最後の巨大なピース
野球は、九人でやるスポーツだ。
神様が作ったその絶対的なルールという盤面を前に、十三歳の杉谷拳士は冷徹に手持ちのカードを並べ替えていた。
名門『広島メープルス』の隅に追いやられた「第二チーム」。だが、盤面はまだ完成していない。
ピッチャー:杉谷拳士(両投両打)
キャッチャー:城島健二(天性の捕手)
ファースト:大槻祐太朗(俊足の狂犬)
……そして外野陣。だが、サードとショートが空席だ。どれだけ完璧なシステムを想定しても、プレイヤーが欠けていれば試合は始まらない。
「凡才を数合わせで入れるくらいなら、俺一人でサードもショートも守ってやるわ」
拳士の言葉に冗談はない。だが、世界をバグらせるためには、どうしても「規格外の肉体」が必要だった。
そんな中、拳士の耳に噂が届く。隣の中学に、佐賀から転校してきた二年生・宮﨑がいると。元強豪『佐賀サミー』の主軸。だが、今はなぜか野球を捨て、教室で静かに眠っているという。
「……そいつだ」
翌日の昼休み。拳士は二年生のフロアへ単身乗り込んだ。
教室の最奥、机を繋げて座る大男。中一の拳士が現れただけで、周囲の騒音は消えた。
「おい、佐賀サミーの宮﨑はどいつだ」
顔を上げたのは、熊のような大男だった。分厚い胸板、丸太のような腕。宮﨑は拳士を一瞥し、鼻を鳴らす。
「……中一が何の用や。俺はもう、野球はやめたと。佐賀に置いてきた」
地響きのような声。その瞳には、かつての茂治が抱えていたような「深い拒絶」の色が混ざっていた。
「やめたかどうかは、俺が決める」
拳士は一歩も引かず、宮﨑の机へ歩み寄ると、泥だらけの白球を叩きつけた。
「広島メープルス第二チーム。ポジションはサードだ」
宮﨑の指先が、かすかに震える。拳士は見逃さない。かつての王者の肉体が、白球の感触に飢えていることを。
「……俺はお前と違って、もう傷ついとうなか」
「そうか。だったら、お前のその手で最初に壊すのを、俺のチームの奴らにしろ。遠慮するな」
周囲の二年生が拳士を取り囲む。だが、宮﨑はそれを手で制したまま、白球から目を離さない。
これで、八人目。
残るは最後のピース、ショートのみ。拳士の盤面は、着々と完成へと近づいていた。




