表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<冬の章>
27/30

東雲朔夜③



 図書館の出入り口の近くにある、レンガ造りの花壇。そこに腰かけて猫柳はぼんやりと中空を見つめていた。ひらりひらりと舞う雪の冷たさも、今はあまり感じない。ただ、鼻先に当たった雪が解けたときに、冷たい、とは思ったけれど。

 そんな猫柳を、人影が覆った。ふと見上げると武藤が立っている。どこか困った表情をして。……いや、困らせているのはきっと自分だ。

 すっと立ち上がり、武藤の横をすり抜けて去ろうとしたその背に、声がかかった。


「………東雲、朔夜。」


 思わず立ち止まる。それが答えとなってしまった。

「やっぱり、本当は知っているんだな、猫柳」

「い、いやぁ……ちょっと心当たりないかなぁ……」

「誤魔化さなくていい。もう俺は分かっている」

「え…?」

 振り向くと、真っ直ぐに射貫くような視線で武藤がこっちを見ている。今の言葉はどういう意味だろうか。言葉通りに受け取るなら……バレている、ということ。

「……どうして、気づいたの」

「ぽんずの小説を読めば分かる。どれだけ長いこと、お前の小説を繰り返し読んできたと思っているんだ」

「それって…」

「東雲朔夜でも、ぽんずでも、ペンネームに大した意味はない。歴史の長い、コアなファンなんだぞ、俺は。なにせ中学二年の時からだからな」

 腕組みをして、武藤は少し得意げに胸を張った。

「ははっ……中学二年て……俺が書いたやつ、最初っから読んでたんだ…」

「そうだな。初めてお前の…東雲朔夜の小説に触れたときから、ずっとその作品に描かれている感情が好きだった」

「……そんな理由で?」

「普通、フィクションに作者の意図が入ることがあっても、感情は入らない。正直に言うと、小説としては下手な部類だ」

「うぐっ…」

「……だが、お前の作品に見え隠れしていた、お前の感情……悪くなかった。他にそんな作品は読んだ覚えがなくてな、これがお前の『作風』っていうやつだったのかな」

 少し顔を俯かせて足元の砂を蹴りながら、武藤が静かに話す。そうして、次に顔を上げた時、武藤は東雲朔夜の小説を撫でていた時と同じ、『愛おしいもの』を見る目をしていた。


「俺が愛していたのは、初めからお前だったんだな。………猫柳。」


 あまりにも衝撃大きすぎて、猫柳の口は何かを言おうと開けたり、でも言えずに閉じたり、それだけを繰り返していた。何をどう伝えればいいのか分からないのだ。

 ただ、とくん、とくんと心臓は主張している。お前のことだぞ、と。今お前は、武藤の心からの言葉を受け取ったんだぞ、と。


(……つまり、俺が武藤くんに惚れる前から、武藤くんはずっと……?)


 やはり言葉にならない。ずるずるとその場にしゃがみ込んで、猫柳は頭を抱えた。

「ダメ。頭がパンクしそう」

「俺はそんなに難しいことを言ったか?」

「言ってない。言ってないけど……もう、ずるいなぁ……」

 顔が熱い。こんなのを武藤に見せたくなくて、しゃがんだ膝に顔を押し付けた。嬉しい。心がこんなに喜んでいる。でも、その表し方が分からない。ずっと猫を被ってきたからか、笑うのが正解なのか泣くのが正解なのかすら判断が付かないのだ。

「どうしよう……俺、武藤くんを逃がしてあげられなくなっちゃう」

「別に逃げたいと思ったことは無いが……」

 ザッと地面を擦る靴の音がして、猫柳がちら、と視線だけで見上げる。穏やかな顔をした武藤が、しゃんと立て、とでも言うように手を差し出している。

「フィールドワークは全力で逃げるぞ」

「…あははっ、武藤くんがそう言うなら、」

 武藤の手に掴まり、猫柳は勢いをつけて立ち上がった。


「全力で捕まえる。」


 顔を近づけ、にんまりと笑う。次のフィールドワークも絶対に連れ出してやる。あっはっはと笑いながら、武藤に正面から抱きついた。

「何度も言うが、俺は法学部だ」

「そんなの知ってるよ。でも、そんなの別に関係ないよね?」

「あるに決まってるだろ、馬鹿猫!!」

 ばしんと強く背中を叩かれて、猫柳は武藤を解放すると痛そうに背中をさすった。

「武藤くん、容赦ない…。惚れた相手にする仕打ち?」

「”そんなの別に関係ないよね”」

「棒読みやめて!!」

「ふっ……ははっ」

 穏やかに、でも我慢できなかったように武藤が笑う。こんなにも猫柳の感情が分かりやすかったなんて、今さら気づくなんて、本当にどうかしている。

「帰ろうか、民俗猫」

「何それちょっと新しいね!?」

 そして、それでも変わらない関係に、武藤は心から感謝した。


次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ