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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<冬の章>
24/30

二冊目の文芸誌②

 勝手に入っていいとは言われたが、そう言われると逆にちゃんとしたくなる。俗にいう『公明の罠』的な感じで、あとから武藤にガミガミ言われるのが嫌だから。

 しかし、インターホンを押してもやはり反応はなく、試しにドアノブを捻ってみたが、ちゃんと施錠はされている。ならば武藤に言われたとおり、ポストに入れておくと言われていた鍵を取ろうとして、……猫柳はヘナヘナとしゃがみ込んだ。

「……本当に、防犯って言葉……武藤くんの辞書にあるのかなぁ……」

 玄関横の郵便受けの取り出し口は、一応錠前で鍵ができるようになっている。ちらりと隣の家を見ると、ちゃんと南京錠がつけられている。なのに、この家にはない。せめてダイヤル錠でも付いていれば、LINEで番号を教えてと訊けるのに。その必要すらない。

そっとポストを開けてみると、中のチラシは全て取り除かれて、家の鍵だけ無造作に入れられていた。

「だから……防犯って……」

 いっそ昔ながらの『植木鉢の下』とかの方がマシだったかもしれない。そんなことを考えつつ、猫柳は鍵を取ると鍵を開けて部屋の中へと入っていったのだった。




 すっかり日も暮れているというのに、リビングは電気もつけられておらず、真っ暗闇だった。リビングの横にある、武藤の部屋を仕切っている襖の隙間からは明かりが漏れているので、武藤はちゃんと居るのだろう。

 まずはリビングの電気をつけて、猫柳は部屋を見回した。本当に武藤はずっと自室に籠っているらしい。

 買ってきた総菜をテーブルに置き、猫柳は部屋の暖房を入れるとキッチンに向かう。米を研ぎ、炊飯器にセットして炊飯ボタンを押した。二人分の茶碗(猫柳が自分の分を勝手に持ち込んだ)を出し、あとは炊飯器と武藤を待つだけになる。手持ち無沙汰になった猫柳は、ソファにゴロリと横になってテレビをつけ、適当にザッピングした。


(……やっぱり、二人なら一緒におかず、つつきたいもんねぇ……)


 どれでもいいやとバラエティ番組にすると、猫柳はソファに転がりながらぼんやりとテレビを見つめていた。

 コンビニ弁当でと言われたが、どうせ二人とも食べるなら総菜の方がいい。最近になって気づいたことだが、炊き立てご飯を一緒に食べるのはとてもいい。その相手が武藤なのが、こんなにも嬉しい。ご飯の準備が面倒なら、自分がすればいいだろう。そう考えて、猫柳はコンビニをやめてスーパーに寄った。

 無難に鶏のから揚げの大パックと、葉物野菜のサラダ。足りない分は白飯で補えばいい。その程度ではあるが、それでも武藤と食う飯は、なぜか美味いのだ。

 その理由にはもう、気づいている。




 バイト帰りの疲れでうとうとしかかっていた時、すっと襖が開く気配を感じて猫柳は身を起こした。

「あ、天岩戸がようやく開いたね」

「………猫…?」

「言われたとおりに鍵で勝手に入らせてもらっちゃったよ」

「ああ、そういえばそんなことも言ったか」

「ちょっと!自分で言ったこと忘れないでよ!!」

 まったくもう、などとブツブツ言いながら、猫柳はキッチンでから揚げを皿に盛りつけると、レンジに放り込む。炊飯器はすっかり保温でスタンバイ状態だ。

「コンビニ弁当でいいって言っただろ…」

「いいじゃん。ご飯も俺が炊いたし、準備は全部こっちでやったよ。面倒なら後片付けもちゃんとして行きますぅ~」

「それならいい」

「いいんだ!?」

 武藤もキッチンに行き、コップを出してくると冷蔵庫からお茶を取り出す。そのタイミングでレンジがチンと音を鳴らした。冷蔵庫の上にあるレンジに手を伸ばそうと、猫柳は武藤のすぐ後ろに立つ。

「あ、今立たないで。ちょっとごめんよ」

「………ッ」

 背中に猫柳の気配を感じて、武藤の呼吸が一瞬止まる。

「あちち、うわ、皿あっつい!!」

 危なっかしく指先で皿を持ちながら、猫柳がリビングのテーブルへとそれを運ぶ。気配がなくなったことで、ふぅと1度大きく息をついてから冷蔵庫を閉めて立ち上がり、……開いてたレンジのドアで思い切り頭を打って、武藤は頭を押さえながら、その場に蹲った。

「ちょ、今すっごい音したけど…って、あ!レンジ!!」

「………こ、の…ッ、馬鹿猫が!!」

 お茶のポットとコップを放り出し、もう嫌だ、この猫…などと思いながら、武藤はその場に倒れ伏した。

 一瞬でも緊張してしまった自分が馬鹿馬鹿しい。そもそも猫柳の距離感は最初からバグっていたのを、武藤は完全に忘れていたのだ。

「え、うそ、倒れるほど!?レンジは無事!?」

「……いい、その手の冗談はもう弟たちでされ慣れてる…。変に和ませようとしなくていい。……それより謝れ猫畜生が…」

「ごご、ごめん!!頭冷やすものいる?タオル濡らしてこようか?」

「いいからレンジ閉めろ、馬鹿…」

「はいッ!!」

 武藤のいつになく低い声音に、猫柳はピョンと跳ねるように立ち上がって、レンジのドアをバタンと閉めたのだった。


次回へ続く!!

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