完成、魔球の縫い目
延長十回。ライジングスタジアムのサブグラウンドに夜風が吹き込む。
百二十球を超えた拳士の腕は限界に近い。左肘には熱が籠もり、右肩の可動域は狭まっている。だが、マウンドの拳士から気配は消えなかった。
「……投げられる。それだけだ」
拳士は健二の問いを短く切り捨てた。健二は黙り、グラブの中で指を組み直す。二人の間に言葉は要らない。
四番・星野凛子が代打で立つ。
拳士は左腕でセットポジションに入る。縫い目に指を深くかけ、手首を立て、リリースの瞬間だけ白球を「引き裂く」。
──ビシィィィィン!!!
手元で直角に消えるスライダー。星野のバットが空を切る。
郭コーチと衣笠総監督が、無言で頷く。健二のミットには、空気を引き裂いた縫い目の傷が刻まれていた。
(来た。ようやく来た)
二球目。拳士は右腕を選択した。右からの高速スライダー。左とは逆方向に曲がるその球は、星野の読みを完全に砕く。
三球目、再び左。直角に折れ曲がる魔球が、三度星野のバットを空転させた。
「ストライク、バッターアウト!!」
星野は打席で一瞬、目を閉じた。データにも数値にもない、指先から生まれた魔術がその網膜に焼き付いている。
その後、拳士はヴァイオレットマリーンズの打線を三者凡退に退けた。
マウンドを降りる拳士の視界に、スタンドのまきと、隣に置かれた父・茂治の古びた防具袋が映る。
拳士は振り返らない。
5対5。死闘は、最終決戦の第十一回へ。




