表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杉谷拳士物語  作者: 水前寺鯉太郎
中学生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/56

星野凛子の宣戦布告

 公式戦の朝は、不思議なほど静かだった。

 スタンドの片隅で、深尾まきは膝の上に弁当箱を抱え、マウンドの拳士を静かに見守っている。隣には、茂治が遺した古い防具袋。何も言わず、ただそこにある。

 対戦相手は、女子チーム『広島ヴァイオレットマリーンズ』。

「……女子チームか」

 宮﨑が拍子抜けしたように呟くが、隣の源田は短く言い放った。

「なめんなよ、宮﨑」

 先発投手・星野凛子。長身で、しなやかな投手体型。ウォームアップの風切り音が、鋭くスタジアムに響く。拳士は冷酷にその動きを観察した。

(腕の振り出しは遅い。だがリリースポイントが低い。打者からは……見えにくい)

 プレイボール。

 拳士の放つ左右の剛球に対し、ヴァイオレットマリーンズは沈着冷静に対処する。三回表、分析は完了していた。二番・榊が外角スライダーを弾き返し、三番が四球を選ぶ。

 ノーアウト一塁二塁。四番・星野凛子が左打席に入る。

 同い年とは思えない、冷静で研ぎ澄まされた目。おびえも敬意もない。ただ純粋に、拳士というシステムの「構造」を解析しようとする機械のような視線。

「インコース、右腕のシュート」

 拳士が投げ込む。だが、星野のバットは軌道を完璧に読んでいた。踏み込んだ右足が、インコースの球に対して一歩前に出る。詰まらせるはずのシュートが、星野の手首の返しで三遊間を鋭く破った。

 0対2。先制を許す。

「……チッ」

 拳士はマウンドの土を踏みつける。マウンドへ歩み寄った健二が、メガネの奥で瞳を細めた。

「拳士、あの子──星野、ただものじゃない。左右の投げ分けに対する準備が、最初の打席から全部できてた。インコースのシュートを逆方向に打ち返す技術、中学生のものじゃないよ」

「分かってる」

 拳士はグラブの中で指を組み直す。ベンチ前で、星野は淡々とスコアブックに書き込んでいた。

(俺のすべてを、データにしてやがる……。面白い)

 拳士の口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。

 世界のルールをハックする者と、その構造を解読する者。最高の「解析者」を前にして、実験はここからが本番だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ