もし、恵理が彩乃の存在を知っていた場合の第一話の構想
最初はこんな展開も考えてたんです。
俺は大学を出てダイコー精密機械という会社に就職した。
五年目の今は、品質管理課で働いている。27歳になった。
主に開発製品の実験を行なっての評価を受け持っている。
恵理は営業部に入って2年目の子。今年、24歳。
ある日、ライブハウス『Here After』の看板を見つけ、フラッと入ると、見たことのある子がステージで歌っていた。
(あの子、確か営業部の……)
そして、ライブ後に声をかけ、同じようにギターを弾き、歌を創るもの同士としてすぐに意気投合。一緒にステージに立つようになった。
ある日、『Here After』に行くと、恵理が俺に声をかけてきた。
「シーさん、歌蓮って人、知ってる?」
シーさんとは、崇の『し』を抜き出して彼女が言い出した、俺の呼び名だ。 もちろん仕事場では使っていない。
「カレン? いや、まだ見たことないけど」
「昨日、私、見たの。 ピアノで弾き語りする彼女を」
「へぇ、ピアノの弾き語りなんだ」
「うん。スゴいよ。 シーさんも見たら、絶対、感動する」
「へぇ、そうなんだ。 マスター、歌蓮さんってマスターの知り合い?」
「ああ、彼女のお母さんも昔、ここで歌っててね。 歌蓮ちゃんも小さい時から知ってて、自分で歌作るって聞いてたから、前から誘ってたんだけど、『まだ自分の作品に自信がない』ってずっと断られたんだ。 でも、この前、やっと出てくれてね。 かなり反響があったよ。 彼女も自信を持ったみたいだな。 今度の土曜、また演奏してくれることになった」
「へぇ、マスターの肝入りってこと?」
「まぁ、そんなところ」
「じゃ、一回、見ないとね。土曜日、また来るよ」
「そりゃ、いい。 彼女、喜ぶと思うよ」
「え、なんで?」
「安岡君に興味あるみたいだから」
「え、シーさんのこと、知ってるの?」
恵理は急に不安な顔になった。
「シーさん、知ってる人?」
「いや、知らないよ。 マスター、どういうこと?」
「まぁ、彼女に会えばわかるよ」
俺はわけがわからず、恵理はますます不機嫌な顔になった。
「シーさん、どういうこと? 私の他に好きな人がいるの? 彩乃さんとは別れたんでしょ?」
「おいおい、落ち着けよ。俺もわけわかんない。 彩乃にだって、もう三年以上も会ってないし」
ーー五年前。
俺は彩乃との将来を考えていた。
だから大学を卒業する時、地元の企業を選んだ。
彩乃と俺の実家の近くの会社なら、将来的に親の面倒も見れるし、何かあっても、すぐに行き来できると考えたからだ。
彩乃も俺の考えを喜んでくれた。
彼女も卒業後、地元に保育施設で働き始めた。
俺たちにはなんの障害もなかった。
……四年前までは。
「シーさん、何考えてるの?」
恵理の声で我に返った。
「いや、別に」
「ウソ。 明らかに彩乃さんのこと考えてる顔してた」
「恵理には敵わないな。その通りだよ」
「もう、妬けちゃうな」
「妬かなくてもいいだろ。彩乃はもういないんだから」
「だから悔しいのよ。直接、文句言うこともできない」
「ああ、そうだな。でも彩乃だって、恵理に文句は言えない」
「……そうだけど。 ああ、悔しい」
「それに、俺たち、付き合ってるわけじゃ、ないだろ?」
「え、付き合ってないの?」
「ないだろ。 そんな話、したことないし」
「ちょっと、表に出よ」
恵理は、急にそう言って、俺を『Here After』の外へ連れ出した。
「どうしたんだよ?」
「マスターのいるところで話すことじゃないと思ったから」
「ああ、まぁ、そうだな」
「で、さっきの話、付き合ってないってことについてだけど……」
「うん、何?」
「『私と付き合ってください。お願いします』 これでいい?」
恵理は俺に頭を下げた。
「なんで急にそんなこと言うんだよ。 まぁ、ちょっと俺が意地悪だったかもしれないけど、俺はお前のこと好きだし、お前の気持ちもよくわかってる。 でも、そうできない理由もわかってるよな?」
「わかってるわよ。でも、今、言わないと後悔しそうで……」
「なんで?」
「あの『歌蓮』って女性に会ったら、シーさん、絶対、なんらかの影響を受ける。そして取り返しのつかないことになる。私にはわかるの」
「え、わけわかんない。会ったこともない女性なのに?」
「……そうね。でも、私にはわかるのよ!」
「じゃあ。俺をその子に会わせなきゃいいんじゃない?」
「そうはいかないのよ。私が阻止しても、あなたはきっと彼女に会ってしまうわ。運命の糸に導かれてね」
「運命の糸?」
「俺がその『カレン』って子に恋するってこと?」
「ええ」
「ずいぶんはっきり言うなぁ」
「少なくとも、彼女の歌にあなたは虜になるわ。そして前後の見境がなくなる。そうなるのが怖いのよ」
「へぇ、恵理がそこまで言うんなら、逆に会ってみたくなったな」
「シーさんがどう思うおうと、必ず会うことになるわ。でも、今はまだ会っていない。だから、今しか私がシーさんに入り込める時はないの。お願いシーさん。私をあなたの彼女にして」
「『して』も何も、気持ちの中では彼女だよ。ただ言葉にも形にもしてこなかっただけ」
「わかってる。でも、もう一度だけ言う。私をあなたの彼女にして」
恵理はそう言うと、一歩だけ近づいた。
「おい、恵理……」
次の瞬間、恵理は背伸びをして唇を重ねた。
「な、何を……」
俺は動揺した。
「これで形にしたことになるでしょ?」
「あ、いや、そうだが……。こんなのは……」
「私、ずっと待ってたんだからね。シーさんがキスしてくれるの」
「え?」
「シーさんの気持ち、わかってるからこそ、シーさんがそういう気持ちになるまで待つって決めてたってこと」
「……ああ、そうだな。……俺も気づいてた。でも、まだその時期じゃないって」
「うん。私もそう思ってた。でも、彼女を見てピンと来たの。私がシーさんを守らないとって」
「守る?」
「そう、守るの。それは私にしかできないことだかなら」
「よくわからないな。でも、恵理の本気はわかった。ありがとう」
「じゃあ……」
「ああ、恵理の言うとおりにしよう」
「ありがと、シーさん」
俺たちは、その日から恋人になった。
これを書いてる時点で、EXTRAが先にできてしまったので、この形でスタートすることができなくなったんです。
ここからの世界線も見て見たかったかな? 笑




