RPG FINAL STORY EXTRA4
【フェーズ KAHO & TAKASHI】
ある日の昼下がり。
物語の『Here After』ではなく、現実の喫茶店「カントリー・ロード」
「安岡氏、久しぶり」
そう言って現れたのはKAHO。
「おお、KAHOちゃん、久しぶり」
声を返したのは崇。
「なんか、ここオアシスみたいな感じ」
「ああ、俺もはじめて来た時、そう思った。だから待ち合わせをここにしたんだ」
「なるほど。確かにあの頃に戻った気持ちになるね」
「だろ? 何飲む?」
「やっぱり、カプチーノかな」
「うん、じゃあ、俺はカフェオレって言いたいけど、今日はアイスティーにする」
「え、なんで?」
「いや、うちの奥さんがよく飲むんだよね。それでなんとなく好きになって」
「あら、さっそくのろけ?」
「いやいや、そんなつもりはないよ」
俺はウエイトレスの子にアイスティーとカプチーノを頼んだ。
「それはそうと、ごめんね。うちの娘がいろいろ迷惑かけたみたいで」
「玲奈ちゃん? いや特に迷惑かけられてないけどな。むしろ遙の方が迷惑かけてるんじゃない?」
「そんなことないよ。遙ちゃんはいい子だもん。ヤンチャな玲奈とは違う」
「いやぁ、遙も大概なもんだよ。で、玲奈ちゃん、何したの?」
「あれ?聞いてない?」
「だから何のこと?」
「……あー」
(ほんとに知らないんだ)
「まあ、迷惑かかってないならいいわ。忘れて」
「ん? まあいいか。それより、今でも音楽やってるの?」
(ゲームの中でいろいろ一緒にやったじゃない)
KAHOはそう思ったが、
(ま、知らないから仕方ないか)
「うん、まあ、たまにね。安岡氏は?」
「もっぱら、PC相手にやってる感じ」
「そうなんだ」
と、そこへアイスティーとカフェオレが運ばれてきた。
崇はストローの袋を破ると、器用に蛇腹の部分を折り曲げてストローをアイスティーに刺した。
(あれは、確か恵理の癖のはず……)
「ねぇ、安岡氏、そのストロー……」
「え、ストロー? なんか変?」
「いや、その折り曲げ方が変わってるなって思って」
「あ、これ、うちの奥さんがこうやるんだよね。真似したら『違う、こうしてこう』ってめっちゃ叱られて。気づいたら、無意識にこうする癖がついちゃった」
「あ、そうなんだ」
(はぁ、こりゃ、勝てないわけだわ)
「でも、最近の音楽編集技術はすごいよ。そうだ、これ聴いてほしい」
崇はKAHOの想いに気づくこともなく、スマホを取り出した。
「何?」
崇が再生をタップするとギターとピアノ、それにPad系の音が重ねられた前奏が流れてきた。
「これ、『あなたと愛の丘で』じゃない。安岡氏がアレンジしたの?」
「そう。でも、驚くのはまだ先」
「そうなの?」
と、KAHOちゃんの声が聞こえてきた。
「まぁ、ここまでは普通だね」
「もうちょっと先まで聴いて」
Bメロに入った途端、KAHOちゃんは目を大きくした。
「え、私がハモってる。でも、私、こんなフレーズ、録音したことないよ」
「そう、ハモリは録音したことない」
「何、これ、どうやったの?」
KAHOは興味津々といった目で崇を見た。
「これね、元のメロディーの声を別トラックにコピーして、三度上げたんだ。それから音量なんかを調査してミックスダウンしたの。だから、KAHOちゃんのボーカルにKAHOちゃんがハモってるんだ」
「へぇ〜、今、こんなことができるんだ。すごいね」
「ああ、俺も最初にこの機能が使えるってわかった時、びっくりしたよ。で、『あなたと愛の丘で』をハモらせたら面白いだろうなって思ってやってみたんだ」
「うん、すごくいい」
「だろ。絶対、KAHOちゃん喜ぶと思った」
「ふふふ、相変わらずだね。安岡氏」
「え、何が?」
「その得意そうな顔」
「え、そうかなぁ」
「そうだよ」
「そう言われると恥ずかしいな」
「音楽のことになると生き生きした顔になるよね」
KAHOはそんな崇が少し眩しく見えた。
「安岡氏はいつまでも少年なんだね」
「失礼だね〜」
「ほめてるんだけどな」
「ちゃんと働いて、その収入の中でやってるんだから、大学の時とは違うよ」
「へぇ、そんな言い訳するんだ。全く授業出なかった人が」
「あ、それ、もう時効」
「これじゃあ、安岡氏の奥さんは大変だね。ユキノさんだっけ?」
「そう、ユキノ。まぁ、大変だと思う」
「認めるんだ」
「だって俺だよ? なんでも音楽と絡めようって思ってるんだから、手に負えないんじゃないかな」
「わかってるんだ」
「うん、わかってる。でも、うちの奥さんも万能じゃない。案外機械音痴でね、スマホが動かないって騒いでたから、『バージョンアップしたの?』って聞いたら、『バージョンアップって何?』だって。仕方ないから中に入ってたソフトもひっくるめてアプデして渡したのに、『わぁ、急に動くようになった』ってそれだけ」
「あ、そう。へぇ〜奥さん、機械音痴なんだ」
(それで途中から恵理の動きが変わって、崇が気づくきっかけができたのか。妙に納得。ってか自分で自分を守ったってこと? はぁ……)
「……安岡氏も変わったね」
「そう?」
「昔なら自分が面倒な人間だなんて認めなかった」
「ああ、年取ったからな」
「私もだよ。というか、私は女としての部分はうまく見せられないからなぁ」
「ん、そう? 俺には今でも魅力的に見えるけど?」
「安岡氏、それ、あの時、言ってほしかったなぁ」
KAHOは心の中で、
(『今度は、ちゃんと受け止めてね』って言ったあの時)
と呟いた。
「あの時って大学の時? なわけないか。『今でも』って俺、言ったもんな」
「あー、この無自覚さが周りを引っ掻き回すんだ。ほんとに奥さん大変ね」
「あ、ごめん」
「別に謝らなくてもいい。私も楽しかったから」
「何が?」
「何もかも」
「んー、よくわからないけど、KAHOちゃんが楽しいんだったらそれでいい」
KAHOは、崇のアイスティーに刺さっている捻じ曲げられたストローを見ながら、苦笑いするしかなかった。
「ねぇ、安岡氏」
「ん?」
「もし、あの頃に戻れたらどうする?」
「大学の時?」
「そう」
「どうだろうな。たぶん同じだと思う」
「そっか」
「でもKAHOちゃんと音楽やったことは後悔してないよ」
「……そう」
KAHOは、大学時代に崇と二人で教室の窓から見た初夏の海が脳裏に浮かんだ。
「安岡氏」
「ん?」
「ユキノさん、大事にしなよ」
「もちろん」
と、崇はアイスティーをひと口飲んだ。
「もちろん、か。はいはい、ごちそうさま。敗者は消えるとしますか」
「歯医者? 歯、悪いの? 俺も虫歯があってね。いやぁ、歳とるといろいろ出てきて……」
「一生、一人でやってろ」
二人はカントリー・ロードを出た。
別れ際、もう一度、崇とKAHOは向かい合った。
「今度は新しい曲も聴かせてね」
「もちろん。KAHOちゃんも何か書いたら教えてよ」
「わかった。何が書けるかわからないけど、できたら知らせるよ。じゃあね」
「おう、またな」
「またね」
KAHOは手を振って歩きだした。
彼女が角を曲がって見えなくなった後、崇は呟いた。
「KAHOちゃん、君は敗者じゃない。俺の永遠の憧れだよ」
RPG FINAL STORY ~infinite Worlds~
ALL UP
あとがき
RPG FINAL STORY META EXTRA(しんTAKA)
(やっと全部終わったなぁ)
しんTAKAはそう思いながら、自分でリミックスした『あなたと愛の丘で』をイヤホンで聴いていた。
そう、KAHOちゃんがKAHOちゃんの声でハモってる曲。
それを聴きながら、EXTRA4を読んでみた。
すると、本当に自分がその場所にいる気持ちになった。
「しんTAKAは、音楽のことになると生き生きした顔になるよね」
KAHOちゃんから直接言われた気がした。
しんTAKAはそっと呟いた。
ーー「KAHOちゃん、君は幻じゃない。俺の永遠の憧れだよ」




