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化ける猫と黒縁眼鏡  作者: 佐伯 みのる
<夏の章>
12/30

駄猫とレポート①

 猫柳による武藤拉致事件が終わってから数日が過ぎた。その頃から武藤にはひとつ、気になることがあった。それを確認するために猫柳を捜すが、これがまた見つからない。どうでもいい時にはいるくせに、用のある時には見つからない。あちこちで遊び歩いているからなのだろう。

 今日はたまたまサークルの部室に顔を出そうと、ドアノブに手を掛けようとして、武藤の動きがぴたりと止まった。中から猫柳の声がするのだ。やっと見つけた、と思ったらイライラがMAXになって、武藤がいささか乱暴に部室のドアを開ける。

「おい猫!やっと見つけた!!」

「ん?あ、武藤くんじゃん。久し振り~」

「久し振り、じゃない」

「え、なに、何か怒ってる…?」

 他の部員に目もくれず、武藤はずんずんと猫柳の元へ歩いていく。猫柳より低い身長のため、見上げる形になるのも腹立たしいが、今は別件だ。グッと視線を鋭くさせて、武藤は猫柳を睨み上げた。

「お前、この前のフィールドワークのレポート、どうした」

「え、えっと……」

「当然完成させて、提出しているよな…?」

「も、モチロンだよ!!」

「ほう……ならば何故俺が民俗学部の人間に呼び止められて、『猫にレポート早くって伝えてくれないか?あとアイツだけなんだ。確かお前、同じサークルだったよな?』などと言われなくてはならなかったんだ…?」

「えっ、アイツら武藤くんに声かけたの!?」

「お前が見せびらかした写真の中に俺が写っていたそうだ」

「あっ……」

 そういえば、神社の階段を上り切ったあと、二人で夕焼けを眺めていた時に写真を撮った記憶がある。何枚か撮ったうちの一枚に、武藤が景色を眺めている横顔もあった。

「すぐにバレる嘘を吐くな。俺には通用しない」

「うっ…」

「目が泳いでるぞ、馬鹿猫」

「だだ、だって!まだ提出締め切りまで時間あるし!」

「……おい駄猫。ひとつ教えておいてやる」

「な、なに…?」

「締め切りまで時間がある、と言って、後で泣きを見て笑えるのは、夏休みの宿題をやってない奴と、作家や漫画家ぐらいだからな。覚えておけ」

 特に、テーマは違えどグループワークだったらしい。どうせ締切ギリギリになってヘラヘラ笑いながら出すに決まっている。

「武藤くん……じゃあお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「レポート書くの、手伝って!!」

「は?」

 思いもよらない言葉に、武藤は一瞬キョトンとし、すぐにその表情は歪められた。どれだけこっちに負担をかける気だ。

「俺、書くテーマを決めたりするのは簡単なんだけど、それに必要な資料とか、文献とか、ピックアップするのは苦手なんだよ!助けて!!」

「何度も言うが、俺は民俗学部じゃない」

「分かってるよ!でもそんなの関係ない!!」

「あるに決まっている、アホ猫!!まったく……締め切りはいつだ」

「明後日中」

「は?お前…本気で言ってるのか?」

「こんな事で冗談言わないよ!」

 だったらなお悪い。明後日で、レポートはこの感じでは手つかずで…?それの作成に力を貸せと、この馬鹿猫(ねこやなぎ)は本気で言っているらしいのだ。

「だったらせめてもっと早く言え!……くそ、俺の貴重な読書時間が…」

「え?なに時間って?」

「べ、勉強時間って言ったんだ!仕方がない……今回だけだぞ」

「本当!?やったー!!武藤くん、このあと受ける講義は?」

「ない」

「じゃあすぐにうちに来てよ!良かった、これで間に合いそう!!」

「もしかして…間に合わない前提でいたのか、貴様……」

「い、いやっ、そんなことないです!!」

「信用できん。まあいい、とにかく行くぞ。少なくとも仲間に迷惑をかけるんじゃない。明日には渡せる形に仕上げるぞ」

「分かった!じゃあみんな、ゴメンだけど今日は帰るね~」

 自分のカバンを引っ掴むと、さっさと出て行った武藤を追うように猫柳も部室を後にする。嵐のように過ぎ去ったそれを見送って、部室にいた環がぽつりと呟いた。


「……武藤くん、”猫”って呼んでたよね…?」

「いつの間に仲良くなったんだか」

「まったく接点が見えないですね……」


 共にいた柿原と坂本も、環と顔を見合わせこくりと首を傾げていた。


次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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