崇の休日
ある仕事休みの日。
俺は、朝からファーストフード店にいた。
ハンバーガーとブレンドのセットのトレイを手に席に座ると窓の外を見た。
今日は平日。
この時間になると学生も見えない。
穏やかな初夏の陽射しが窓から差し込んだ。
ハンバーガーをひと口かじりながら、考えていた。
(俺はずっとずっと、みゆきに助けられていたのかもしれない)
彩乃が失恋して学校を休んだ時も、
「授業のノート見せてくれる? 安岡君、字、綺麗だもんね。栗山さんの字にちょっと似てるなと思って」
って言ってた。
福仲先生と山峰公園で会った時も、
「高校の時、栗山さんが『崇にこれやらせて。こういうの崇が得意』って言ってた」
と聞いた。
そして、臨床工学技士になってこの病院に就職する時に書いた小論文も気づくとみゆきの文字を真似て書いていた。
採用が決まって、就職後に面接してくれた部長先生から、
「君の小論文は完璧だった。そして丁寧な文字。それが決め手になった」
って言われた。
俺はずっと、みゆきを忘れたいと思っていた。
トラウマになるほどのショックを受けた初恋の結末を延々と引きずっていた。
でも、彼女に出会ったおかげで、彩乃が「ノート貸して」と言ってくれ、『終止符』につながり、交差点のキスに繋がった。
そして『終止符』は福仲先生の人生にも影響することになった。
『終止符』のおかげでみゆきへの恋愛感情を断ち切ることができたと思っていたが、就職試験で、彼女が書いたような文字を書いてしまう自分。
そして、採用。
もしかしたら、これも、みゆきのおかげなのかもしれない。
そう気づいた時、俺は、はじめて、心から感謝の気持ちが湧いてきた。
俺は窓の外へ目を向けた。初夏の風が、街路樹を静かに揺らしている。
思えば、あの日から、ずいぶん遠くまで来た。
俺はひと口、ブレンドを飲みこんだ。
みゆきが好んだブラックのままで。
と、どこかで彼女の香りがした気がした。
俺は小さく笑って、誰にも聞こえない声で呟いた。
「ありがとう、みゆき」




