二回戦、阿賀の壁
試合が始まった。阿賀メッツの先発・野村佑作は、制球力を武器に打たせて取る職人型の投手だった。
一回の表、本川中の攻撃。拳士、健二、宮﨑が打席に立つが、野村の完璧なコントロールの前に沈黙する。
続く一回の裏。拳士がマウンドに上がる。
一番打者の揺さぶりを冷静に処理し、二番、三番を左右の投げ分けで翻弄。三者連続三振という、拳士なりの「威嚇」を見せつける。
ベンチに戻った拳士の顔は晴れない。
「どうした」
「四番と五番を見ていない。データがないのは危険だ」
二回の表、メープルスの攻撃。
先頭の大槻がバントで揺さぶるが、野村のフィールディングは迅速で、アウトを奪われる。その後、石井の出塁、佐野のヒットでチャンスを作るも、八番高木の併殺打で得点には至らない。
二回の裏。四番のファースト、黒田大樹が打席へ入る。
圧倒的な体格。構えの重さ。拳士は瞬時に察する。
(こいつは、力で来る。ミコライオの系譜だ)
健二のサインでインコースを突くが、黒田はそれを真っ向からライト線へライナーで弾き返した。
──ドンッ!!
誰もが長打を確信した。だが、そこに「影」があった。
打球音を聴いた瞬間に一歩目を切っていた佐野賢也だ。フェンスギリギリの飛球を、佐野のグラブが迷いなく包み込む。
「アウト!!」
静まり返る球場。拳士はマウンドから佐野の方向を見る。
(やっぱり、お前の耳はゾーンの中にある)
三回終了、0対0。
制球型の野村と、異能の杉谷。二人のエースが静かに睨み合う中、グラウンドの空気が煮詰まっていく。
ベンチの拳士は、脳内でラインナップを再構築する。
(野村は脆い。だが四番・黒田のパワーは、小細工では封じられない)
隣で健二がスコアブックを開く。
「拳士、四番を抑えるより、先にチームのリズムを作ろう。黒田は捨て球で様子を見る」
拳士は隣の幼馴染を横目で見る。
「お前、いつからそんなに冷静になった」
「ずっとだよ。拳士が前を向いて燃えてる分、後ろを埋めるのが僕の仕事だから」
拳士は黙り、白球の縫い目を押し潰した。
スタンドのまきが弁当箱を開ける。試合はまだ、序盤の均衡を保っている。




