火の玉、夜明け前に燃ゆ
星野凛子という投手は、炎のように燃えていた。
だが、それは荒々しい山火事ではない。密閉された空間で、静かに、確実に周囲を焼き尽くしていく冷酷な炎だ。
四回表、メープルスは星野の精密な守備シフトの前に沈黙していた。星野は配球と守備を完全に連動させ、打たせたい場所へ打球を誘導している。それは中学生の野球ではない。
0対3のまま、五回裏。
先頭打者を出し、二死までこぎつけたものの、前田の二塁打で二者が生還。0対5と突き放される。
ベンチの雰囲気が沈む中、宮﨑だけが腕を組み、微動だにしなかった。
「……ようやく、出番か」
六回表。宮﨑俊平が打席に立つ。星野はこれまで通りの配球で、詰まらせるか泳がせるかの二択で宮﨑を封じてきた。
星野が振りかぶる。一球目、インコースのシュート。宮﨑のバットは、これまでとは違う軌道で動いた。詰まるはずのインコースへ、踏み込んだ右足が深く入り込む。
──ドゴォォォォン!!!
地響きのような打球音が轟く。白球は星野の頭上を遥かに超え、バックスクリーンの左隅へ突き刺さった。
「お前のリズムは、もう割れた」
1対5。亀裂が入った。
ベンチの拳士は、宮﨑の言葉を聞きながら、脳内の回路を組み直す。
(あいつは「データで封じる」投手だ。なら、こっちがデータの外側へ出ればいい)
視線を上げると、星野は感情を乱すことなく、淡々とスコアブックに記録を書き込んでいた。宮﨑のホームランを、次の一手を考えるための「新しいデータ」として咀嚼しているのだ。
(面白い。完璧なデータを持った投手が、論理の外側にいる打者と出会ったとき、どうする)
拳士の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。
スタンドでは、まきが弁当箱の蓋をそっと開けた。
試合は、まだ終わっていない。ここからが「バグ」の真骨頂だ。




