↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリコピロレート公爵令嬢の受難  作者: 新田納豆
グリコピロレート公爵令嬢と傭兵協同組合
PR
15/15

グリコピロレート公爵令嬢と傭兵協同組合1

 アルバ魔法王国には傭兵協同組合というものがある。通商傭協という。魔界と長く隣接しているため王国兵だけでは対処が追い付かない魔物の討伐用に組織された武装集団で、傭協で名を挙げれば王国からスカウトが来るかも知れず、武芸に自信がある他国籍の人間が多く在籍している。魔物の情報は無論王国諜報機関が逐一管理しているが、小物の魔物等は王国を通さず傭協に直接掛け合われることも多い。各地方に一つは窓口がある、街の便利屋さんだ。

 無論、王都に住む貴族であるララ達にはあまり関係のない機関である。




「よーきょーのほんぶにいくわよ!」

「はあ?」


 もうすっかり慣れた王城のユウリカの部屋で、ゴシポールが紅茶を淹れる様を見守りながらララは今日も機嫌悪く返事をした。ゴシポールが驚いたのかポットが危なく揺れる。このゴシポール、紅茶を淹れるのに慣れていないのかかなり手つきが危ない。断言しよう、この紅茶絶対不味い。


「きのうね、かぎいしつできいたの! さいきん、よーきょーが、へんなんだって!」

「あ、ゴシポール私紅茶いらない」

「え、お飲みになられませんか?」

「うん、いらない。ほら、ユウリカ、とりあえず紅茶飲みなよ」

「のむー!」


 その辺を飛び回っていたユウリカをとりあえずソファに座らせてゴシポールお手製の紅茶を飲ませる。ユウリカは味覚も崩壊しているのか特に何も言わず飲み干す。うん、今日もクッキーめっちゃ美味しいわあ。ゴシポールは自分の淹れた紅茶を飲んで眉を顰めた。


「それでねそれでね、ほんぶにね、いこうとおもうの!」

「だって。頑張って、ゴシポール」

「えっ、はっ!?」

「いってらっしゃあーい」


 ひらひらと手を振って自分は行く気がないのを示せばゴシポールが動揺したように声をあげる。私思ったんだよね。せっかくゴシポールっていう従者(イケニエ)が来たんだから、私はもうお役御免かな、って。私は話相手だけで、連れまわされるのはゴシポールの役目かなって。頑張れゴシポールそれ行けゴシポール! お葬式には出てあげるからね!


「城の外ですよ? 許可が下りませんよ」

「ゴシポール、覚えておいて。ユウリカにはそんなこと通用しないのよ。これはもう災厄なの。避けることなんて出来ないの。覚悟して、いってらっしゃい?」


 にっこりとゴシポールに微笑んで手をひらひらと。甘い。甘いよゴシポール。城の中だとか外だとか許可だとかそんなの、関係ないの。ていうかそういう概念、まだ、理解してないから。多分一生理解出来ない気もするよね!

 渋い顔をして舌を出しているユウリカを見つめた。あ、味の良し悪しは分かるらしい。まさかと思うけどこいつ犬みたいな嗅覚してたりしないよね? あり得そうで困る。そんな未来めっちゃ想像出来る。そんな野性児の教育係なんて今存在していないわけで……野性児から人間に進化出来ない! 何考えてるんだ国王!!


「ねえちょっと、ゴシポール」


 ちょいちょいとゴシポールを手招きで呼んで作戦会議を開く。ソファを降りてユウリカの影になるところで屈んで、同じように屈ませたゴシポールの肩を抱く。くそう、チビなせいで全然向こうの肩まで届かないわ。仕方ないので背中を押す。ゴシポールは顔を赤らめて、いつもの三割増し可憐さが増している。喧嘩売ってんのかこいつ。


「ラ、ララ様、なんですか?」


 やたら早口だな。従者ならもっと丁寧に喋れ。


「ユウリカってあの通りの野性児じゃない? なのに教育係が就いてないってどういうことなの? 私、このお城に来るようになってから全然お勉強していないのよね。ユウリカを見てる限り今まで教育されてきたようにも見えないし。一体どういうことなの? ユウリカって第一王女よね?」

「ええと、……ユウリカ姫様の勉強の教育係様方は、辞めた人間が三桁を数えた頃に諦められたと聞き及んでおります」

「あー……」


 この国そんなに良家の淑女居たかしら? もしかしてもしかしなくても、他国から来ていたり何かしていたんじゃないかしら? ……過去の教育係様方に合掌。出来ればもうちょっと頑張って頂きたかった!


「えっ、じゃあどうするの? このままずっとこれで行くの? 私まで教育を受けさせて貰えないってこと?」

「いえ、もう少しお育ちになってから改めて選定が行われる予定だとのことです」

「そう。なるべく早くその時が来ればいいのだけれど」


 切実にな! 何かもう厳格な淑女よりも屈強な戦士の方がいいと思うよ。さすがに世界中を探せばユウリカより強い戦士いるでしょ、無理矢理言うこと聞かせればいいのよ。……いる、よね? 一人くらい……1人くらいは!


「ねえねえ、あなたのとこって、武勲で名をあげた家だったわよね? 男爵様、強いのよね?」

「はい、父上も、母上も、兄上方も、負けなしです」

「……ユウリカなんて、ちょちょいのちょいよね?」


 あ、目泳がせた。


「ええー! ユウリカって、そんなに規格外なの? 確かにぶっ飛んでるけど、まだ子どもなのよ? 経験で幾らでも勝るでしょう!」

「……断言は、出来かねます。ユウリカ姫様におかれましては、さすが王族の方と感服致すところです」


 困る。困るわあー。このままだとユウリカが落ち着くまで教育が始まらない。教育が始まらないということは永遠に猿のままというわけで……、え? いつ文明的暮らしに戻れるの? 教育する人間がいなくて猿から脱出って出来るの?


「なにしてるのー?」

「サキ」


 ソファの裏でごろごろしていたサキがユウリカに飛びかかり、ごろごろと転がっていく。ゴシポールはひくひくと顔を引きつらせそれを見送っている。その顔を掴み、また私の方へ向かせる。ほほほ、お口がたこさんになっていてよ! 間抜けねゴシポール!!


「ふぁふぁふぁふぁぁ」

「ねえゴシポール、傭兵共同組合の仕組みをよく知らないんだけど、騎士より強い人っているの?」

「ふぃふぇ、ふぁふぁふぃふぉふぉふふぃふぃふぁふぇんふぁ」

「何を言ってるのかさっぱり分かんないわゴシポール」


 今度は潰すのではなく引っ張ってみる。うーん、お肌が柔らかいからいくらでも伸びるわあ。餅思い出すわこれ。ゴシポールは捨てられた子犬のような目で私を見てくる。私がそんなのに絆されると思っているのかしら? 甘い…甘いわねゴシポール! こんなものに惑わされる私ではなくってよ! …………なくってよっ!


「私も傭協のことはよく存じ上げませんが、傭協で名を挙げられた方は大抵騎士団に入団している筈です。我が父も昔は傭協に所属していたと聞いたことがあります」

「そう」


 ゴシポールはすりすりと頬を擦っている。何よ、別に痛くなんかしてないんだし、謝らないわよ!


「そもそも傭協では魔族など上位レベルの魔物は取り扱いませんので、騎士団と比べると圧倒的に技術に差があります。ララ様が何の目的で強者を探しているのかは存じ上げませんが、騎士団の方を当たられた方がよろしいかと」

「だって、ユウリカを抑えられる人間は騎士団にはいないでしょう?」

「それは……その、そうですが、」

「私はユウリカに対する抑止力が欲しいの。騎士団にユウリカを抑えられる者が居ない以上、この国にはもうそんな存在は居ないってことよね。じゃあ国外に目を向けるしかないのかしら」


 ふう、と頬杖をついてララは黄昏れた。それがたまらなく切なく見えて、ゴシポールは胸が締め付けられたような心地になる。何せ、見た目は、大変愛らしい幼子が辛そうに遠くを見ているのである。どうにかしてあげたいとゴシポールは頭を悩ませる。ユウリカ王女の特異性は貴族ならば誰もが知るところである。王女に勝てる人間など、きっと世界のどこを探してもいない。アルバ魔法王国は魔領と接地面積が一番広い、人間界で一番平和とは縁遠い国なのだ。実力さえあれば貴族になれる故に腕に覚えがある者がこぞって集まる国だ。人間側の戦力がほとんど集まっていると言っていい。

 ゴシポールの心情としては、ララの望みは何だって叶えてあげたい。しかし、無謀な望み過ぎた。


「ララさゴフゥッ!」

「えっ!? うわっ、ギャアアアア!」


 ゴシポールが伸ばした手がララに届こうかというところ、ずっとサキと転がっていたユウリカが転がり続けたスピードそのままにゴシポールに衝突した。勿論ララも巻き込まれ、その先にはお約束のように一面ガラスの壁がある。ララにとっては最早お約束の、ゴシポールにとっては初めての落下をした。


「結局こうなるんかーーー!」

「うわあああああ!?」

「キャハーーー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。