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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<冬の章>
25/30

東雲朔夜①



(うーん……?)


 年も明け、冬休みも終わり、大学の日常が戻った頃。猫柳は部室でスマホを見ながら首を傾げていた。スマホの画面はLINEで、相手は武藤なのだが。


【今どこにいる?】


 この文面に対して返事が来ないのだ。既読にはなっているので、メッセージは見ているはずなのに。確かに即レスは無いことが多い。しかしそういう時は既読もつかないので、納得はできた。

 今までこんなことは無かった。見たなら返事をくれる、律儀な奴だから。

「うーん……」

 しかも、これが初めてではない。冬休み明け直後ぐらいからこの状態が続いている。

「冬休みの間に何かあったわけじゃないと思うんだけどなぁ…。一緒に初詣も行ったしなぁ……俺、なんかしたっけ…」

 悩んでいても仕方がない。猫柳は持ち前の前向きさで、どこかにいるはずの武藤を探してみようと決めた。





【すまん、遅くなった。今家だ】


 学生棟や学内のカフェ、食堂、法学部の教室も、場違い感を味わいながら探したが、そのどこにも武藤はいない。まだ時間は17時だが、1月の空はもう真っ暗だ。

 そんな中、猫柳のスマホが通知音を鳴らし、見てみると武藤だった。こっちのメッセージは確認してたくせに、今頃返事が来た。しかも自宅ときたか。


『探してたのに!』

【何か用があったのか?】

『用がなきゃ探しちゃダメなの?』

【普通は探さないんじゃないか?】


 武藤のメッセージに、猫柳が数度瞬きをする。確かにそうだ。そういえばそうだ。


『今日は武藤くんちで夕飯食べていい?』

【いいぞ】

『じゃあ総菜買っていく』

【了解】


 そうしてスマホの画面を落とすと、猫柳はさっきの武藤とのやり取りを思い出し、もう一度「確かに…」と呟いた。

 自分はあの時、武藤に居場所を聞いて、教えてもらってたらどうしていたのだろう。たぶん、その場所に行くはずだ。行ってどうする?別に何もしない。武藤が何かしていたら、それを邪魔するつもりもない。ただ目の見えるところに、手が届くところに、いてほしかっただけ。

「うわぁ………俺、重症じゃん…」

 思わずしゃがみ込んで呟く猫柳のすぐ傍を、数人の生徒が不思議そうに見ながら通り過ぎて行った。





 武藤は『それ』を見た時、しなしなに萎れたほうれん草かな?と思った。インターホンが鳴ったので開けてやれば、よく分からないがそんな感じの猫柳がいたのだ。

「やっほー武藤くん、来たよー」

「……どうした、猫。腹でも壊したのか?……もしかして俺に居場所を聞いてきてたのは、ヘルプ要請だったのか!?」

「違う!違います!!そんなカッコ悪いことで武藤くん呼んだりしないよ!!」

「もう、格好悪い部分なんて、十二分に見てきてると思うんだが…」

 訝しげに眉を顰めて言う武藤に、だいじょぶだいじょぶ、と言いながら武藤の横をすり抜けて、当たり前のように中へと上がっていく。

「お惣菜買ってきたよ~。今日はアジフライ」

「いいな」

 ガサガサとレジ袋の中身を出しながら言う猫柳に、武藤が少し表情を明るくさせて室内に戻る。猫柳の到着を待っていたから腹ペコなのだ。

 また総菜を温めようとレンジを開けて、そうだ、と思い出した猫柳は武藤に告げた。


「武藤くん、レンチンが終わるまで冷蔵庫に近づかないでね」


 そしたらリビングの方からクッションが飛んできた。上手くキャッチして猫柳は笑う。


 さて、今の自分は上手く笑えているだろうか?





「あのさ、武藤くん」

「なんだ?」

 二人で夕飯をつつきながら、何気なく猫柳は聞いてみた。

「今日さ、大学来てた?」

「? 普通に来てたが?」

「忙しかった?」

「いや、別に…いつも通りだったが…」

「ふぅん…?」

 武藤の答えに猫柳が首を傾げる。だったらやっぱり武藤のLINEの件は引っかかる。あまりにも、武藤らしくない。

「あのさぁ」

「ん?」

「ねー武藤くん、いい加減、合鍵くんない?」

「………いいぞ」

「はぇえ!?ちょ、ちょっと待って武藤くん!冗談!いつもの冗談だよ!?」

「ああ、冗談か。それならいい」

 合鍵を取りに行こうと立ち上がりかけた武藤を、猫柳は慌てて抑える。ここは普段なら「断る。」一択のはずなのに。


(……武藤くんがおかしい……!!)


 猫柳には何が何だか分からないが、少なくともそれだけは理解した。






 翌日、大したことではないが用があって、猫柳は武藤にLINEを送った。


『武藤くん、ちょっと相談あるんだけど、どこにいるかな』


 正直に言えば、今すぐでなくても良い、必修科目で分からなかった部分を教えてもらおうと思っただけだった。用事があると返事があれば、別日でも構わないような、その程度のことである。

 だが、何となく待つだけというのも落ち着かないので、返事を待ちながら猫柳は大学内を、あちこち探し歩いてみた。しかしやはり見つからない。

 確かに大学は広い。だからこそ、ある程度行動範囲は絞れると思って、いそうなところを見て回ったのだが。

「いないなぁ……」

 そう呟きながら、そういえばLINEはどうなったかなと確認する。通知音は鳴ってなかったので返事はきていないだろうと思い、画面を開いて猫柳は絶句した。

 既読になっている。しかし返信がない。『相談がある』と書いたにも関わらず、だ。また既読無視かよ、と少しイラっとしたが、だからといって『返事くれ』なんて追撃で送るのは格好がつかない。

 そうしてまた日が暮れて、帰ろうかなと思った頃にLINEの通知音が鳴った。


【バイト中だ】


 武藤だ。今頃返事がきた。しかもバイト中などと書いているが、この時間帯なら夜番だろう。一体、昼間はどこにいたというのか。


【すまん、相談は急ぎか?】

『いや、明日でもいいよん。バイト頑張れ!』

【ありがとう】


 昨日のように武藤の家に行くことも考えたが、猫柳は今日は自分の家へとまっすぐ帰ることにした。


次回へ続く!!

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