三者三振、制御の証明
四回裏、阿賀メッツの攻撃。
マウンド上の拳士は、右手の指先を一度開いて閉じた。先ほどの黒田への失投。その感触を脳裏から消去し、次の三人だけに集中する。
三番・前田行長。技術のある打者だ。
インコースを警戒する前田に対し、健二のサインは外角へのチェンジアップ。膝元へ沈む軌道に、前田のバットが空を切る。左右を自在に使い分ける拳士の魔術の前に、データは無力化される。最後は左腕の高速スライダーで直角に消し、空振り三振。
続く四番・黒田大樹。
スタジアムの空気が一瞬で凍りついた。先ほどスタンド中段まで運ばれた一撃。その恐怖を誰もが覚えていた。
拳士は左腕でセットポジションに入る。今度はインコースへのシュートを、一切の迷いなく放った。
指先は震えない。完璧に縫い目を捉えたボールが、黒田の懐へ食い込む。黒田が詰まり、ファールチップを放つ。
二球目、右腕のチェンジアップ。体勢を崩した黒田が空を切る。
ツーストライク。健二のサインは、左腕の高速スライダー。
拳士は深く息を吸い、指先で白球を引き裂くように押し潰した。
──ビシィィィィン!!!
黒田のバットが、直角に消えた白球の残像を捉えることすらできずに空を切った。
黒田はバットを肩に担ぎ、ベンチへ戻る際、一度だけ拳士を振り返った。その瞳に宿っていたのは、次打席への冷徹な「修正」の意思。言葉はなくとも、それが勝利への飢えであることを拳士は理解した。
五番・田中は「消耗」を狙う粘着質な打者だった。ファールで球数を稼ぐ田中に対し、拳士は動じない。五球目、源田が守るショートへ打球を飛ばさせ、難なくアウトを奪う。
マウンドを降りる拳士の右指先は、もう狂っていない。
ベンチで石井が声を張り上げる。「ナイスピッチング! 次は俺たちが取り返す!!」
0対1。
スタンドでは深尾まきが静かに立ち上がり、グラウンドを見渡していた。拳士の、そしてチームの「完璧な制御」が始まった。




