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杉谷拳士物語  作者: 水前寺鯉太郎
中学生編

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18/56

佐賀の大砲、解き放たれる

 宮﨑の世界から、余分なものがすべて剥がれ落ちた。

 コツン、コツン、コツン。

 バットが呼吸するように揺れる。意識的な動作ではない。佐賀のグラウンドで、極限の集中に入る直前にいつも繰り返した、魂のリズム。

(来い)

 一死一二塁。百十球を超えた星野の球は、わずかにコースが甘くなっていた。

 三球目、外角へのスライダー。ほんの十センチの狂い。

 宮﨑のバットが止まった瞬間に、爆発した。

 ──ドゴォォォォン!!!!

 グラウンドに轟いたのは、重く、恐ろしい地響きだった。

 白球は夜空を突き破り、バックスクリーンを越え、スタジアムの外壁すらも越えて消えた。場外弾。

「……佐賀に、置いてきたつもりだったんだがな」

 宮﨑は誰にも聞こえない声で呟き、淡々とホームベースを踏んだ。5対5。

 マウンドの星野は動かない。手にしたペンは、スコアブックの上で止まったままだった。

(データにない。計算の外側にある……純粋な暴力だ)

 星野の両目に、初めて熱いものが込み上げる。それは怒りでも悔しさでもなく、自分というシステムが完全に破壊されたことへの「畏怖」だった。

 ヴァイオレットマリーンズの監督がマウンドへ向かう。

「凛子、ここまでだ。よく投げた」

 星野は一度だけ深く頷き、マウンドを降りた。

 その背中を、拳士たちは黙って見送った。勝利への歓喜よりも、この戦いそのものに対する重たい敬意が、ベンチを支配していた。

 スタンドでは、まきが胸の前で両手を重ね、静かに祈りを捧げている。

 5対5。同点。

 試合は、運命の最終回へ。

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