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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<夏の章>
13/30

駄猫とレポート②

 猫柳の自宅は大学から徒歩で15分ほどのところにあった。武藤のアパートとは違い、玄関ホールへの入り口もオートロックがついている、小綺麗なマンションだった。家族住まいかと思ったが、聞けば単身者用のマンションで、猫柳も一人暮らしらしい。エレベーターで3階を押して、猫柳は部屋へと武藤を招き入れた。

 しかし、マンションが小綺麗だとも、『家の中』がそうであるとは限らない。

 武藤の家とも同じ、1LDKの部屋。面白いのがリビングにベッドが鎮座していることである。ちょっと意味が分からない。

 その隣の部屋は、勉強に使っているのだろう。机に椅子、あとは本棚ばかりだ。ここまではベッドのあるなしの差はあるが、武藤の部屋とあまり変わらない。違うのはたったひとつ。

「なぁ猫、俺はどこに座ればいいんだ…?」

「適当に座ってー」

「だから、その『適当』な部分が見当たらないんだが…。これじゃあ資料をピックアップどころか、まず見つけるのが難しいな」

「そう!そうなんだよ!!」

「威張るな!アホ猫が!!」

 散らばる様々なレポート用紙、論文のコピー、本、冊子、資料。無事と思われるのは机の上ぐらいだろうか。そこだけは、ペン立てとタブレット、そしてレポート用紙。それらが置いてあるぐらいだ。しかしよく考えれば当然だ。机の上まで同じ状況なら、猫柳に作業をする場所がないことになる。

 恐らく出したら出しっぱなしの性格なのだろう。散らばっている本の中には関係のない小説や、ファッション雑誌まである。一言で表すなら、これを混沌(カオス)と言うのだろう。

「これは……レポートの前に片付けが必要なやつじゃないか…?」

「いいよいいよ、その辺のものをこうやって隅にやって…」

 無理やり武藤の座る場所を作ろうと、猫柳が床に散らばっていたものを、ずさーと纏めて両手で奥に押しやる。しかし、そこで武藤はとんでもないものを見つけてしまった。

 猫柳に拉致され一緒に連れてかれたフィールドワーク。その先の神社で見つけた古文書。そのまま。そのもの。しかも無造作に床にポイっとされていて、つい今しがた、他の資料と共に猫柳にずさーとされていったもの。

「お、おい、猫…。なんでこれがここにある!?」

 慌てて古文書を拾い上げて、武藤は猫柳に詰め寄った。

「ちゃんと村長さんの許可取って『借りて』きたんだよ?」

「だったらもう少し『借りてきたもの』扱いをしろ!放り出すな!!」

「……だって、武藤くんが読むの早すぎて、全部書きとれてなかったから。でも借りたはいいけど、やっぱり俺には読めなくてさぁ」

「俺を言い訳にするのか?」

「そうじゃないよ!そうじゃないけど、まだ全文が読めてないから、重要な部分が分かってない気がして…」

「もしかして、手伝えっていうのは…」

「うん。もう一回読んで欲しい。今度は最後まで」

「………。」

 だったらもっと早くに頼めばいいものを。今の今まで何をしていたのだろうか、この馬鹿猫は。

「俺は…そんなに声をかけにくいか?」

「え?」

 思わず零れた言葉に猫柳が目を丸くする。

「分かってる。カタブツと呼ばれてるのも、自分自身、お堅い人間だっていうことも、ちゃんと自覚している。しかし、これは……駄目だろう?」

「違うよ!そんな風に思ったことなんてない!ただ……うん、学部の違う友達を巻き込むことじゃ無かったなって、反省しちゃって」

「それでこのザマか。本当に駄猫だな。お前に古文書が読めないことなんて、フィールドワークの時にもう分かっている。言えば断りなどしなかったのに」

「気を……使いすぎた?」

「そうだな」

「そっか…ごめん。じゃあ……読んでもらえる?そしてできれば、一緒にあのフィールドワークを思い出してほしいな」

「ああ。構わないぞ」

 手にした古文書の埃を掃って、武藤はそのページを捲ったのだった。


次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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