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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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もしも、 ヨウコと『夏のなごり』の涼子が知り合いだったら・・・(前編)

夜9時。


カランコロン


閉店前のオアシスのドアベルが鳴った。


「ママ、ごめん、もう閉店よね?」

「あら、ヨウコさんじゃない。どうしたの?」

「ちょっと、よそで飲んでたんだけど、つまんなくってママの顔見たくなっちゃった」

「ふふ、いいわよ。もう閉店だから、好きなところに座ってて。一緒に飲みましょ」


そう言うとママは、店の前の「OPEN」の看板を「CLOSED」に裏返した。


「ほんと? ありがとう。……でも、あそこのお客さん、いいの?」

「ああ、彼女もここの常連さんなの。そうだ、一緒でもいいでしょ?」

「もちろんよ。ママの知り合いなら大歓迎です」

「涼子ちゃん」

「ん、ママ、何?」

「もう閉店だから、こっちにきて一緒に飲まない?」

「え、いいの?」

「いいわよ」

「じゃ、お言葉に甘えて」


涼子は自分の席を立って、ママとヨウコがいるカウンター前のテーブル席に座った。


「あ、こちら、ヨウコさん」

「はじめまして、涼子です」

「こちらこそ、はじめましてヨウコです。ママにはいつもお世話になってるの」

「私もです」

「あら、お世話なんてしてないわよ。二人とも私の大事なお客さんです」

「ありがとう。ママ。 はぁ〜」


ため息をついた涼子を見て、ヨウコがママに訊いた。


「彼女、どうしたの?」

「ん? ああ、彼氏の部屋から出てきちゃったんだって」

「え、どうして?」

「まぁ、いろいろあるのよ。そうだ。ヨウコさんなら彼女の話し相手になれるんじゃない?」

「えー、私? ダメダメ、私はいい加減なんだから」

「そんなことないわよ。いつだって周りのことちゃんと見てるじゃない」

「そ、周りは見えるの。でも、自分のことはまるで見えない。 ああ、なんか自分が泣きたくなっちゃったな」

「あらあら、落ち込むなんて珍しいわね」

「私だって、そういう時あるのよ」


ママはいつ持ってきたのか、ワインのグラスを3つ置いて、そこに赤ワインを注いだ。そして、ヨウコと涼子にグラスを差し出した。


「じゃ、まぁ、二人とも似た境遇ってところね。とりあえず乾杯しましょう」


ヨウコと涼子はワイングラスを持って前に差し出した。

ママがグラスを重ねると、「カチャッ」と小さなガラス音がした。


三人はワインを一口飲むと、グラスをテーブルに置いた。

と、厨房から、マスターがママを呼んだ。


「ちょっと待ってて。片付けてくるから」


そう言って、ママは厨房の奥に消えた。

残された二人の周りには、どことなく気まずい空気が漂った。

耐えきれなくなったヨウコが声をかけた。


「えっと、涼子ちゃんだっけ? 一体、何があったの?っていきなり聞くのも失礼か」

「いえ、聞いてもらっていいですか?」

「いいわよ。何の力にもなれないけど、知らない相手にしゃべったら楽になるってこともあるかもしれないしね」

「そうですね。知らない人の方が話しやすい。私、昔、父親に乱暴されたんです」

「って、いきなり、そこから?」

「ああ、すみません。でも、ここから話さないとわからないと思って」

「そうなの。まぁ、話を聞いてみないとね。それで?」

「ええ、私、高校の時からずっと好きだった相手がいて。浩太って言うんですけど、高校出て3年目くらいに私から告白して付き合うようになったんです」

「へぇ、自分から?」

「はい。私から言わないとあいつ、絶対、自分から告白したりはしないんで」

「でも、ずっとそんな会話したことなかったんでしょ? よく思い切って言えたわね」

「ええ。実は、父とずっと暮らしてて、……ずっと、そういうことを強要されてたんです」

「えー、ひどい! なんで離れなかったの?」

「妹がいたから」

「妹さん?」

「両親は私が中1の時に離婚して、あ、私、四人姉妹の長女なんですけど、すぐ下の妹と私が父に引き取られて、その下の二人は母に引き取られたんです。で、高1のとき、父親とそういう関係になって……。嫌だったけど、私が我慢しないと妹に手を出すって言われて、それだけは絶対嫌だったから、ずっとその関係を続けてたんです」

「もう、なんてひどい父親なの!」

「でも、浩太に告白するちょっと前に妹は一人暮らしを始めて、何とかやっていけてるのを確認したから、もう我慢しなくていいって思って、花火の日……、あ、えっと、私、宇治にずっと住んでて宇治川花火を毎年、見てたんです。そこに浩太、毎年来てたから、きっと会えると思って待ってたら、やっぱり来たんで。ここで言うしかないって思って、自分からキスしちゃいました」

「え、自分から? やるねぇ〜。そういうの嫌いじゃない。っていうか好きよ」

「いやぁ、今考えると恥ずかしいことしたなって思うんですけど……」

「恋愛は恥ずかしいことするものなの。全然OKよ。それで?」

「で、その晩、そういう……関係になりました」

「お、早いね〜。嬉しかった?」

「そりゃ、嬉しかったですよ。だってずっと好きだった相手と両想いになれたんですから」

「よかったじゃない」

「ええ、それからは毎日のように浩太の部屋に押しかけて、料理作って、二人で食べて……。気づいたら一緒に暮らすようになってました。あの頃、一番幸せだったなぁ」

「そうなんだ。でも、そんなに好きな彼の元からどうして飛び出してきちゃったの?ケンカでもした?」

「ううん」


涼子は大きく首を横に振った。


「じゃ、どうして?」

「……強いて言えば、花火大会が廃止になったから。かな?」

「へ? 花火大会の廃止でケンカしたってこと?」

「そうじゃなくて。私たち、2013年の宇治川花火の日から付き合ってたんですけど、翌年、台風の影響で中止になって、それから復活することなく、先月、廃止が決まったんです」

「うん、知ってる。宇治川の打ち上げ場所が無くなったんでしょ? あと安全確保ができないってネットで見た」

「ええ。それ、すごいショックだったんです。浩太も私も。で、廃止が決まった夜、寝ようと思ってベッドに入ったんですけど、二人とも眠れなくて。ずっと沈黙が続いて耐えきれなくなって、浩太に『私、浩太に秘密にしてたことがある』って言ったんです」

「え、それってまさか……」

「そう、父親とのことです」

「じゃあ、それを彼に責められたってこと?」


涼子はまた首を横に振った。


「浩太は私の口に人差し指を当てて、『それ以上、言うな。涼子が傷つくだけだ』って」

「え、彼、知ってたってこと?」

「そうみたいです」

「知ってて一緒にいてくれたんだ。いい奴じゃない」

「そりゃそうですよ。私が好きになった相手ですもの」

「言うじゃない。 じゃあ彼が悪いことしたってわけじゃないのね?」

「はい。彼には何の落ち度もないです」

「なら、別に飛び出す必要なんてないでしょ?」

「そうなんですけど……なんか、いたたまれなくなっちゃって」

「どうして?」

「知ってたのに、何も言ってくれなかった。それは彼の優しさ。でも、私に本当のことを言わせてくれなかった。……私、彼にきちんと話して、許してもらいたかったんだと思うんです。でも言わせてもらえなかった。だから、このまま一緒にいても、この先、私の本当の気持ちを聞いてはくれないんじゃないかって感じてしまって。気づいたら、彼の部屋から飛び出してました」

「……そう。何となく、その気持ちわかるわ。彼、さがしに来てくれなかったの?」

「私がいなくなるってことは自分に至らないところがあったからだって思っちゃう人なんですよね、浩太は。だからさがしに来ないこともわかってました」

「それでいいの?」

「よくないです! だからため息ついてるんじゃないですか」

「あ、そういうことね。やっとため息の意味がわかったわ」


と、そこへママが戻ってきた。


「あら、もう仲良くなったみたいね」

「いや、仲良くってってほどではないけど、何となく涼子ちゃんの感性が私に近いかなって」

「私もヨウコさんと話してみて、なんか気楽に話せるなぁって」

「そう。なら、紹介してよかった。ヨウコさん、この子はね、私の学生時代の友人の娘なの」

「え、そうなの?」

「そう。この子のお母さんは子ども二人連れて離婚して、今は再婚してるわ。でも、再婚相手が外資系の人でね。今はアメリカに住んでるの」

「アメリカ?」

「そうなの。で、元々、神戸が実家だったんで、よくお互いの家を行き来してて。このお店始める時も真っ先に駆けつけてくれて。だから、涼子ちゃんが小さい時からよく知ってたの」

「そうだったのね。どうりで馴染んでいるわけだ」

「でね、いろいろあったのは知ってたけど、数年前に高校の時から好きだった人と付き合うことになったって報告に来てくれて。その時、本当に嬉しそうだったから、私、安心してたのよ。それが、今日、すごく沈んだ顔で店の前に佇んでたから、奥のテーブルに座らせて、閉店まで待ってもらってたの。話を聞こうと思って」

「あー、な〜る。そういうことね」

「でも、ヨウコさんが聞いてくれたんなら、もう私が聞かなくてもいいみたいね」

「いや、そんなことはない。と思うけど、どう涼子ちゃん?」

「はい、本当はママさんに聞いてもらいたくて来たんです」

「そう? じゃ、聞こうかな?」


涼子はヨウコに話したことをママにも話した。


「……そうだったのね。でも、それなら、彼の元に帰るべきじゃない?」

「やっぱり、そうですかね?」

「そうよ。帰って、きちんと話すべき」

「ママ、ちょっと待って。もちろん、それがいいと思うけど、人間、そう簡単には切り替えられないものよ」

「……まぁ、それはそうね。いいわ。少し落ち着くまでここにいらっしゃい。どうせ、働くところないんでしょ?」

「え、いいの?」

「もちろんよ。私もずっと立ち仕事で、このところ腰が悪くって誰かアルバイト雇いたいと思ってたところだから。ここの上の部屋空いてるから、そこで寝泊まりしたらいい」

「わ、助かる。じゃ、お言葉に甘えて」

「よかったね。涼子ちゃん。ってことでカンパ〜イ!」


ヨウコはワイングラスを持って、無理やりママと涼子にグラスを掲げさせて乾杯した。


「ふふ、こういうの、いいですね」

「あ、涼子ちゃん、笑うとかわいい!」


ヨウコがそう言うと涼子は真っ赤になった。


「ダメよ、この子、かわいいとか言われるのに慣れてないんだから」

「そうなの? こんなにかわいいのに?」

「かわいくないですよ。私なんか」

「あら、随分自信ないのね」

「そりゃ、ずっと引きずってきたものもあるし……」

「まぁいいわ。ここにいるなら安心だし、私も遊びに来やすくなるし、こうやって、ママと三人で飲める口実もできるし」

「口実なんかなくても、ヨウコさんならいつでも大歓迎よ」

「ありがとうママ。そうだ。今度はユキノも誘って四人で飲みましょ」

「ユキノさんって?」

「ああ、私の従姉妹なの。ここの常連。いつもカプチーノ飲むんだけど、すまし顔で飲んでるのに上唇に泡つけてて気づかないの」

「ダメよ、ヨウコさん。そんなこと言っちゃ。あなたにとって一番の理解者なんだから」

「そうでした。でも、きっと涼子ちゃんもユキノと気が合うと思うわ」

「はい。ヨウコさんがそういうなら……」


涼子はママの方を見た。


「大丈夫よ。ヨウコさんの言う通り、ユキノさんはしっかり者だから、あなたのこともちゃんとわかってくれる」


涼子は安心したかのように頷いた。


「じゃ、もう一度、乾杯」


三人は赤ワインのグラスを高々と掲げ、乾杯した。

オアシスの夜は優しく三人を包んだまま更けていった。


中編へつづく。

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