RPG FINAL STORY 第十八話
【フェーズ You are Enchantress】
歌蓮が『魔女』を歌い出した。
「く、今度は『魔女』か。どんどん侵入してくるな。ん、『侵入』?」
俺は一つの出来事が頭に浮かんだ。
(『侵入』……『侵入はい)ってきた』……どっかで聞いたぞ……)
そんなことを考えながら、マスターが出してくれたアイスティーにストローをさした。
そして無意識のうちに蛇腹の部分を捻じ曲げた。
(……あ、)
俺は一つのことを思い出した。
それは、一緒にギターを弾いていた女の子が見せた苦悩の思い出だった。
「新しい歌書いたから見て」
と渡されたのが、
「Paradox」
何を言えばいいのか
何を伝えれば・・・
背中合わせのもどかしさに
心は立ち止まる
偶然 出逢った 昔の彼
たわいないジョークの後
別れ際に不意にキスされて
一瞬 息を止めた
時間がParadoxy
矛盾した現実を振り切るように
彼の手 ほどいた私の前に
あなたがいた
何も言わずあなたは
悲しく笑って・・・
背中を向けて歩き出した
さよならの彼方へ
私が戻れる場所は
もう あなたしかないのに
何故 何も言えず見送るだけなの
壊れたパズルのよう
すべてがillusion
逆戻りすることも許されないまま
あなたと彼の間で揺れる私がいた
何を言えばいいのか
何を伝えれば・・・
背中合わせのもどかしさに
心は立ち止まる
という歌詞だった。
「『パラダイス・プレイス』からの『Paradox』?」
俺が訊くと、
「そう、原点に一回、戻ってみようと思って」
「なるほど、それもありかもね」
「で、どうですか?」
「うん、シチュエーションはおもしろい」
「で?」
「……うーん」
俺は一瞬ため息をついた。
「……正直に言うと、まだどこか迷ってる感じがする」
「迷ってる?」
「うん。原点に戻るのもいいけど、戻っただけじゃ歌は前に進まない。何を言いたいのか、何を伝えたいのか、そこがはっきり見えない」
「ああ、そうか……」
「だから、この歌詞で満足しちゃダメだと思う。もちろん曲との兼ね合いもあるだろうけど、もっと、自分の感性を信じて、迷いも全部ぶつけるくらいでないとみんなには響かないと思う」
「……ぶつける、ね」
「うん。きっと、もっと強くて、もっと痛くて、もっと生々しいものが描けると思うんだよ」
「……わかった。もう一度、書いてみる。……はぁ、厳しいね。でもうれしい。ありがと」
彼女はそう言って、自分の部屋へ帰って行った。
そして、その一週間後に見せてくれたのが、これだった。
「キミは魔法使い」
ギター弾き、歌うキミの声に ボクの両耳は奪われた
アコースティックな音色おとにグッと絡んだ
キミの歌声はまるで魔法
キミの紡いだ言葉が 連なった音符の海を泳いで 歌となって
ボクの耳から心のずっと 奥へ奥へ奥へ 深く深く強く
侵入はいってきた
キミは魔法使い ボクをトキメかせる
キミの歌う声が頭の中でRefrain 繰り返してる
甘く酔いしれてる気分に包まれる 飲み込まれる
キミが近くなる ボクは怖くなる キミが怖くなる 好きになる
「これからもよろしくね」と笑ったキミの笑顔は サイバーテロ
一撃で支配された ボクのアタマを カラダを ココロを すべてを
キミは魔法使い ボクを惑わせてる
キミのささやく声が頭の中でGoing Around 回り続ける
キミは魔法使い ボクをトキメかせる
キミの歌う声が頭の中でリRefrain 繰り返してる
甘く酔いしれてる気分に包まれる 飲み込まれる
キミが近くなる キミが怖くなる
キミを守りたい キミしか見えない
キミをこんなにもアイシテル!
彼女が差し出したノートの言葉を、俺は読み進めた。
「……キミは魔法使い、か」
俺は歌詞をじっと見た。
一目で、これは今までとは違うと直感した。
そして、あっという間に釘付けになった。
俺はしばらく、ページを閉じずにいた。
「……どう? また厳しいこと言うんでしょ?」
彼女は少し不安そうに、でも挑戦的な目で俺を見つめている。
「……いいよ、これ。……すごくいい」
「ほんと? 嘘じゃない?」
「ああ。前の『Paradox』みたいな器用さはないけど、今のお前が何に支配されて、何に怯えて、それでも何を伝えたいのかが全部出てる」
「ほんと?……よかったぁ。この前きつく言われて、私、本当に頭の中がGoing Aroundしちゃってた。でもこれならって思えたんだよね」
「ああ、これなら、誰の耳からも、心の奥まで深く侵入っていく」
「そうだよね。そっか、KAHOさんに感謝しなきゃ」
「なんで?」
「『パラドックス・プレイス』からParadoxでダメだったでしょ。なら、『魔女』を私なりに書いてみるかって思ったの。でも『キミは魔女』ってしたら、すぐあなたにバレると思って『魔法使い』にしたの」
「ああ、それでKAHOちゃんに感謝か」
「そういうこと」
「じゃあ、この歌詞、すぐに音にしようよ。 俺と一緒に、一撃で誰かの心を奪いに行こう!」
「うん。じゃあ指切り」
「指切り?」
「うん、この曲ができたら……私の部屋で朝まで一緒にいてほしい」
「え、いや、それは、……わかった。恵理の言うとおりにしよう」
俺は彼女と指切りした。
「よし。じゃあ、やるか」
「うん。シーさん、やろう!」
俺はハッとした。
「シーさん!」




