表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杉谷拳士物語  作者: 水前寺鯉太郎
中学生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/56

見えない目で、白球を聴く

 試合が終わった夜、ライジングスタジアムのサブグラウンドに、一人残る少年がいた。

 ライトの定位置に立つ、佐野賢也。彼は目を細め、夜風の中に何かを聴くように顔を傾けていた。

 佐野は、生まれつき光を知らなかった。

 「危ないから」「無理だから」。周囲の好意に包まれるたび、佐野の世界は狭まっていった。彼にとって、世界は「目」ではなく「音」で描かれる場所だ。人の足音で人物を特定し、風の音で天候を読み、打球の音で軌道を悟る。

 彼にとって、音は色だった。

 メープルスの練習初日、郭コーチは言った。

「佐野、打球の音を聴け。当たった瞬間、何が聴こえる」

「音の質……鋭ければライナー、くぐもっていればフライ」

「それだけ聴こえれば、守れる」

 翌朝。拳士は一人、ライトの定位置に立つ佐野の横へ歩み寄った。

「お前に一つ聞く。昨日の九回、進藤のライト前。捕球する前に、なぜ一歩目を切った」

 佐野は顔を向けた。

「聴こえたんだ。バットの音の角度……少しだけスライスがかかる音だったから、ライトに落ちるとわかった」

 拳士は黙り込み、白球を佐野の胸元へ投げた。佐野は音を聴き、迷いなくその白球を捕球する。

「お前の耳は、ゾーンの中にある。ずっとだ」

 拳士はそれだけ言い捨て、マウンドへ戻った。

 佐野の手の中で、白球が震えている。怒りでも悲しみでもない。自分の「欠陥」だと信じていたものが、初めて誰かに「武器」と呼ばれたことへの震えだった。

 スタンドの入口で、深尾まきがその光景を見守っていた。弁当箱を抱え、彼女は静かに深く息を吐く。

 怪物たちは、拳士というシステムの枠を突き抜け、それぞれの武器を研ぎ澄ませ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ