紫の闘将、燃え尽きるまで
星野凛子は、スコアブックに刻まれたデータと、限界を迎える肉体の間で揺れていた。
一死一三塁。3対5。二点差。
次なる打者は、ホームランを放っている宮﨑俊平。
拳士はホームを踏みながら、星野を注視した。肩の上下、指先の微妙な震え。だが、彼女の瞳には依然として冷酷なまでの闘志が宿っている。
(……まだ折れていない。当然か。あんたもまた、野球というカードを愛するバケモノだ)
ヴァイオレットマリーンズのベンチから監督が立ち上がる。投球数は百十球を超え、交代を告げようとしたその時だった。
「まだです」
星野が静かに、しかし毅然と言い放つ。振り返りもしない。マウンドという聖域を、誰にも渡さないという無言の意志。
「凛子、もう限界だ。球が浮いているぞ」
「まだ投げられます」
監督は立ち止まった。星野の声に震えはない。
バックネット裏で、郭コーチが目を細めた。
「あの娘……プロの業を持っとる」
星野凛子の心は、データという枷を外した。計算ではない。自分の全精力を、この一打席にぶつけるという純粋な意志。それは、拳士たちが追い求めていた「システムを超越する本能」そのものだった。
星野が、宮﨑と正面から向き合う。
宮﨑もまた、バットを静かに構えた。彼もまた、感じ取っていた。目の前の投手が、さっきまでの「解析機械」から、一人の「投手」へと脱皮したことを。
「……面白い。俺も、全力で壊してやる」
宮﨑の言葉に呼応するように、拳士たちがベンチから立ち上がる。
スコアは3対5。
紫の闘将と、広島の暴れん坊たち。
勝利のための計算が尽きた場所で、最後に残るのは、どちらの魂がより深く泥をすすれるかという、古風で、残酷な勝負だけだった




