。行き先は、もう決まってる。



「一人になれる場所へ」



ずっと昨日から、泣ける場所を探してた。

本当は、ジュクジュクと滲む傷を抱えて

叫びだしたい衝動を抑えてた。



「どうして、俺じゃなかったんだろう」



どうして俺じゃなくて、ダリウスだったんだろう

思いの深さなら、絶対に負けないのに……!


小さい頃から、決めてたんだ

父さんみたいな反魂使いになるんだって


選ばれる事ばかりを考えて

選ばれない未来なんか

欠片も想像しなかった


……だから、ここにいる俺が認められない!!



「……なんでだよおおおおおおおおおおおおおおおお」


唇の中に、鉄の味が広がる

ここは、川の岸辺。

澄んだエメラルド色の水が反射して、ゆらゆらと俺の瞳を揺らす。


誰も通らない場所だから

だからもう、目一杯泣くんだ……!


俺は……、反魂使いになりたかったーーーーー!!



「大丈夫……」


ふわり

背後からフッ……と、抱きしめられる感覚がした。

波打つような漆黒の髪、俺の背中に彼女のおでこがコトン……と触れる。


「ラウム……?」


「ん……」


「なんで、此処がわかったんだよ」


「さあ、どうしてかしら?」


儚く呟くと、彼女は白く細い腕を回して、俺のお腹でキュッとクロスした。……やめろ、凄くかわいい。


「なんとなく心配で、なんとなく追いかけたの。空から見たらアレキだって、わかりましたもの」


「そっか……」


睫毛を伏せてしばらく、無言の時を想った。


彼女の背中の、やさしい体温とか

心臓がトクトクと脈打つ音とか

今この胸を揺らす、甘い痛みとか


ーーなんか、言葉が紡げなかった。



「アレキがどうして泣いてるのか、わからないけれど

涙を止める薬のかわりに、こうして此処にいますから」


「お、おう……」


ほんと全然、うまく紡げないんだけど。


恋愛経験バリバリ積んだキャリアなら、こういう時どうするんだろうか? ラウムの華奢な指に触れてみたくて、そっと手を重ねようとした刹那、彼女の声が耳に迫った。


「私ね、旅立ちますわ。ドーンゲートに」


「え?」


「約束がありますの」


俺の胴体をくるむように回された腕が、スルリとほどかれた。それがあっけなくて寂しくて、後ろを俺はふり返る。


おおきな漆黒の翼が、ゆっくりと俺を抱くように、まあるく包んだ。ラウムは、女神みたいだ。その紅の瞳をやわらかく細めると、こう言った。




「もう、この世にはない約束を、果たしにいきます」

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり胸に刺さる。。。 邪神は記憶が色褪せていかないのか。。。 ずっとずっと、想っていかないといけないのは、私には耐えられないかな。。。 切ないな。。。 アレキみたいに、父親の…
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