セカンドストーリーEXTRA3 第十二話の「ひみつ」の回収
セカンドストーリー第十二話(後半)
みゆきは深いため息をついた。
「あ〜あ、ここまで言われたら、もうしょうがないわね。彩乃、崇はあなたに譲ってあげる」
「……ありがと」
「『ありがと』か……。さっき、すごい勢いだったから、もっと何か言ってくるかと思った」
「言えないわ。だって崇君があなたのこと、ほんとに好きだったのは間違いないもの。私には言えない」
「もういい。もうやめにしましょ。二人とも帰って。これ以上、一緒にいるとコーヒーが不味くなる。お代はいらないから、ここから出てって」
「……わかった。彩乃、帰ろう」
「うん」
俺と彩乃は部屋を出ようと扉に手をかけた。
すると、彩乃が、
「ちょっと待ってて」
そう言って、みゆきの元へ走って行った。
そして、一言二言、話したかと思うと、すぐ戻ってきた。
「何、話したの?」
「ううん、大したことじゃない。ただ、みゆきに少し言いすぎたから謝っただけ」
「そう。みゆき、なんて?」
「ひみつ」
「え、ひみつ?」
「女同士の会話の内容を聞きたがるなんて失礼だぞ」
彩乃は、さっきまでのこわばった表情から変わって、やさしい顔でそう言った。
「わかったよ。聞きません」
「何よ。怒った?」
「怒ってません」
「もう、すぐ拗ねる。子どもね」
「どうせ俺は彩乃に転がされてる子どもですよ」
「崇君、いい加減にしなさい」
「ハイ、もう言いません」
二人は笑いながら店を出た。
出てゆく二人の後ろ姿を二階の窓から、みゆきが見つめていた。
ユキノはヨウコが創った『オアシス』の二階にやってきた。
「いらっしゃい。ユキノ」
「こうしてみるとしっかり作ってあるわね」
「そうでしょ? 崇達が夏休みで花火見てる間に完成させたんだから」
「頑張ったわね」
「ユキノのお城であるラブホほどじゃないけどね。何か飲む?」
「じゃ、アイスティーを」
「アイスティーなんだ。カプチーノかと思った」
「最近、ちょっとアイスティーなの」
「ふ〜ん。まあいいわ」
ヨウコは厨房からアイスティーと自分のブレンドを用意してテーブルに置いた。
「ヨウコ、その後、どう? 立ち直れた?」
「私にそれ言う? あれだけ木っ端微塵に粉砕しといて」
「あ、ごめん。まだ立ち直れてなかったか」
「立ち直るどころの騒ぎじゃないわよ。もうちょっとでしんTAKAさんとあやしい関係になるところだったわ」
「バカねぇ」
「そ、バカなんです。ユキノの掌で遊ばれてるとも知らないで必死に攻略しようとしていた私がバカ」
「でも、なかなか善戦してたわよ」
「何よ、その見下した言い方」
「あ、そう聞こえた? でも、結構、苦戦したんだけどな」
「苦戦? どこが? ラブホを作戦室にしてまんまと崇を引き込んだくせに」
「まぁ、それは戦略だから。でもヨウコの作戦室はいかにもヨウコっていうお部屋よね」
「まぁ、自分の趣味の部屋だからね」
「ここで、みゆきと対峙した時に、崇がみゆきの詩にいっぱい曲をつけてたって聞いた時は、一瞬、負けると思ったわ」
「ウソ。あんな余裕ある顔してたのに? まぁ、確かにあの一瞬だけは表情が曇ってたわね。だから『ここだ』って思って攻めたんだけど、崇の援護がすごかった」
「うん、あれで助かった」
「あの後、そう、彩乃に『崇、譲ってあげる』って言った後、私のところに話しにきたでしょ。『危なかったぁ』って」
「うん。崇に『ちょっと待ってて』って言ってあなたのところに行った時のことよね」
「そう。あそこであなた、なんて言ったか、覚えてる?」
「何て言ったっけ?」
「もう、これだもんね。『私が弱気になったら崇が助けてくれるから、私は負ける気がしない』って言ったのよ」
「あら、そんなこと言った?」
「言ったわよ。それに『このあと、私がどう攻略するか、しっかり見てて』って」
「ああ。確かに言ったわね。で、しっかり見てたんでしょ?」
「見てたわよ。だからラブホのテーブルの上にビール置いたんじゃない」
「そう、あれ、ありがたかったわ。まぁ、ヨウコが置かなくても自分で用意するつもりではいたけどね」
「え、そうなの?」
「どこまでも用意周到な『彩乃ちゃん』ですから」
「周到なのはユキノでしょ。はぁ、オアシス出てからは、ほんとに何もできなかったなぁ。こうなるってわかってたら、崇がみゆきにキスした時にもっと迫っとくんだったぁ」
「そうね。その方が良かったかもね」
「って、どうせ、それじゃ上手く行かないってわかってたんでしょ?」
「うん」
「やけにあっさりね」
「そりゃ、崇のこと、しっかり研究してるもん」
「はぁ、これだから嫌になっちゃう。まぁ、あのまま行っても崇はそれ以上は踏み込まないだろうし、彩乃に負けを認めさせる展開には持ち込めなかった。それだけの策も考えてなかった私の負けね」
「そういうこと。おかげ崇とハワイ行けたし、良かったぁ」
と、ユキノは氷の溶けかけたアイスティーにストローを刺した。そして蛇腹の部分を器用に捻じ曲げると、ひと口、アイスティーを飲んだ。
「ユキノ、そんな癖、あったっけ?」
「え、なんのこと?」
「そのストロー曲げる癖」
「ああ、これ? 崇が昔、好きだった人がやってた癖みたいなのよね。崇が無意識にやってるの。なんかそれ見るのが悔しくて自分もやるようになったの」
「え、でも、それ、嫌じゃないの? 前の彼女の癖なんでしょ?」
「うん、嫌」
「じゃあ、なんで?」
「だから、曲げる方向を反対にしたの。蛇腹の部分の下を最初に左に曲げてたんだけど、それを右に曲げるようにしたの」
「そんなことしたって……」
「それで、崇に左からじゃなくて右から曲げるように言ったの。だから今はもう崇も右から曲げるようになった」
「それって」
「そう、癖を上書きさせたの。人間ってね、癖を直そうとかやめさせようとしても無理なの。そんな時は新しい癖をつけさせるの。これしかない」
「はぁ……、やっぱり敵わない。ユキノ、天才だわ」
「天才じゃないわよ。どれだけ相手を見てるかってこと。ヨウコ、今回だって、あなた、崇を見てるって言いながら、どこかで自分を見てたでしょ?だから私に勝てなかったの」
「じゃ、あの時、『まだまだ負けないわよ』って言った私って、ああ、そうか自分のことしか見てなかったんだ」
「それに気づいたら、今度は、まぁ、今度があるかどうかわからないけど、相手のことを真っ先に考えることね」
「わかった。でもユキノ、覚えておいて。この借りは絶対、返すからね」
「返すって?」
「今じゃないけど、将来、必ず」
「ハイハイ、忘れないようにしておきます」
そして、その将来は二十年近く経ってやってくるのであった。
セカンドストーリー第十二話の「ひみつ」の回収でした。
二十年後の借りのお返しは FINAL STORY EXTRAでご確認ください。
あと、崇の癖は、FINAL STORY EXTRA4でご確認ください。




