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グリコピロレート公爵令嬢と王女の逃避行

 最近ちょっとお父様のことが嫌いです。いつだって優しくて、私を甘やかしてくれていたのに、ことあのお子様については私がいくら嫌だ嫌だと泣き叫び喚いても問答無用で王城行きの馬車に連れ込むのです。一歩間違えば虐待ですよ! 虐待! こんなに美しくて愛らしくて可愛らしい私をあのお子様の元に連れていこうなどと!! ヴァカか! ヴァカなのか!! 昨日私が何をされたかお父様は目の前でみていたでしょう!? なのに何故! 何故だ!! 何故私を嬉々として連れていくのよおお!


「良かったなあララ。ユウリカ様がまたララに来て欲しいって!」


 ちくしょう娘の安全よりコネか! コネ優先か!

 私は今散々侍女使用人達と格闘したせいで服はぼろぼろ、髪は鳥の巣、顔はこれ以上ないってくらいむくれている。お父様の言うことなんかに耳を傾けてやるものか! 私は怒っている! しかし無情かな、馬車はもう王城へ着こうとしていた。侍女が何とか身なりを調えようと必死だ。そんなことはいいから私を連れてこの馬車から逃避行しようぜ!


「ララ、いい加減機嫌を直しておくれ。帰ったらララが欲しいものをなんでもひとつあげよう」

「もう二度とあのお子様に会わなくていい権利が欲しい」

「ララ」


 お父様が困ったように笑う。そりゃあね、相手は王族だ。忠義を尽くさなければいけない相手だ。この国の貴族である以上王族の命令は絶対で、拒否なんて出来ない。だったら仲良くして優遇してもらったほうがいいに決まっていると、私も分かっている。私は女だから、いずれ公爵家ではなくなる。同じ公爵位か、格下の身分の爵位のもとへお嫁にいくだろう。その時のために、王族というコネクションを持っていれば私は絶対的優位に立てる。引いては私のためなのだ。分かっちゃいる。分かっちゃいるけど! 私は! あんな我が儘・人の話を聞かない・自分勝手娘とお友達になんぞなりたくはないわ! 竜だぞ! 4階から飛び降りるんだぞ! また今日も絶対ろくでもないことをさせられるに違いないんだ。やだ。やだやだおうち帰るー!!!



「ララ! きてくれたのね!」


 私が入室するなり抱きついてきたお子様はそのまま絞め殺さん勢いで力を入れてくるので必死で抵抗した。こいつほんと、力強い!! 何この無駄な力! いらねえだろ!! 後お前が王城に来いって言ったんだからね、そしたら私たち貴族は命令に従うしかないんだからね、お前もうちょっと自分の発言力について理解した方がいいよ。


「ララ、ララ~!」


 ぎゅうと私にくっつくお子様を見てお父様や侍女や王城の使用人や王城の侍女たちが和やか~に微笑む。ふざけんな! 助けろ! 私は内蔵が飛び出す一歩手前だ!


「あのね、ララ! きょーはね、おままごとしよう!」


 お、なんだなんだ今日はちゃんと普通の遊びじゃないの。そうだよ4階から飛び降りたり竜と仲良くなるなんて非常識なことはやめてちゃんとした子どもらしい遊びをしなさいよ。私おままごととか嫌いだから付き合わないけど。


「こっちこっちー!」

「は!? ちょっ、待て!」


 違うおかしいお前どこ向かってる!? どこ向かってるソレまたガラスだよね!? 一面ガラス張りのガラスにまた突っ込もうとしてるよね!? ちょっ、スピード速いっ! 速すぎ! やめ、やめてえええっ


 ガッシャーン!!


 昨日に引き続き本日もガラスを突き破り4階からダイブして木々とやあこんにちはまたお会いしましたね、状態な私です。ふざけろ。横でお子様が「ふーせんだよ、ふーせん!」と無駄に力を入れて言ってくる。何でこの風圧の中お前ははっきり言葉を喋れるんだ。私は顔が痛くて痛くてしゃーない! それもアレか、魔法とやらの力か! 私はそんなもん使えないわ!! しかし魔法を使わなかったら木々は痛いわ地面との熱烈チューが待っていること間違いない。頑張れ私! 素晴らしい私ならきっと使いこなせるに決まっている! 風船だ! 風船なのだ!ふわっと私を受け止めろ風船!!

 結論から言って、私は魔法を使えなかった。地面と激突したおでこが痛い……あ、血出た? そりゃ出るよ、当たり前だよ。すごい痛かったよ……。私があまりの痛さにえぐえぐと泣いている隣でお子様はピンピンしている。今まで認めたくなかった現実が私にありありと突きつけられてくる。つまり、私は凡人だったのだ。ただ前世の記憶を持っていて、公爵家に生まれて、母親が美しかったというだけの。天才というのは、人生勝ち組というのは今私の怪我を必死にハンカチで拭こうとしているこのガキなのだ。ガキの力が強すぎて頭がグラグラする。やめ、やめろ、気持ち悪くなってくるだろ! もうやだ。昨日からいいことなんてない。もう人生やめたい。

 気分が急下降していく私と反対にガキは急に慌て始めた。遠くから誰かの声が聞こえて来たからそのせいだろう。もう地面から一歩も動かない気でいる私を圧倒的力の差で強引に引き剥がすと、ガキは私を背負って走り出した。私とガキは5歳児だ。いくらガキが規格外の麒麟児でも5歳が5歳を背負うなんて無理がある。背中の乗り心地は最悪だった。先ほどまで治療と言うにはおこがましい顔面シェイクを受けていたので限界はすぐ訪れた。ブチ切れていた私は相手が王女様だというのも忘れ、ガキに強烈な頭突きをお見舞いしてやった。──そしてすぐに後悔した。王女はそんなことじゃ止まらなかった。気づいもいないかもしれない。切れてたんだもんね、冷静な判断なんか出来ないよね、うん。と自分を慰め、盛大な頭痛を理由に私は意識を手放した。

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