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グリコピロレート公爵令嬢の黒歴史

 私に自我が生まれたのは母の胎内に居た時。意識がある時は少なく、気付けば心地よい水の中に居たり、やたらと明るい空間に転がされていたり、灯が何一つない暗闇の中であったりした。赤ん坊というのはあまり意識がはっきりしないらしい。目も膜がかかったように見えないし、耳だってよく聞こえない。まあ耳は、ただ日本語じゃなかったというだけなのだが。そんなわけで、私がしっかり意識を保ち、思考できるようになったのは3歳くらいの時だ。それまでは頭もぼんやりとしていた。初めて思ったことは、(あれ、こんなに机って大きかったっけ?)だ。いやいやずっとこんな大きさだったじゃん?あれでももっと小さい机に見覚えあるし……あれ? ってな感じだった。私には前世の記憶が残っていたのだ! この世界とは色んな事が大幅に違う世界だった。常識とか、一般論とかがまず違かった。色んな記憶を思い出していって、私は理解した。この人生、勝った! と。

 思ったのではなく、理解したという表現を用いたことに注目してもらいたい。「理解」の意味を辞書で引いてほしい。『理解りかいとは、物事の理由、原因、意味を正しく知ることである。』Wikipedia様ありがとう。分かった?正しく知ったのだ。この人生は勝ち組である、と。


 鏡を覗きこめば美少女が見返している。前世では持ち得なかった完璧な美貌を、今生の私は持っている! 銀に近いきらきらと輝くように波打つ山鳩色の髪、小顔でぷるぷるつやつや、幼児らしく赤く色づいた頬、利発そうに輝く藍媚茶の透き通るような瞳、長くふっさふさで繊細な睫毛、ぷっくりとぴんくに色づく唇、今はまだちょこんと可愛らしく乗ってる鼻も、母を見る限り成長したらすっと通った鼻筋になることだろう。この世界は髪や瞳が色づいているものは魔族だけだから無彩色で少し味気ないが、どれものパーツが完璧に配置されていてどこからどう見ても美少女だ。この顔だったら一日中ずっと鏡の前に座っていたって飽きることはないだろう。だってこんなにも美しいのだから!

 勿論使用人やお母様、お父様、お兄様も私の美しさにはメロメロで、私にベタ甘だった。笑いかければ、でれーっとした締まりのない笑みが返ってきて、やれ欲しいものはないか? したいことはないか? と目に入れても痛くないと言いそうな程の溺愛っぷりだ。勿論利用しないなんて勿体ない事をするはずがない。美味しいものをたーんと食べ、夜は大きなぬいぐるみに囲まれて眠った。我儘が通らなかったことはない。だって私は公爵家令嬢なんだもの!

 私が自分を勝ち組だと思った所以は容姿だけのことじゃない。父は公爵様、私は公爵令嬢様なのだ。爵位でいえば一番上。王位を退かれた大公や王になる前の王子の次にこの国で偉いことになる。家は超デカイし、別宅だってある。夏は避暑地で過ごすのだ。ドイツとかの城! って感じではないけれど、全体的に四角くて、とにかく馬鹿でかい。塔はなく洋館ちっくな外観なのだが、とにかくばか広いのでやっぱり城だ! ってなる。庭も広いし、綺麗に手入れされているし、敷地内に馬も鶏も犬も牛もいる。使用人だってこんなにいらないんじゃないの? ってぐらいいるし、この他にも別宅を管理している人たちもいるらしい。まさに、まさに人生勝ち組!! これを人生勝ち組と言わずして何を勝ち組というのか! 王様か? お姫様か?否!王様なんて国を運営維持しなければならないのだ。面倒くさいに違いない。平和な国のお金持ち。これが一番の人生勝ち組だと私は思う。この国は魔物の脅威に晒されちゃいるが、それが逆に国全体として一体感を生み、庶民が貴族に刃向かうことはない。貴族の女が軍に駆り出されることなんてありえないし、もう、高笑いが止まらないよね! 楽しくって仕方ないよ! なんだこの人生! チートか! イージーモードか! あっはっは!

 私の前世の話など、全く面白みの欠片もないので割愛させて頂く。平々凡々を絵に描いたような人生で死んだ時すらも呆気なかった。名前くらいはせめて忘れないでおこうと思っているのだけれど、それすらも自信がない。前世に興味なんてないからね。もう、今が楽しすぎて楽しすぎて! あっはっは!


 しかし私のお姫様生活は5歳になった途端、呆気なく崩れ去った。まさか!そんな!ありえない!優しくてすっごくかっこよくて、何より私にベタ甘なお父様が、私にそんな苦難を与えるなんて夢にも思っていなかった。5歳の誕生日のあの日、お父様は言った。


「ララ、王女様とお友達にならないか?」


 まさか娘がいや! などと言うなんて微塵も思っていない笑顔だった。私はプレゼントの大きなぬいぐるみを抱えながら顔を引きつらせる。いやだ! とんでもない! ありえない! 私と同年代の子供の、しかも、私より身分が高いヤツのお守りなんて! 今まで貴族の子供に顔を合わせたことがないわけではないが、総じて子供は嫌いである。自分勝手で我儘で、躾がなっちゃいないがきんちょなど!いくら私の美しさに惚れたからといって、部屋の隅にいた蜘蛛を私にあげようとしてくる子供なんて断じて拒否する! そんな私の我儘も今日まで許されていたのに……なんてこった、相手が王女様じゃあ、拒否権なんてないじゃないか!


「……ララ、おとーさまとおかーさまと、おにーさまたちがいればそれでいーの」

「でもララ、女の子のお友達が欲しくはないかい?」


 いらねーよ! 女友達なんて侍女がいれば充分だ! どうせ私の美貌を妬むに決まってるんだし、将来その対処に追われることを想像すると身の毛がよだつ。大体王女っていうのがまず頂けないんだ。私は自分より偉い人間が嫌いだ! 絶望の表情をしてる私などお構いなしに、お父様はいけしゃあしゃあとのたまった。


「それにね、ララ、ララと王女様はなんと同じ日に生まれて、同じ名前を授かったんだ! これは素晴らしい偶然だと思わないかい? 君たちは絶対仲良くなれるよ!」


 同じ名前をつけたのはお前だろうが! この野郎!! ユウリカという名前なのに、愛称がララな理由はここにある。このお父様は、出産が同時期になるということで同じ名前になるよう画策したのだ。偶然生まれた日が同じになって、もう運命だとか思ったに違いない。かくしてこの国にはユウリカという名前の姫が2人居て、誕生日も同じである。お膳立てはバッチリ過ぎるほどにばっちりだ。明日には王城に連れていかれるのだろう。まだ見ぬ王女様の高笑いが聞こえてきたような気がして、目まいがした。

主人公がナルシスト過ぎてむかつきますか?

奇遇ですね。私もです。

8/21 主人公の容姿の色を変えました。自分で考えた設定忘れて色付きにしてましたすいません。

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