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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<夏の章>
14/30

駄猫とレポート③




 一、後年、元服の儀に至りては、定めたる順序に依りて鏡の裏の名を剥ぎ取るべし。正しく其の紙を手に収むれば、影は再び身へと還り、生涯を安寧に過ごすを得る。

然れど、もし此の手順を誤り、或いは鏡の中の影と眼を合わせたる時は、名も姿も永久に鏡の裡へと呑まれ、現し身はただの空殻うつせがいと成り果つるもの也。故に、決して——



「……ん?」

「どうしたの武藤くん。決しての後は?」

「それが……掠れてて判読がつかない。この先はほぼ掠れてたり、墨で上塗りされている」

「えっ、なにそれ怖ッ」

「この部分は写真を印刷して貼り付けておけ。もうあと数行だったんだが…なんだか見せてはいけない部分を隠している気もする」

「だから怖いこと言わないでよ~」

「……なぁ、猫」

「なに?」

「この古文書にはこれ以上踏み込まない方が良さそうだ。まとめをそういう感じにして締めておけ」

 冊子を閉じると、疲れた目を解しながら武藤がそう言った。一応全てのページを写真に収めているのでそれはできるが、なんだかモヤモヤしたものが猫柳の中で収まらない。

「村長さんに聞いても……分からないんだろうなぁ」

「案外知ってるかもしれないぞ。知っていて、隠している可能性もある」

「どうして武藤くんはそう怖いこと言うのかなぁ!?」

「可能性の一つとして提示しているだけだ。俺の言葉を聞いた上で、どうするのかはお前が決めればいい」

「………うん。武藤くんの言う通りにした方が賢明かもしれない。これ以上突っ込んで調べろって言われたら、今度はグループ全員で行ってくるよ」

「その方が良いな。ちなみに……この古文書だが」

「うん?」

 武藤は座っているすぐ横に冊子を置いて、椅子に座っている猫柳を見上げた。

「レポートが終わったらちゃんと返しに行くんだろうな?」

「もちろんだよ!!」

「……信用できないな。こればっかりは俺も一緒に行く」

「えっ?」

「きちんと礼をして、元あった場所に返すまで、俺が見張る」

「………うん。」

 武藤の言葉に、猫柳は頷いた。ちょっと信用が足りてないのが悔しくあるけれども。もう一度自分と出かけてくれるということなのだから。

 少し跳ねている鼓動を感じて、猫柳は首を傾げた。なんだろう…嬉しいのか、楽しみなのか。

「じゃあ、レポートを出して……週末、時間ある?」

「そうだな…日を教えてくれれば、前日夜番で入って次の日は朝から動けるようにしておこう」

「あー…バイトか…。ごめんね、忙しいだろうに」

「そういえば、お前はバイトはしていないのか?」

「してないことはないけど…いわゆるスキマ時間にちょこっとやれる、アレだよ」

「ちっ、高等遊民が」

「舌打ち!?しかも高等遊民とか!!違うって、もう!!」

 そんなことを言ってはいるが、どうせ全部仕送りで賄って、遊ぶ金だけ短いバイトで稼いでいるのだろう。

「なんか腹が立ってきた。蹴る」

「ちょ、ちょっと武藤くん?やめよう!?」

 がすがすと椅子の足を蹴る武藤に、猫柳が驚いて声を上げる。なんだか拗ねているような表情をしていて、ふっと猫柳が嬉しそうに笑った。

「あはは、遊ぶ金なのは確かにそうだけど、こういうバイトの方が時間を作りやすいんだよ。今はいいけど、二回生とか進級っていうのかな?そうしたら、フィールドワークに使う時間が増えてくるから。例えば…夏休みに一週間かけて、とか」

「………は?」

「だから、その時もまたレポート手伝ってね」

「ふざけるなよ、お前…」

「追って連絡しまーす」

 ヘラっと笑って言う猫柳に、我慢ができなくなって、武藤は立ち上がると猫柳の頬を力一杯つねり上げた。

「いたたたた!」

「おい、ニコ柳」

「え、ニコ柳ってなに!?」

「へらへら笑って周りに合わせて遊んでる暇があったら、この部屋をどうにかしろ。でないと俺は、二度とここには足を踏み入れないからな」

「ひどい!武藤くんも遊びに来てよ!もしくはレポート!!」

「だったらせめて、足の踏み場を作れ!踏み入れないというか、踏み入れられる場所がないんだ!」

「……じゃあ、分かった。次のレポートの時は、武藤くんち行く」

「誰もそんな話……待て。次とか言ったか、貴様」

「来月にまたフィールドワークの予定があるんだ。今度は二泊だから、日にち決まったら事前に連絡するよ」

 淡々と言って「連絡先ちょうだい」と言ってくる猫柳に、武藤は僅かな頭痛を覚える。学習していないのか?それとも何も考えていないのか?

「ちょ、待て、お前、今までの話の流れ聞いていたか!?」

「うん。俺の部屋が散らかってるから、次は武藤くんの家使わせてくれるんだよね?ということは、次のフィールドワークにも付き合ってくれるってことだよね?」

 猫柳理論ではそういうことになるらしい。まったく理解できない。そもそもさっき「学部の違う友達を巻き込むことじゃ無かったなって、反省しちゃって」とか言ってなかったか?もう忘れたのか。鳥頭…いや、猫頭か。

「じゃあ決まり!よし行こう、さあ行こう!!」

「ちょ、ちょっと待て、俺はまだ行くとは………って、聞け!猫!!」

 嬉しそうな猫柳の顔を見て、どうしてこうなった!?と武藤は、


「だめだ……コイツとは意思疎通ができてる気がしない……」


 心底後悔することとなった。


次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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